鼎談「ホンネ時代を切り拓こう」(辻村 明・鹿内信隆)『正論を拓く』(鹿内信隆著)に所収。昭和五三年・サンケイ出版
「民主主義への懷疑」といふ、福田恆存の年來のモチーフが語られてゐる。印象的な言葉を列擧する。
「日本では、力の行使を誰かに委ねるのは民主主義じゃないと思っている。だから政府は力を持ってはならん、権力は悪で民主主義と相反するものだと思っているんですね。民主主義を一番最初に発達させた英国では、十三世紀末にエドワード一世という強力な王が出た。そのことについて、英国人はその昔から今日まで、最も強力に自分を守ってくれる中央政府を望んでいることが書かれています。王と民主主義は別に矛盾しないんですよ。一つの政府の形態なんですから。一体誰が、どの王や政府が、自分を強力に守ってくれるか、それを選ぶ権利は国民にある。それが民主主義なんです。」
「民主主義、自由主義ですべて解決するだなんて思い込むと、ちょうど紙の裏表みたいに、天使と悪魔がついてくるんですよ。(笑)裏と表ははがすことができないんです。その点が大事です。」
民主主義とは、國民が第一權力者であるといふことだ。從つて、その權力を監視する機關が必要である。それが政府であらう。「選擧で民意を問ふ」などといふことがよく言はれるが、政治の主體は國民であるとすれば、じつは選擧によつて國民の權利のどの部分を制限するかといふことが問はれてゐるのである。
福田恆存の主張は、國民が自己を否定する媒體をどこかに持たなければ國家自體が危うくなつてしまふといふ制度が民主主義であるといふことだらう。それが政府であるか、王であるかは歴史や傳統を受けついだ國民が決めることなのである。唯一絶對の、完全なる民主主義制度などといふものなど存在しないといふことでもある。
ところで、蛇足を一つ。福田恆存先生でも話し言葉では「一番最初」などと言つてゐるのが發見であつた。「一番」はゐいりませんね。あるいは「一番初め」で良いでせう。