劇団昴の女優、新村礼子さんが亡くなつた。今朝、新聞を讀んで驚いた。名演「セールスマンの死」(アサー・ミラー原作)のリンダ役を思ひ出した。雨の降る夜、夫のウィーリー・ローマン(久米明)の遺體を埋めた後に、舞臺中央に傘を差しながらしやがみこみ、涙をいつぱいに溜めて客席のどこかの一點を見つめてゐる姿が忘れられない。平成四(1992)年の十一月だつたと思ふ。そのあまりの力にしばし座席から立てなかつた。前から二列目か三列目であつたと思ふ。觀劇の幸運に滿された時間だつた。それからもかなりの數の芝居を觀たが、未だその芝居以上の感動には出會つてゐない。
昴の本據地だつた三百人劇場がなくなつたが、今も役者たちを束ねてゐる杉本了三さんには御會ひする度に、「再演を」と御願ひしてきた。しかし、役者の都合もあつて難しいと言はれてゐた。新村さんがいらつしやらなくなつたのでは、私ももう期待はしない。それほどに、彼女のリンダは素晴しかつたのだ。
心から冥福を祈る。
新村 礼子さん(にいむら・れいこ=女優、本名内田礼子〈うちだ・れいこ〉)23日、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患で死去、83歳。葬儀は近親者で営まれた。喪主は俳優の夫内田稔さん。
内田さんらとともに劇団昴を創立した。舞台「セールスマンの死」で1992年度に文化庁芸術祭賞、紀伊国屋演劇賞を受賞した。
以上は、朝日新聞からの轉載だが、「創立した」と言ふのは間違ひだらう。