街まで買ひ物に降りて行つた帰り道で?が横たはつてゐるのを見た。いつものやうに考へごとをしながら歩いてゐたので、それまで気が付かなかつた?の声にも、それで気が付いた。うるさいとは感じなかつた。
?の死骸を見てゐると、七年前に産み落とされたのかと思ひ、さう言へば私自身もこの町に来てこの七月で七年になるといふことがつながつた。地中にゐた七年は、この夏の太陽に出会ふためだけに費やされたのであらうが、私自身はそれほどの大きな目的を達成するために月日を生きてゐない。ただ、過ぎた七年が思ひ出されただけだつた。
そして、今年産み落とされた卵は静かに七年後の太陽に出会ふ日を待つのであらう。?の死骸の乾燥してじつに軽い質感は、死の悲しみを和らげてくれるが、待つといふことだけに費やされてゐる七年間の重みをずしりと感じてしまつた。
そのあと?の死骸を見ぬままに上り坂を登つて行つたが、蝉の声は今も聞こえてゐる。