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ビリー・バッド 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2009-08-07 |
名著『常に諸氏の先頭に在り――陸軍中將栗林中道と硫黄島戰――』の著者、留守晴夫先生が、この度メルヴィルの遺作『ビリー・バッド』の新譯を出された。
この三月に、早稻田大學を定年を待たずして御辭めになり、これからは飜譯と文筆とに力を注ぐと言はれてゐたが、その第一彈がこの本である。これまでの譯本とは一線を畫す先生の飜譯をじつくりと堪能したい。
紹介文を引用する。
「こんな素晴らしい物語は讀んだ事がない。ああ、こんな作品が書ければよかつた」と、死期を間近に控へたトマス・マンをして叫ばしめた、ハーマン・メルヴィル最後の傑作『ビリー・バッド』を正統表記の新譯で送る。
十八世紀末葉、イギリス海軍の軍艦上で、善良な若き水兵ビリー・バッドが、自らを陷れようとした惡黨の下士官クラッガートを毆り殺すといふ事件が起る。時はフランス大革命から間もないヨーロッパの危機の時代で、「舊世界に於けるほぼ唯一の自由で保守的な強國」たるイギリスに於てすら水兵の叛亂が續發し、國民の心膽を寒からしめてゐた時期だつた。高潔で有能な海軍軍人たる艦長のヴィアはビリーにいたく同情しつつも、軍刑法に從へば、上官殺害の罪は極刑に値するとて、臨時軍法會議に於てビリーの處刑を強硬に主張する。けれども、メルヴィルによれば、「死刑を宣告すべく主たる役割を果した者の方が、死刑を宣告された者よりも苦しんでゐた」のであつた。さういふヴィアの「強者の苦惱」を描く事によつて、このアメリカ最大の作家は何を訴へようとしたのであらうか。
讀了後は、また感想を書かうと思ふ。政治の體たらくに苛立つこの夏に、この本を得たことは幸福だと、手にして今思つてゐる。