昨年の8月10日にこの著者は47歳の若さで亡くなつた。それを知つたのは少し経つてからだと思ふが、この著者の存在が気になり本は買つてゐた。本は大分前に買つてゐたが読んでゐなかつた。読んでゐれば、きつと何かを書いてゐたと思ふ。
最初に手にした本は、『君に友だちはいらない』だ。購入日を書く習慣があるので、それを見ると2013年12月8日とある。発行日がその年の11月15日となつてゐるので、割合早い時期に買つてゐることになる。しかし、読んだのは今年の6月。つい先日だ。そして、今4冊読み終はつた。正直に言へば、どの本も同じやうなことが書かれてゐる。エンジェル投資家と自称するこの著者は、絶えず若者を激励する。そして、その激励は応援歌を謳ひ上げるのではなく、具体的な武器を与へるスタイルである。それは交渉術であつたり、戦術であつたり、教養の重要性だつたりと言葉の武器だ。何度も何度も学生たちを前に語つてゐた。京都大学や東京大学で教鞭を取り、学生からは絶大な支持があつたやうだ。それはさうだらう。その文章からも熱い励ましが感じられるからである。
表題に掲げた本は、2012年に東京大学での講義を活字化したものである。2020年ごろには日本の将来はある程度見えてゐるだらうから、8年後の同じ日(6月30日の火曜日)に会ひませうといふ言葉で終はつてゐる。講義の最後のスライドには「Do Your Homework」と書かれてゐたといふ。つまり、今後8年間各自の課題を果たして再会しようといふことのやうだ。
その日が明後日に迫つた。ご本人はまつたく予想もしてゐなかつただらうが、もう彼はゐない。しかし、きつと東京大学にはその時の受講生が集まるのだらう。そして、彼からもらつた武器を使つて得た戦利品の報告をし合ふに違ひない。
まれに見る扇動家であり、伝道師であり、事業家である。麻布中学出身であるといふのがなるほどと思つてしまふが、やはり自由な気風の中でしかかういふ人物は現れて来ないのだらう。いやいやかういふ人物だから麻布を選んだのかもしれない。それほどに革命家の養分がそこには蓄積されてゐるのだらう。
彼の言葉で知つたのは、時代の変革は世代交代でしか起きないといふ峻厳なる事実である。ガリレオの地動説も彼の時代には受け入れられなかつた。カトリック教会が反対しただけではなく、天動説を信じてゐた人たちが生きてゐる間には、「真実」は真実にはならなかつたからである。
武器が社会を変へるには、はやり時間がかかるといふことなのだ。瀧本氏の死はあまりにも早すぎるが、まさか自らの死を以て世代交代を早めようとしたなどとは思ふまい。あまりに惜しい早逝である。合掌。