言葉の救はれ・時代と文學

言葉は道具であるなら、もつとそれを使ひこなせるやうに、こちらを磨く必要がある。日常生活の言葉遣ひを吟味し、言葉に学ばう。

今年を振り返つて

2010年12月31日 21時51分46秒 | 日記・エッセイ・コラム

   今年の三月に、大阪に來てから初めての卒業生を送り出した。六年間の思ひ出を吸ひ取られるやうに校門から出ていく彼らの背中が持つていつてしまつた。以來半年ほど眞空が續く心をどうにか立て直すのに苦勞した一年であつた。

   出ていくより、見送る方が苦しいといふことをこれほど感じたことはなかつた。

  それから、十月に今受け持つてゐる生徒らの引率で修學旅行に出かけた。沖繩である。飛行機事故でたとへ300名の人が亡くなつたとしてもその場所に慰靈にはいかない。それなのに沖繩へは慰靈の旅に行く、それは何故か。人數の多少ではない。彼らが犧牲者であるからだ。飛行機事故は被害者に過ぎない。世の中でも犧牲と被害とが混同されてゐる。そのことを説明して出かけた。これは以前も同じである。

   十月の沖繩は颱風が來る。歸りの飛行機が運惡く颱風にぶつかつた。生徒らは延泊を待ち望んでゐる節もあつたが、さうはいかない。便をくり上げて歸阪した。

   生徒に歌を書かせたので、私も書いてみた。拙いが、年末のゆつたりとした時間の御愛敬だと御寛恕願ひたい。

     初日に訪れた平和公園にて

島守の塔を見上げて生徒らと汗ばむ両手合はせ祈りつ

石の中幾千柱の御霊からは我らの姿いかに見ゆらん

声を聞きに訪ねて耳をすましけり風よ御霊はいづこにありや

     移動するバスの中で

バスの中寝てゐたせいでホテルでは暴れまはつて君は正気か

沖縄に唯一の電車ユイレール下ではバスでゆいまーる歌ふ

     二日目、今帰仁城にて

こんなにも沖縄の海は碧いのに人の悲しみがあまりに深い

     三日目のタクシープランの晝食時に

スパゲティ注文するとトーストが隣りについて沖縄スタイル

    タクシープランの中繼地にて

台風の迫る雨中にやつて来た万座毛を背に生徒らを撮る

     最終日 歸阪時に空港にて

野分吹く空港内で荷物検査時間がかかりとまどふ我ら

 年が明けると、すぐにセンター試驗。浪人生たちが必死になつて學んだ成果を十二分に發揮して欲しいと願つてゐる。

  今年一年、御愛讀ありがたうございました。

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「戰前」の時代に

2010年12月28日 23時22分31秒 | 日記・エッセイ・コラム

   前囘書いた「もはや戰前である」に對し、少なからぬ反響をいただいた。コメント欄に書いてくれた人もゐるし、直接にコメントを寄せてくれた人もゐた。

   北朝鮮での内部の變化が明確には分からないなかでは、疑心暗鬼にならざるを得ない。その不安にいつまで耐へられるか、心理戰はいよいよ始まつたといふ感が強い。そんな中、先日26日に、韓國の情報機關、國家情報院傘下の國家安保戰略研究所が「2011年展望」と題した次のやうな内容の報告書を發表した。

「後繼体制の構築にあたつて、金正日總書記を頂點とする支配体制の弱體化、權力層の葛藤や派閥の形成など体制を不安定にさせる要因が増へると分析した。經濟面では中國との協力を拡大させるが、慢性的な食糧不足は加速する。」したがつて、「來年は北朝鮮が西海五島を直接侵攻する可能性がある。」

  かうした報告書が例年のやうに出され、國民に油斷をさせないための刺戟策としての意味しかないものであるのかどうか、私には分からない。しかしながら、朝鮮戰爭以來初の民間人に對する砲撃が突如行はれたといふ事態を踏まへると、單なる政治宣傳に過ぎないと見る方が難しからう。「來年は北朝鮮が西海五島を直接侵攻する可能性がある」といふ深刻な言葉を取り上げて、「危險性」ではなく「可能性」とあへてしたところに、報告書のスタンスの曖昧さがあるなどといふ皮肉を述べたところで、事態の深刻さは變るまい。そして何より私が氣になるのは「金正日總書記を頂點とする支配体制の弱體化」である。かうしたことこそが今囘の砲撃事件の遠因近因にあるのが明白なのだとすれば、そのことの改善が今や最も重要な案件なのである。もちろん、かうした主張は保守派の人人には受け入れがたいものであることは承知してゐる。特に拉致被害者や特定失踪者の問題に取り組んでゐる人には評判は惡からう。しかし、だからと言つて、今言ふべきことを言はぬのも問題である。今、世界の政治家(?)の中で生きてゐてもらはなければならないのは金正日である。

   戰前といふ言葉を使ふからには、戰爭も戰後も意識してゐなければならない。いや戰前といふ意識が表層に浮かび上がつてくるからには、戰爭といふことを考へてもゐるのである。そして、今現在が戰爭を囘避出來ない状況にあるとすれば、問題はその戰爭をどれだけ短期間に、しかも最小の被害で終はらせるかといふことをこそ考へなければならないはずである。有體に言へば、中國が共産主義を手放さないままで、朝鮮半島が焦土と化し、日本に牙を向けられるやうなことにならないためにどうすれば良いのか、それをこそ考へなければなるまい。少なくとも、韓國の國家安保戰略研究所の報告書からは自國の置かれた位置を正確に見、それをどう防ぐかといふ意圖が讀み取れる。翻つて我國の防衞白書はどうか。私にはさうした主旨は全く讀み取れなかつた。だからこそ、戰前といふ發想を持つべきだと考へてゐるのである(民主黨には期待してゐないけれども)。

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NHKドラマ 岡本太郎の生涯

2010年12月27日 09時07分37秒 | 日記・エッセイ・コラム

 万博公園に夜の太陽の塔を見に出かけたあと、ネットで岡本太郎を検索してゐたら、次のやうなドラマが企画されてゐるのを見つけた。

 御関心のある方は、是非ご覧になつてください。

 ― 芸術は爆発だ!― 数々の刺激的な言葉と作品で世を挑発し続けた芸術家・岡本太郎さんが、2011年2月26日に生誕100年を迎えます。
 NHKでは、記念の日を放送初回にした全4回のドラマで、岡本太郎の生涯を初めて映像化します。
 
【番 組 名】
岡本太郎生誕100年企画 土曜ドラマ『TAROの塔』

【放送予定】
2011年2月26日~3月19日
[総合] 毎週土曜 午後9:00~9:53 ほか〈全4回〉

【脚  本】
大森寿美男(おおもり・すみお)のオリジナル作品。
〈プロフィール:過去のNHKでは、『クライマーズ・ハイ』、連続テレビ小説『てるてる家族』、大河ドラマ『風林火山』など多数執筆。〉

(NHKのホームページより)

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イルミナイト万博――今夜限り

2010年12月26日 11時27分13秒 | 日記・エッセイ・コラム

Photo

 昨夜は、とても寒かつた。仕事帰りの夜八時ごろ、万博公園を訪ねた。イルミネーションといふものにさして興味があるわけでもないが、夜の太陽の塔といふものも見てみたくなり、出かけてみた。思ひのほか人出も多く、さすがに若い人の方が多かつたが、寒い夜をそれぞれに満喫してゐるやうでもあつた。

 イベントは今夜限り。

  万博記念公園大阪府吹田市)のシンボル「太陽の塔」周辺で、発光ダイオード(LED)を内蔵した風船を浮かべる「イルミナイト万博X’mas」が行われている。夜空を舞う大小約500個の光る白い風船が、そびえ立つ太陽の塔の存在感を際だたせていた。

 万博記念機構が毎年夏と冬に開催。普段は夜入場できない同公園内が、華やかな光で彩られる。200メートルの並木道を青と白の約7万個のLEDで飾った光の並木道イルミストリート」や、LED3万個で飾られた光の迷路「ツインクルメイズ」なども楽しめる。

 開催は26日まで。午後4~9時。入園料は大人250円、小中学生70円。

(産経新聞HPより)

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もはや戦前である

2010年12月24日 22時50分35秒 | 日記・エッセイ・コラム

 今夜は聖夜である。一気に外気温は下がり、静かな夜になつた。

 しかし、隣りの國の情勢は緊迫の度合を深めてゐる。言ふまでもなく、北による砲撃が韓國民の不安を煽つてゐるのである。もちろん、日本人が心配するほど當事者は不安に感じてゐないと言ふ識者もゐる。しかし、そんな樂觀も北からの砲撃が再びあれば、消しとんでしまはう。それほどに憶測の情勢判斷しかできないのが現状である。

   現に、韓國軍は、ソウル市内の漢江にかかる橋をいつでも爆破できるやうに訓練してゐるといふ。また、この冬は殊の外寒くなりさうであるから、漢江が凍らないことを祈るやうな氣持でゐるだらう。橋が無くても川が凍れば兵士は簡單に移動できる。戰車も通れるかもしれない。漢江はマイナス18度の外氣で氷始めるといふから不安は募らう。かつてもソウルを流れる漢江が凍ることを恐れた冬があつた。

   窮鼠猫を噛むといふ。理屈で考へれば、北朝鮮が戰爭を仕掛けて勝てる見込はない。しかし、經濟的にも政治的にも國家の維持が難しいといふことになれば、どうで出るか分からない。それもまた人間の心理である。十二分に理屈で考へられる結論であるはずだ。

  また、韓國においても、砲彈を打込まれ、次はいつ來るかといふ不安にいつまで堪えられるだらうか。軍隊による軍事訓練を重ね、國民に北との兵力の違ひを見せつけても、それで得られる納得がいつまで持續するか分からない。これで安心だといふ思ひも、再び砲撃やらテロやらがあれば、すぐに急變する。不安は高まり、政府に對する批難となつて顯在化する。またそれとは逆に、北朝鮮との對立を煽り戰時體制へと傾くことを韓國民は望んではゐない。先の選擧で與黨が負けたやうに厭戰氣分も強いからである。さうした二律背反の國民感情の中で、政府のかじ取りは非常に難しい。かうした民主國家の弱點を北朝鮮は突いてくるはずだ。いや、今囘の砲撃はさうした状況への第一彈=心理的攻撃なのかもしれない。

   もはや戰前である。私たちの、今日の靜かな夜もさうした戰前の一夜である。そして、それは決して逃れられないことである。さうであれば、私たちが出來る唯一のことはなにか。いつまでも、いやできるだけ長く戰前のままにしておくことである。戰後の總決算だとか、失はれた二十年などといふ後ろ向きの政治的スローガンを掲げてゐるうちに、時代は紛れもなく戰前になつてゐる。さういふ時代認識の中で、何をなすべきかといふことこそ、爲政者は考へるべきであらう。

   韓國において一朝有事の際の邦人救出法を考へる事もさうである。北からの難民をどうするかといふ事もさうである。それは政治家がすぐにでも取かかるべきことである。では、政治家でない私はどう考へてゐるのか。誤解を恐れずに言へば、金正日を擁護したいと思ふ。内部崩壞寸前の北朝鮮の中で、曲がりなりにも國家の體を維持出來てゐるのはどうしてか。それは辛うじて金正日が安定の據り所になつてゐるからである。彼が死んでしまへば、それこそ事態は混亂するばかりである。暴發的な事件が連續して起きるかも知れない。朝鮮半島を戰場にしてはならない。アメリカの特使が北朝鮮に行くも良し、とにかく金正日こそが權力の掌握者であることを徹底的に擁護し、彼を中心に國家の變革を迫る以外にあるまい。太陽政策には、それが無かつた。利用されるばかりであつた。

  今囘の砲撃事件に關し、その背景の説明は識者によつてそれぞれであつたが、不思議なことにそれが金正日によるものであるといふ説明が一切なかつた。このことが暗示する事こそ重要である。となれば、彼が今囘のことをどう考へてゐるか、聞いてみる價値はある。もちろん、テーブルにつくかどうかは分からない。しかも率直に言ふ可能性も低い。しかし、アメリカが北朝鮮の不穩な動きを明確に示しながら、金正日(あるいは金親子)を支援する用意があると傳へることだけでも意味がある。彼が生きてゐるからこそ、安定は維持されてゐるのだ。

   日本はどうすべきか。菅首相は、どんなことがあつても李明博大統領を支持しなければならない。國民が不安になり、政府への批難を強めても、李大統領の正統性を主張すべきである。三八度線は、どう考へても日本の生命線である。その境界線のこちら側にある國家は運命共同體であるからだ。

  戰前であるといふ時代認識から始めなければ、今日の東アジア情勢には對應出來ない。

 

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