ひろかずのブログ

加古川市・高砂市・播磨町・稲美町地域の歴史探訪。
かつて、「加印地域」と呼ばれ、一つの文化圏・経済圏であった。

わたの里通信誌(54) 保存活動から学んだこと(3)

2016-04-29 09:42:00 | わたの里通信誌

     保存活動から学んだこと(3)

        お茶の水大学博士課程・渡辺千尋

   お茶とお菓子

 作業中の楽しみの一つが休憩時間です。

 体を動かした後のケーキやチョコレート、コーヒーがとても美味しく、手際よくお茶の準備や片付けをしてくださる方人を見て「これが今話題の女子力」と思っています。特に上月先生の奥様が点ててくださったお抹茶の美味しさに感激しました。

 市民の、市民による、市民のための

 全体としてこれまでに強く感じたことは、史料の未来を預かるのは大学や研究機関だけではないのだということです。私はまだ研究者として半人前ですが、大学でアーカイブズを学ぶ中でなんとなく、研究者が史料の価値を決め、それを地域の方々に分かってもらう「啓蒙活動」をして、研究者が中心になって公的資金を得、文書館を設立して人々を「招く」ものだ、という感覚を持っていました。今考えるとなんと思い上がっていたのだろうと思います。史料の未来に責任を感じたのは私だけではなかったのです。

 稲岡工業や関連企業で青春時代を送った方やその子供や孫、わたの里としての加古川の歴史を大切に思う地元の方々の方が、私よりももっと稲岡工業文書を身近に感じ、文書から多くの情報を読み取ることができ、価値を認めているのです。これは私にとってとても大切な気づきでした。「市民の、市民による、市民のためのアーカイブズ」という学校で習った標語の意味が体に染み込んでいくようでした。

 保存会の方々のアイディアにご経験と専門知識を提供し、作業に来られた時は誰よりも体を動かす西向先生の姿勢からも多くを学びました。この「稲岡工業株式会社文書」を中心として文書館がいつかできていくような、そんな流れを一緒に作っていく一員になれたことをとても幸運に思っています。(no3201)

 *写真:西神吉町大国にある医療生協のレインボー会館で、「稲岡工業株式会社文書」について講演中の渡辺氏

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わたの里通信誌(53) 保存会の活動から学んだこと(2)

2016-04-29 08:53:53 | わたの里通信誌

   保存会の活動から学んだこと(2)

          お茶の水大学博士課程・渡辺千尋

  史料の整理・保存        

 また史料の整理・保存の実体験という点でも、学ぶところが多くありました。文書館などに収められている史料は目録をとったうえで、中性紙の封筒に入っています。大学や文書館では正規の史料保存箱や中性紙の封筒を買う資金がありますが、私たちの保存会にはそんな資金はありません。

 そうした時に「紙だけ買って糊で貼ったらいいじゃない!」というアイディアを出してくださるのが吉田ふみゑさんで、手作り封筒をたくさん作ってくださいました。手作りといっても紙はれっきとした中性紙、糊も保存に適したヤマト糊を使っているので本格的です。調査には行けないけれど封筒作りなら手伝ってくださるという方もいるのだそうで、出来上がった封筒は買ったもののように「ちゃんとした」感じはしませんが、一つ一つの史料にぴったり合った大きさにできます。

 史料を包む高価な木綿の紐(「ヒラテープ」)もさすがわたの里、あちこちの家になぜか「使っていない白地の木綿」があるのだとか。これを細く裂いたものがぴったりでした。史料保存箱だけは購入しましたが、これを湿気から守るスノコは、もともとタオルを湿気から守るために荷造場に敷かれていたものです。これからこのスノコと、同じく荷造場にあった廃材を使って、文書保存用の棚を作る計画もあるのだそうです。

  目録作成

 稲岡鉄工さんが事務所棟の二階を丸ごと快く貸してくださったおかげで、まずは雨漏りのする倉庫の史料を避難させることができ、元社長室という優雅な場所で目録取りと袋詰めをして、スノコの上に並べていっています。「稲岡工業株式会社文書」は、かつて『加古川市史』編纂時に編纂に必要な部分だけ整理され、1993年に『稲岡工業株式会社文書目録』が作られていました。そこでまずはこの目録にある史料が今もあるかどうかを確認し、袋詰め・箱詰めする作業から始めたところ、多くの方々がそれぞれの関心から集まって、驚きの速さで進んでいます。

 こうしてきれいに整理された史料の箱が事務所内にどんどん並んでいき、探したい史料が簡単に見つかるようになりました。最初の惨状から一転、本格的な研究への準備が整ってきたという感じがしています。そろそろ目録のある部分の史料整理が終わり、いよいよ自分たちの手で未開拓部分の目録を作る時が近づいています。

 目録があるのは倉庫に収められていた史料の半分ほどで、倉庫の残り半分、蔵、事務所棟の史料の整理はまったく手つかずです。特に蔵に収められていた創業以来の帳簿類と書簡の写しは大変貴重な史料です。昨年12月20日、その運び出しに着手しました。

  誰も本格的に見たことのない史料との出会いに胸を膨らませつつ、埃や虫と闘っています。(3200)

 *写真:渡辺氏が整理している史料が入っている段ボール箱(稲岡鉄工事務所棟二階)。

 

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