「待った大王」処分は陰謀か?

2005-06-13 22:07:53 | しょうぎ
744d2890.jpg6月11日朝から、”将棋棋士である加藤一二三氏が「待った」をしたため、将棋連盟から対局禁止と罰金が言い渡された”と報じられている。昭和15年1月1日生まれ65才。彼より年配の現役棋士はほとんどいない。九段と書かれているが、元名人である。カソリック。以前は、若き神童といわれ、19歳で大山康晴名人に挑戦。西北大学卒業。

実は、私の将棋関係の連絡網では、「待った事件」は少し前から盛り上がっていたのだが、将棋に疎い方々にも楽しんでもらえるように、簡単な説明を加えながら書いてみる。将棋の実力とは、まったく関係ない事件だから。

まず、将棋は先手と後手が1手ずつ駒を動かして先に相手の王様を取ってしまうという、いたって野蛮で軍国主義的ゲームだ。木製の駒を、「パチッ」「パチッ」と指すわけだ。しかし、結構これが難しいのはご存知のとおりで、いい手もあれば悪手もある。プロの将棋は1局平均130手くらいであり、これは二人分なので一人65手になる。そのうちプロでも通常2手くらいは悪手がある。中には、指した瞬間、「しまった」ということもあるわけだ。たぶん2局に1回位は「待った」をしたくなるだろうが、どう考えても反則だ。だが、実はルールブックには「待ったは反則」とは書かれていない。

では、「待った」か「待ったでない」かの判定はどうなるのかというと、こども将棋でも有効な一般的なルールがある。つまり、駒から指を離したら、「着手完了とみなす」ということだ。ある位置に駒を動かした後、中指とか人差指を駒から離した瞬間に「その手に確定!」ということになる。「ファイナルアンサー?」と一々聞かなくてもいいことになっている。

もう一つ、今回の事件のキーポイントが、持ち時間制にあるのだが、これは報道されていない。プロ将棋の持ち時間というのは、例えば60分というと、正味60分ではない。たとえば、ある1手を3分59秒考えると「3分」ということになる。各着手ごとに1分未満を切り捨てていく。つまり59秒で指せば、0分のままだ。つまり、残り時間が少なくなると、持ち時間を温存するため、いつも59秒近くまで考えることになり、指すか、次の1分に突入するかということになる。

事件に入る前の、もう一つの事前情報だが、加藤氏の指離れは、以前から怪しいと言われていたのだ。時間いっぱいで秒読みが、「57、58、59」と言った時に指すのだが、そのあと、指で念入りに5回くらい、トントントンとつつく癖があるのだ。相手からしても、そばに座るタイムキーパーからしても、まったく困るわけだ。指していたとすると相手の時計が進むのだが、指していなければ自分の時計が進む。

そして事件は5月26日の、スカパー主催の「銀河戦」で放送された。対戦した相手は、阿部隆八段37歳。タイムキーパーは女流棋士のAさん。終盤で加藤氏の残り時間があと2分というところで、例のように「57、58、59」で加藤氏の桂馬が敵陣に進んだのだが、この場合、そのままでもいいし、駒を裏返して成桂として使ってもいい。加藤氏はそのまま裏返さずに置いたのだが、いつものようにトントントンを始めたのである。

そこで、ついに相手の阿部八段が怒り、タイムキーパーAさんに向って、「秒が切れているじゃないか」と怒鳴ったわけだ。そして数秒ほどの時間があって、Aさんが「加藤先生、最後の1分です」と言ったのだ。つまり、あわただしく最後の1分に進む。そうしたら、数秒後にトントンをやめて駒を取上げて今度は裏返して置き直したわけだ。つまり、「待った」と「怪しい秒読み」の複合反則のわけだ。そして、結果としてこの将棋は加藤氏が勝ち、トーナメントで次に進んだのだ。

そして、放送直後からあちこちで騒ぎになり、結局、将棋連盟は「待った」があったと判定したわけだ。動かぬ証拠はビデオだ。それに、元々、指を離さないでトントンはなかなか難しいはずだ。やってみればすぐわかる。

しかし、無念阿部隆氏は現場で負けを認めていたので、有効試合になっている。これもルールではなく内規だが、「悪意のある反則」以外は現場の投了優先主義というのがある。では「悪意のある反則」とは何だ?といえば、相手がトイレに席をはずした時に、盤面を変えるとか、難しい局面で第三者にいい手がないか聞く(助言行為)とかいうことらしいが、そんなのは永久追放ものだろう。今回の加藤氏には「悪意はない」と判定されたわけだ。

そして判決は罰金と来年度の銀河戦出場停止。重いようだが、非常に軽い。反則行為で勝って、次の対局料が手に入るのだから罰金は当然。もともとトーナメント制の次年度の銀河戦に出場停止といっても、負ければ1局しかできないのだから。もちろん今年で引退したら意味が無くなる。

そして、ここまで長くなってしまったのだが、ここから陰謀の話になる。

この加藤一二三氏、朝日新聞派なのである。現在は不明だが、以前は朝日の嘱託であった。昭和52年に発生した名人戦移籍紛争で名人戦の主催権は朝日から毎日に変わった。それ以後、朝日は大タイトル戦を持つことがなく、常に巻き返しのスキを狙っていたわけだ。そのため、棋界内部に朝日派を拡大すべく、長く加藤氏を支援していたわけなのだが、もう彼の、内部での力はまったくなくなり、将棋連盟会長には、宿敵、米長邦雄氏が座ってしまったわけだ。

それでは、米長氏が毎日派かと言うと、そういうわけではないはずだ。できれば財政困窮の折り、スポンサーとして、今度は、名人戦を毎日から朝日に移籍することを思い描いている可能性はあるだろう。となれば、この事件は、どうも将棋連盟と築地新聞が「絶好の機会」と「加藤斬り」で新局面を狙ったものではないかと睨んでいるのだ。つまり「捨駒」だ。

では、もう一方の読売の動静だが、こちらも怪しい。実は、賞金提供額は読売が最大金額で、「竜王戦」という新設タイトルを持っている。誰しも、名人戦の方が格上とは知っていても、ナベツネ方式を無視することはできずに、「棋界最高棋戦」と格別の扱いをしているのだが、「勘違いをして、いばりくさる記者」がいるので、辟易しているようだ。

そして、この大手新聞社も棋界内にシンパを作っている。M六段。現在、米長会長の経営している「米長企画」を「将棋ソフト盗用による著作権侵害」で提訴中。実は、こちらの事件もまた、将棋とは無関係で、「ネット時代の訴訟」として鑑賞すると面白いので注目している。何しろ、裁判所の中だけでなく、ネット上にお互いが証拠品を並べて、争っているのだから・・

そして、加藤氏は昭和57年度の一年間だけ名人位についているのだが、不幸にも私が最も強かった時であり、その時に獲得した五段免状には、「名人 加藤一二三」の署名がある。”どうしてくれるの、待った大王”