福田恆存の國語觀の連載が終はり、これ以上私の福田評によつて福田恆存の名を汚すのも失禮すぎるから、「文學と時代」といふタイトルに變更した。今後もときに福田恆存のことは出てくると思ふが、「信者」の戲れ言から「教祖」を憐れむコメントは減つてくれるとありがたい。
ポトスライムの舟 価格:¥ 1,365(税込) 発売日:2009-02-05 |
宮本輝 私たちの周りの大方を占める、つつましく生きている女性たちの、そのときどきのささやかな縁によって揺れ動く心というものが、作為的ではないストーリーによってよく描けている。――だから「日記」だと思つてしまつたのだらう。「作爲的ではないストーリー」とは何なのだらうか。宮本輝さん、作爲がなければ「螢川」のあの美しさも書けなかつたでせうし、川三部作なんてあり得ないのでは。
山田詠美 行間を読ませようなどという洒落臭さはみじんもなく、書かれるべきことが切れ良く正確に書かれている。目新しい風俗など何も描写されていないのに、今の時代を感じさせる。――確かに小説は、時代の風俗を描き出すものでせうが、今の時代にワーキングプアの小説といふのは、時代に添寢し過ぎで、すぐに消費されてしまひませんか。
川上弘美 揺れていない。「このように書こう」としてもちゃんと「このように書いている。具体的な、身近ともいえることを扱っているからこそそれはやりやすい、ということではなく、どんなことを書こうという時も、ごまかさず最後までつめて考え、書き表しているから、だと思います――でも、この選評自體が「ごまかさず最後までつめて考え、書き表している」とは思へません。その意味で「搖れていない」。業務として「ちゃんと」書いてゐる、そんな選評です。
高樹のぶ子 俯瞰せずひたすら地を這って生きる関西の女たちの視線が、切ない生活実感を生み出している。――關西には「切ない生活実感」を持つた女性しかゐないやうです。バリバリ働く女性は、東京にしかゐないのでせうか。
石原慎太郎 無劇性の劇ともいうべき――レトリックですね。だから、日記だと思ひます。
私は、小説を書けないので、以上のやうに勝手なことを言へるのですが、いま小説を書くといふことはほんたうに難しいことなのだらうと感じてゐます。芥川賞といふものが純文學に限定してゐるから難しいのかもしれませんが、最近の日本映畫の方がもつと面白いと思ひます。半年に一囘は多すぎるといふことかもしれませんね。