松原先生の全集の第四巻が出版された。
「自衛隊よ胸を張れ」である。
「平和呆け」といふことを言はれて久しいが、今やそれが「呆け」であることを縷々述べたとしても、「平和以上に大事なことはないでせう」といふ大いに平和ボケである言葉を打ち負かすことはできないほど平和呆けである。
ウクライナにロシアが侵攻しても、未だ憲法の改正の機運は高まらない。「何とかなるでせう」といふのがその気分である。
気分とは対象がはつきりしないものへの感情であるとは、オットー・ボルノウの言葉であるが(対象をはつきりさせた時の感情は恐怖である)、恐怖を感じたくないために、対象をぼかしてゐるのではないかとさへ思はれる。その自己防衛本能が平和呆けの正体であらうか。
本書の編者留守晴夫先生はその紹介文にかう書かれてゐる。
「自衛隊や軍事に纏はる驚くべき嗤ふべき『知的怠惰』の症例の数々を、『贋物のはびこる論壇から足を洗ふ覚悟』で痛烈に剔抉した、松原正渾身の自衛隊論」である。
自衛隊を論じつつ、その本質はやはり道徳的であるとはどういふことか、といふことである。神のゐない私たちの国において「道徳的」であるためには知的であるべき、いや徹底的に知的であるべきであるといふのが松原氏の視座である。したがつて知的怠惰は道徳的怠惰、すなはち道義不在といふことである。
その筆になるものを今の若者にも読んでもらひたい。
本書の元になつた単行本は、1986年に出た。今から40年前である。その当時の販価は2,500円である。それが今日この全集で3,300円(税込)である。編者留守氏のその思ひは、出来るだけ多くの人に読んで欲しいとの願ひではないか。それに本全集には、原著にはない対談3本と講演1本、さらに41編のコラムが付されてゐる。
是非ともご購入をと思ふ。