言葉の救はれ・時代と文學

言葉は道具であるなら、もつとそれを使ひこなせるやうに、こちらを磨く必要がある。日常生活の言葉遣ひを吟味し、言葉に学ばう。

当面の課題を解決すれば問題が無くなるのか。

2022年01月05日 11時25分57秒 | 評論・評伝

 物事には表層と深層とがある。

 現実に起きてゐることにもこの2つの側面がある。例えば、植木が枯れてしまつたとする。

 表層にある原因は、水をやらなかつたからである。だから、水をやればよい。これで問題の解決である。

 しかし、新しく買つて来た植木もしばらくして枯れてしまつた。今度は水をやつてゐたのにである。となると、今度の原因は何か。調べてみると今回は根腐れが原因だつた。つまりは水をやりすぎたのだ。

 ここに来てやうやく深層にある課題が明らかになる。即ち、水のやり方について分からないことが原因だつたのだ。

 これで解決をした……はずであつた。が、三度新しい植木を買つて来るとしばらくして枯れてしまつたのである。

 いつたい何が原因だつたのだらうか。

 

 世の中に起きる出来事とはかういふものであらう。いつまでいつても課題は解決せず、解決したと思つたら新たな課題が見つかつてしまふ。しかし、とかく私たちは表層の解決を問題の根本解決と見がちだ。だから、何かが起きると急に慌て出してしまふ。

 今日の状況はまさにそのものだ。またぞろコロナ禍で世間が動き出さうとしてゐる。更に今日は、北朝鮮が飛翔体を日本に向けて発射した。そして近づく北京オリムピツクの開催はどうなるか。

 昨日、アメリカの政治学者イアン・ブレマーが率いる調査会社「ユーラシア・グループ」が今年の十大リスクを発表した。一位には中国のゼロコロナ政策の失敗を挙げてゐる。三位にはアメリカの中間選挙が入つてゐる。「今年の」と付いてゐるやうに「昨年の」「十年前の」十大リスクはあつたのだし、「五年後の」「二十年後の」も十大リスクはあるのだし、何なら「二千年後の」十大リスクもあるに決まつてゐる。仮に地球に住む人類の方が地球外に住む人類より少なくなつてゐたとしても、リスクはあるに決まつてゐる。イアン・ブレマーはそれを百も承知で「今年の」を考へてゐる。彼らにはそれぐらゐ常識であるのだが、案外私たちはそれに気付いてゐない。だから、下手なサッカーチームの選手のやうにボール(喫緊の課題)のところに意識も時間も必要以上にかけてしまふのだ。もつと本質的で深層にある課題を見据えない言論は、「横(平面)志向」の付け焼き刃に過ぎない。

 さういふ横志向を、松原正は「政治・好色・花鳥風月」と名付けたが、私たち日本人にとつてこれはどうにも度し難い問題である。物事を複眼的に見られないのである。

 年末に、NHKで香取慎吾が演じた山本五十六のドラマを見たが、ロンドン軍縮会議で英米の軍備を制約する軍縮条約に加盟した方が、経済力に劣る日本の生き残る道があると見る視点を当時の海軍上層部は持つてゐなかつたやうだ。もちろん、国民もである。だから、軍縮条約を破棄せざるを得ずに帰国した山本を国民は大歓迎したのである。それもまた横志向である。縦の志向も持つことで、横の志向が柔軟になる。さういふ立体的な思考を持つ子供を育てたい。

 

 

 

 

 

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