ジョン・アップダイク、ペンを置く

2009-01-30 00:00:35 | 書評
米作家アップダイク氏死去「走れウサギ」著者(CNN)
戦後の米文学界を代表する作家の1人、ジョン・アップダイク氏が1月27日午前、肺がんで死去した。76歳だった。関係者が明らかにした。

ペンシルベニア州出身。早くから文学方面の才能を発揮し、奨学金を受けてハーバード大学に進学した。卒業後は1年間、英オックスフォード大学に奨学研究者(フェローシップ)として留学。23歳には米誌ニューヨーカーから執筆を依頼され、半世紀にわたって同誌に寄稿した。

59年に「プアハウス・フェア」で小説家デビューし、60年には平凡な男ハリー・アングストロームの生活を通じて世相を描いた「走れウサギ」を発表。「ウサギ」シリーズは90年代まで合計4作執筆され、後半2作「金持になったウサギ」、「さようならウサギ」はピュリツァー賞を受賞した。

その他の代表作にアフリカを舞台にした「クーデタ」、シェークスピアの「ハムレット」が下敷きになっている「ガートルードとクローディアス」、ジャック・ニコルソン主演で映画化された「イーストウィックの魔女たち」がある。今年出版予定の短編集「My Father's Tears and Other Stories」が遺作となった。




代表作を列記してみた。

 『プアハウス・フェア』The Poorhouse Fair 1959年
 『同じ一つのドア』The Same Door 1959年
 『走れウサギ』Rabbit, Run 1960年
 『鳩の羽根』Pigeon Feathers and Other Stories 1962年
 『ケンタウロス』The Centaur 1963年
 『農場』Of the Farm 1965年
 『一人称単数』Assorted prose 1965年
 『ミュージック・スクール』The Music School 1966年
 『カップルズ』The Couples 1968年
 『ベック氏の奇妙な旅と女性遍歴』Bech 1970年
 『帰ってきたウサギ』Rabbit Redux 1972年
 『日曜日だけの一カ月』A Month of Sundays 1975年
 『結婚しよう』Marry Me 1976年
 『クーデタ』The Coup 1978年
 『メイプル夫妻の物語』Too Far to Go 1979年
 『金持になったウサギ』Rabbit is Rich 1981年
 『イーストウィックの魔女たち』he witches of Eastwick 1984年
 『美しき夫たち』Trust Me 1987年
 『さようならウサギ』Rabbit at Rest 1990年
 『ブラジル』Brazil 1994年
 『ゴルフ・ドリーム』Golf Dreams 1996年
 『ガートルードとクローディアス』Gertrude and Claudius 2000年
 『テロリスト』Terrorist 2006年



以前、アップダイクの作品をずいぶん読んでいた。列記した作品のうち、『帰ってきたウサギ』まで読んだのだが、そこまで。書棚を探したら4冊残っていた。ウサギシリーズが有名だが、個人的には『ケンタウロス』が圧倒的に好みである。

大別すると、「ウサギ」シリーズや『カップルズ』のような純然と米国国内的な作品群と、『ケンタウロス』のように米国にこだわらず人間の普遍性を描いた作品群に別れるように思える。米国国内向け作品が多かったことがノーベル賞をとれなかった理由だろうか。


また、アップダイクは、雑誌「ザ・ニューヨーカー」を発表の場にしていたことも有名であり、1954年に詩作で登場。最後の出稿は、昨2008年5月に『The Full Glass』という小説を発表しているそうだ。独特の、都会的な比喩を多用した修辞法がニューヨーカーの著者たちの特徴だが、彼の死で、世代替わりなのだろうか。



ざっと俯瞰した限り、どこにも書かれていないが、彼は花粉症が持病だった。そのため(そのおかげで)、徴兵制度下の時代、ベトナムに送られることを免れていたそうだ。暗闇の密林でのゲリラ戦で、くしゃみがとまらなくなったら、所属部隊ごと全滅してしまうからだろう。