時事評論の今月号に、留守先生が、クライストの『ホムブルク』を取り上げてゐた。恥づかしながら、このドイツの作家を私は知らず、そしてもちろん読んだこともなく、この記事でその内容を知ることができた。
「外界の偶然に左右されない確固たる幸福を自己の?面に求めようとする靑年」といふ評価を得てゐた作者クライストの生き方に打たれた。そして、その一方で、「『外界の偶然に左右され』て激しく動搖する男である」クライストの現実の生き方にもなるほどと思つてしまふのである。理想と現実とを簡単に一致させることをもつて人格とするのが、道徳的に全うな人の生き方であるやうに思はれてゐるが、果たしてさうか。
理想を掲げながらも、さう生きられない現実と闘ひ、それでも理想を捨てずに自己にたち向かうのが誠実であり、道徳的なことなのではないか。
いかにも留守先生が選ばれた人物である。
入手するのが困難な書であるが、ドイツ文学の名作であるに違ひない。
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