ひろかずのブログ

加古川市・高砂市・播磨町・稲美町地域の歴史探訪。
かつて、「加印地域」と呼ばれ、一つの文化圏・経済圏であった。

わたの里通信誌(52)  保存会の活動から学んだこと(1)

2016-04-28 13:17:34 | わたの里通信誌

      保存会の活動から学んだこと(1)

            お茶の水大学 博士課程・渡辺千尋

  稲岡工業株式会社文書との出会い

 「稲岡工業株式会社文書」を初めて見たのは2013年の秋、県歴史文化遺産活用推進員の小林誠司さんのご案内でした。台風が近づいて雨が次第に本降りになる中、倒産した稲岡工業跡の事務所棟・倉庫・蔵は電気もつかず散らかり放題で、まるで廃墟のように思えました。雨漏りで湿った倉庫に取り残された史料の山を見て、アーカイブズを勉強したことのある者として、これは放っておけない!と思ったのです。でも当時は小林さんと二人きりで、こんな大量の史料をいったいどうすれば…と途方に暮れる思いでした。

 そもそも私が稲岡工業文書のことを知ったのは、『加古川市史』を読んでのことです。文書を見たくて稲岡工業部分の著者である広島県立公文書館の西向宏介先生にお手紙を出したところ、松岡資明さんの書かれた日経新聞文化面の記事の切り抜きをお送りくださり、稲岡工業倒産後の文書の行く先を大変心配しておられるとのことでした。そこで私は西向先生に現状をお知らせし、小林さんは地元の多くの方々にかけあってくださり、史料が引き寄せたのか不思議に人が人を呼んで、「稲岡工業株式会社保存会」が立ち上がったのでした。

   史料の内容を楽しむ

 さて保存会ができてみると、私の当初の責任感や気負いもどこへやらでした。保存会世話役の吉田さんご夫妻に私はすっかり甘えてしまい、調査の際にはお宅に泊めていただき、自転車をお借りしてお昼ご飯に菜漬のおにぎりまで持たせてもらい、コスモスの咲く田んぼ道を通って今は稲岡鉄工さんが賑やかに操業している事務所棟の二階へ通う、大変楽しい史料調査となりました。それだけでなく、保存会に集まった方々のお顔ぶれがまた、楽しいのです。特に昭和32年に稲岡商店(稲岡工業株式会社の前身)に入社された「生き字引」の當間亨さんが、調査をする上での案内人になってくださいました。

 當間さんのご指導を受けながら稲岡商店創業兄弟の稲岡孝治郎『当用日記』を読み、書簡集や帳簿を突き合わせていくことで、稲岡商店の動向が立体的に見えてくるように感じています。また地域史家として稲岡商店に興味を持たれている上月先生ご夫妻、鐘紡との関係について調べにいらしている武内さんご夫妻など、異なる視点やバックグラウンドを持つ方々のご意見をうかがいながら一つの史料を解読していくことも、とても刺激的な体験になりました。上月先生には加古川の地域史を研究する上でまず見るべき文献と行くべき図書館(『兵庫県史』・『加古川市史』・『志方町史』、兵庫県立図書館)、今は廃刊になってしまった志方公民館情報紙『志方郷』など、基本的な研究成果を教えていただきました。これから武内さんのコーディネートで、鐘紡の元マーケティング室長の池田則一さんをお招きして當間亨さんとのトークセッションも企画中です。どんなお話が出てくるのか、今からとても楽しみです。(no3199)

 *写真:稲岡工業の文書について講演する渡辺千尋氏(西神吉町大国レインボー会館にて)

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わたの里通信誌(51) 古文書の保存と整理(3) 

2016-04-28 10:18:19 | わたの里通信誌

   古文書の保存と整理(3) 

         広島県立文書館主任研究員・西向宏介

3、古文書の保存

 古文書整理の過程で傷みの激しいものがあった場合は、とくに保存の手当てが必要です。

 湿気を含むものや虫・カビの被害があるものは、被害が広がらないよう、まず隔離し、陰干しするなど、できる限り除去する必要があります。被害が大きい場合は、専門業者による燻蒸が必要です。ただ、当面燻蒸ができない場合は、自前でできる方法を考えます。カビ被害の場合、程度が少なければ、エタノール(濃度70%)を柔らかい布やティッシュ等につけて軽くたたくように拭き取ります。カビが広がっている場合には、霧吹きで吹き付けて殺菌し、乾燥させます。カビは乾燥させると活性が落ちますが、胞子が飛散しやすくなるため、体内に吸い込まないよう注意が必要です。カビの胞子を通さない性能のマスクを着用したり、ゴム手袋を使用したり、また換気にも留意します。虫害については、虫自体を取り除いても生きた卵が残っている場合があるため、虫害の激しい文書については、注意深い観察が必要です。

 古文書を虫菌害から守るには、適切な温湿度環境のもとで保存することが重要で、温度20℃前後、湿度55%前後が適切とされています(湿度60%を超えるとカビが発生します)。

 また、防虫剤はピレスロイド系の薬剤を用います。かつては樟脳やナフタレン、パラジクロロベンゼンなどが使われてきましたが、刺激臭が強く人体への悪影響も懸念されます。また、化学反応の恐れがあるため、異なる薬剤を絶対に混用しないよう、

 注意することが重要です。

  おわりに

 古文書の保存・整理は、それ自体が目的ではなく、それらを後世に永く活用できるようにすることが目的です。古文書の活用方法は様々ですが、大分県のように、過去の災害事例を発掘して今後の防災対策に活かすため、古文書の所在調査を実施したところもあります。また、多くの自治体が力を入れる観光の面でも、地域の魅力を発信するためには、その地域独自の歴史を発掘・再発見することが重要です。古文書はその点でも大きな可能性を含んでいます。

 稲岡工業文書は、綿作・綿織物業地帯であった加古川市域の歴史を裏付ける史料であり、全国一のタオルメーカーがこの地に存在した証しでもあります。加古川市は市制65周年を迎えましたが、市制施行以前の加古郡・印南郡時代、さらには姫路藩政時代にまで遡る歴史が刻まれた史料です。この文書を守るか否かは、加古川市域の長い歴史の歩みを守るか否かという問題でもあると言えます。(no3198)

 *写真:稲岡工業に残る文書(一部)

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