言葉の救はれ・時代と文學

言葉は道具であるなら、もつとそれを使ひこなせるやうに、こちらを磨く必要がある。日常生活の言葉遣ひを吟味し、言葉に学ばう。

メルヴィル『ビリー・バッド』新譯出來

2009年08月15日 09時36分24秒 | 本と雑誌
ビリー・バッド ビリー・バッド
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2009-08-07

   名著『常に諸氏の先頭に在り――陸軍中將栗林中道と硫黄島戰――』の著者、留守晴夫先生が、この度メルヴィルの遺作『ビリー・バッド』の新譯を出された。

  この三月に、早稻田大學を定年を待たずして御辭めになり、これからは飜譯と文筆とに力を注ぐと言はれてゐたが、その第一彈がこの本である。これまでの譯本とは一線を畫す先生の飜譯をじつくりと堪能したい。

  紹介文を引用する。

「こんな素晴らしい物語は讀んだ事がない。ああ、こんな作品が書ければよかつた」と、死期を間近に控へたトマス・マンをして叫ばしめた、ハーマン・メルヴィル最後の傑作『ビリー・バッド』を正統表記の新譯で送る。

十八世紀末葉、イギリス海軍の軍艦上で、善良な若き水兵ビリー・バッドが、自らを陷れようとした惡黨の下士官クラッガートを毆り殺すといふ事件が起る。時はフランス大革命から間もないヨーロッパの危機の時代で、「舊世界に於けるほぼ唯一の自由で保守的な強國」たるイギリスに於てすら水兵の叛亂が續發し、國民の心膽を寒からしめてゐた時期だつた。高潔で有能な海軍軍人たる艦長のヴィアはビリーにいたく同情しつつも、軍刑法に從へば、上官殺害の罪は極刑に値するとて、臨時軍法會議に於てビリーの處刑を強硬に主張する。けれども、メルヴィルによれば、「死刑を宣告すべく主たる役割を果した者の方が、死刑を宣告された者よりも苦しんでゐた」のであつた。さういふヴィアの「強者の苦惱」を描く事によつて、このアメリカ最大の作家は何を訴へようとしたのであらうか。

讀了後は、また感想を書かうと思ふ。政治の體たらくに苛立つこの夏に、この本を得たことは幸福だと、手にして今思つてゐる。

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延、誕、涎、蜒

2009年08月07日 08時26分36秒 | 日記・エッセイ・コラム

 表題に挙げた漢字「延、誕、涎、蜒」はいづれも同じ作りでできた漢字である。「延」といふ字が共通の字であるが、白川静の語源解釈によれば、「正」と似た字は「死者が手足を折り曲げてゐる形」であり、「廴」は「細長い道」といふ意味である。合はせて「死者を埋葬した玄室につづく長い道」といふことになる。そこから「延」は「のびる、のばす、つらなる」といふ意味になつた。「涎(よだれ)」も「蜒(ゲジゲジ)」も会意文字である。誕生日の「誕」の字は、形声文字であるから、ゴンベンと延との意味を合はせたものではない。

 さて、なぜこんなことを書いたのかと言へば、漢字好きの生徒から「延長」の「延は、「正」といふ字と同じで、5画であるのに、「蜒」の字は、最後の4画と5画とがひと筆で書かれて、4画の字になつてゐるのはなぜかと問はれて調べたからである。

 結論的には、常用漢字は「正」のやうに書いたが、それに入らなかつた字の方は、元の4画のままであるといふこと。再び、白川静の辞書で調べると、すべて4画になつてゐた。戦後の漢字改革の弊害がこんなところにもあつたのだ。

 同じやうな過ちとして、「仏、沸」がある。「佛像」は「仏像」になつたが、「沸点」はそのままである。漢字の性質を知らない愚策であつた。

常用字解 常用字解
価格:¥ 2,940(税込)
発売日:2003-12-20

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効果逓減の法則

2009年08月06日 08時31分47秒 | 日記・エッセイ・コラム

 夏休みに入つた。高校三年生の担任をしてゐると、やはり生徒の学習状況が気になる。できるかぎり学校に出て、生徒を呼んでは自習をする機会を作らうと思つてゐる。それで、生徒らの自習の姿を見てゐるのであるが、やはりといふか、意外にもといふか、日に日に彼らの顔は曇つてくるやうな気がする。

 経済学の用語で、効果逓減の法則といふのがあるらしい。同じことを続けていくと日を追つて成果が減つていくといふことであるが、さういふことは真理であると断定はできないが、おおむねその通りであらうといふのは、自分を振り返つても言へる。

 受験勉強が面白くなることもある。充実感にみなぎり、分からなかつたことが分かるやうになる喜びは、かなり深いレベルのものである。しかし、それが常態であるかと言へば、さうとも言へまい。となれば、やはり逓減原則を打破する仕掛けを自分でする必要はある。

1 休憩時間をうまく取つて、気分転換を図る。学校の自習室を使ふなら、友達と会話するのはいい方法だ。

2 体を動かす。体の血流がうまく循環してゐないと、眠気を催す。ストレッチを寝る前にする。勉強中、眠気が襲ってくるやうであれば、立ち上がつてやつてみる。

3 睡眠時間をたつぷりとる。かつては、睡眠時間が四時間以下なら合格、五時間以上とれば不合格(四当五落)などと言はれたが、そんなことはない。十二時過ぎまで起きてゐては、翌日の生活は乱れる。「子どもの早起きをすすめる会http://www.hayaoki.jp/index.cfm」といふのがあるのを、昨日の読売新聞で知つた。夜更かしをすると疲労がたまる。午前10時からお昼までに、あくびを繰り返してゐる人は要注意だといふ。

4 今やつてゐる学習に自覚的になること。一時間単位で、「今、自分は何をしてゐるのか。何をしようとしてゐるのか」を考へながらすること。緊張感を保ては、学習の成果はあがる。

 以上、体系的なアドヴァイスではないが、感じたことを記しておく。

夏を乗り切らう。

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