言葉の救はれ・時代と文學

言葉は道具であるなら、もつとそれを使ひこなせるやうに、こちらを磨く必要がある。日常生活の言葉遣ひを吟味し、言葉に学ばう。

「若者たち2014」は面白かつたのに。

2014年07月30日 09時54分16秒 | 日記・エッセイ・コラム

 テレビドラマを久しぶりに楽しんでゐる。

 フジテレビは視聴率低迷といふけれど、好調なテレビ局とは果たしてどこなのだらう。先日、ある人からこんな話を聞いた。「テレビでの映画放映では、最近ホラー映画を扱はないことになつてゐるらしい。なぜなら、放映するとクレームが来るからだ」と言ふ。親御さんからうちの子供に見せたくない。どうしてそんな映画を放映するのかと非難の電話がかかつてくれば、テレビ局としても厄介だからもうやめようといふことになつてゐるのらしい。

 こんな調子でやつてゐて、テレビ局が活力を取り戻すはずがない。言つておきますが、私は金輪際ホラー映画など観ません。あんなもの無くていいと思つてゐます。でも、それとこれとは別の話。かつて福田恆存が言つたやうに、「テレビにはスヰツチがある」のだから、何も見せたくなければ番組を変へるか、消せばいいだけの話。その手間と子供を説得する労力気力を惜しむからテレビ局に文句を言つてゐるのだらう。もちろん、テレビ局はテレビ局で、「お宅のテレビにはスヰツチがありませんか」と皮肉の一つも言つてあげる度胸と覚悟があればいいのだが、それもない。すべては、他人任せの堂堂巡り。その結果、家族の会話がなくなり、テレビ局の活力が失はれる。いいことなんて何にもない。

 その点で、今活力溢れる番組が、表題の「若者たち2014」といふドラマである。とにかく言葉の応酬が激しい。兄弟5人のそれはそれは情理つくした台詞のやりとりがぐさりぐさりと相手の心に突き刺さり、それでゐてへこたれずに、さらにやり返す。新劇を見てゐるやうな演劇的なドラマに感動してゐる。でも、きつと視聴率低いだらうなと思つてゐたら、案の定低いらしい。

 私のブログなど決してドラマ制作者は見ないでせうが、視聴率なんて気にしないでいいですよ。これはもう名作に違ひないのだから、このまま突つ走つてくれればいい。活力のない無責任な家庭になんか支持されないドラマこそ、真のドラマにふさはしい。言葉の応酬を楽しむためには、観る側に力が必要とされる。その力のないことを示すには、かういふドラマがどういふ扱ひを巷で受けるかが試金石になる。

 テレビ評では、厳しい評価を受けてゐるやうだ。それでいいと思ふ。その厳しさが、厳しいことから逃げるといふ現代社会の特徴の正確な表現だらうと思ふからだ。

 ただ、途中で打ち切りといふのは残念ではあるが。

次のやうなことを考へるのが現代の「おやじ」たちであるのだから、若者たちが、かういふ言葉過剰なドラマを好むはずもないか。

フリーラーター 永江朗(56歳) 東京新聞掲載「『まじめ』は恐ろしい」より

 「<不良のための>という言葉にこだわってきたのは、常識や権威の力とは無縁でいたかったから。<まじめな人はこわい>と鶴見俊輔さんは言います。人間は放っておくといい人になり、いい人はまじめに懸命になるけど、彼らが間違えるとその影響力や被害は計りしれない。集団的自衛権も犯罪防止も、いま実にまじめに議論をされていますが、何か末恐ろしい」

まじめに考へて、誠実な成果を挙げたことがないから、「まじめ=恐ろしい」と短絡してしまふのでせうね。かういふ短絡が許されるのは、日本の近代が恵まれてゐたからだといふことを忘れてゐるからでせう。どんなにまじめに努力しても報はれない時代を生きた人々からすれば、かういふ甘い感慨は持てないはずだ。

追記 昨日の内容はひどかつた。それでタイトルを面白かつたといふ過去形にした。 何がひどいつて、メロドラマ仕立てに流れてしまつたからである。涙が悪いといふのではないが、自己憐憫が過ぎれば興醒めしてしまふといふことです。 劇中劇の役者の下手なこと。広末がブロードウェイの夢が断たれたといふ筋書きなど噴飯物でせう。マイクが拾はなければ聞こえない声でどうして芝居ができるのか。30万円を持ち逃げされて上演を諦めてしまふといふのも疑問だし、皆で借金すればいいだらう。さういふところの現実味がドラマの厚みを出すのだと思ふのですがね。 視聴率が上がらないとメロドラマになつてしまふのだらうか。次回も危険な香りがする。
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時事評論 7月号

2014年07月18日 21時00分17秒 | 告知

○時事評論の最新號の目次を以下に記します。どうぞ御關心がありましたら、御購讀ください。1部200圓、年間では2000圓です。 (いちばん下に、問合はせ先があります。)

                 ●

 

   7月號が発刊された。

 内容については、追ひ追ひ触れていかうと思ふ。

 今学期、偶然にも授業で中島敦の『山月記』を扱つてゐた。近代日本文学史を講義した後で、小説として取り上げたのがこの作品で、近代日本文学の歴史で、どの思潮にも流行にも関はりのない孤高の存在として中島敦の文學を味はつてゐたところだつたので、留守先生の解説には非常に共感した。

 共感と言へば、久しぶりの臼井先生の御文章にも意を強くするところがあつた。ところで、米国帰りの中学三年生で、ジョージ・オーウェルの『1984』が面白かつたと言つてゐた生徒が今私が教へてゐるクラスにはゐる。少し気取つてゐての発言とも思ふが、さういふ問題意識でゐる米国育ちの日本人を思ふと彼の国の文化、文学の層の厚さを感じない訳にはいかなかつた。日本語で書かれた本で、臼井先生が書かれてゐるやうに「スターリン統治下のソ連をモデルとして描かれた諷刺的な幻想的未来小説」があるかと言へば、心もとない。さういふ小説がないから、どんなに気取らうとしても気取ることのできない私たちの文學である。もちろん、漱石・鷗外はある。しかし、ウィリアムズやオーウェルのやうな作家が陸続と出てくる背景にクリスト教があるとすれば、漱石・鷗外に続く文學が出ない私たちの文化の貧弱さの原因は、さういふ確固たる精神文化がないといふことなのであらう。それが日本なのだ。支柱がないが柔軟である、それが日本の文化だと言ふ人もゐるが、私はそれは強がりだと思ふ。柔軟さが活きるとすれば、背骨がしつかりとある時である。背骨もないのに柔軟だといふのは、優柔不断といふことであらう。

 

   ☆        ☆    ☆

いつまで続く防衛”欺瞞”政策

   ――元戦闘機パイロットの怒り――  

          元空将   佐藤守

● 

教育隨想       

  朝日よ、お前の高飛車な理由が解つたよ (勝)

左右の真中とはどういふ事か

『文學と政治・クリスト教』を上梓して

       早稲田大学名誉教授 臼井善隆

この世が舞臺

     「李陵」 中島敦                              

                            圭書房主宰    留守晴夫

コラム

     セクハラオヤジの相似形 (紫)

     二種類の遺産 (石壁)

     論理の私的利用は不正義(星)

     戦争は道徳的行為か(騎士)   

   ●      

  問ひ合せ

電話076-264-1119     ファックス  076-231-7009

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未成年の利点

2014年07月06日 17時33分48秒 | 日記・エッセイ・コラム

 ほとんどの人間は、自然においてはすでに成年に達してゐて(自然による成年)、他人の指導を求める年齢ではなくなつてゐるといふのに、死ぬまで他人の指導を仰ぎたいと思つてゐるのである。また他方ではあつかましくも他人の後見人と僭称したがる人々も跡を絶たない。その原因は人間の怠慢と臆病とにある。といふのも、未成年の状態にとどまつてゐるのは、なんとも楽なことだからだ。

 カントの『啓蒙とは何か』の冒頭部分である。「怠惰」これ以上適切な現代批評はない。近代化とは次々と他人任せの範囲を広げていくことであるとさへ言へる。

 その怠惰を経ち、精神において自由を獲得させることが自立であり、近代を成立させる基点になるべきだが、皮肉なことに自己をどんどん弱体化させ、欲望だけが肥大化してゐるのが近代となつてしまつた。

 儒教にせよ、プロテスタンティズムにせよ、さうした精神による自立の支へがあつて生まれた近代社会であつたが、もう一方で生み出された資本主義によつて、却つてその背骨をへし折られ、その痛みを堪へるために快楽が追求され、消費に人々を向かはせることになつた。しかしその消費による痛み止めの効果は一瞬であつたから、その効果がなくなると前よりも一層強い痛みを感じるやうになるから、人々はいよいよ消費に向かふことになる。消費が豊かさへとつながらずに、私たちの心には不満と空しさとしかやつてこない。私たちの現代のきれいだけれども薄つぺらく、軽いけれどもうまく操ることができず、深刻だけれども原因が分からない状況はさういふ背景に彩られてゐる。

 楽を求めてはいけない。やはりこれなんだらうな。

啓蒙とは何か 他四篇 (岩波文庫 青625-2) 啓蒙とは何か 他四篇 (岩波文庫 青625-2)
価格:¥ 713(税込)
発売日:1974-06-17

コメント (2)
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