樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

枯らすか?防ぐか?

2007年01月17日 | 木と作家
ミズナラが次々に枯れる「ナラ枯れ病」が日本各地に蔓延しています。カシノナガキクイムシという虫が原因です。私のメインフィールド「栃の森」でも被害が広がり、ついにコース最大のミズナラにもこの虫が入ったようで、小さな穴から粉のような木屑が落ちていました。

      
      (このミズナラの巨木ももうすぐ枯れて倒れるのか・・・)

被害を防ぐために薬剤を散布している地方もあります。日本野鳥の会京都支部でも、薬剤散布で防ぐべきか、天然更新という長いスパンで見て放置すべきかが問題になりました。私は当初は単純に防虫対策を講じるべきだと思っていましたが、少し調べてみると、広範囲での効果に疑問があることや、根本的な解決にならないという意見、税金のムダ使いという声もあって、簡単には判断できません。
樹齢数百年の巨木が朽ちていくのを見ると「何とかできないか」と思いますし、一方で薬剤という人工物で自然の変異を止めていいのかという疑問もあります。

      
        (ミズナラの葉は深いギザギザが特徴)

このミズナラに関して、若山牧水という歌人が怒りの歌を残しています。
牧水はある山道で、根元の樹皮がはがされて立ち枯れになった多数のミズナラを目撃します。建築材としてカラマツを植林するためにミズナラを駆逐するのですが、チェーンソーのない昔は伐採が大変なので、樹皮をはぎ取って水分を断ち、ミズナラが枯れて自然に倒れるのを待つのです。その光景に対する怒りを、牧水はいくつかの和歌にしました。
   落葉松(カラマツ)の 苗を植うると 神代振る 
             古(ふ)りぬる楢を みな枯らしたり
   楢の木ぞ 何にもならぬ 醜(しこ)の木と 
             古(ふ)りぬる木々を みな枯らしたり
片や自然界の虫による倒木、片や植林のための倒木という違いはありますが、人間にとっての矛盾を抱えている点で共通しています。朽ち果てる無残な樹を目前にすれば怒りの感情が湧いてくる一方、天然更新とか林業という観点から理性的に考えれば「しょうがない」とも思えます。
また、樹の皮をはいで枯れ死させて伐採するという方法は、見た目は残酷ですが、人間の知恵とも言えます。
私はナラ枯れ病について詳しい知識を持っていませんが、現在は理性的に考えるようになりました。
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競馬場で鳥を見る

2007年01月16日 | 野鳥
以前は「野鳥の会の会員です」と言うと、「あ~、紅白歌合戦で数を数えている会ですね」とよく言われました。
最近は番組を見ないので知りませんが、もうやってないですよね? 昔はNHKホールの近くに日本野鳥の会の本部があったので、カウントに狩り出されたのでしょう。
10年ほど前、何を勘違いしたのか、京都の某団体から「クイズのイベントで正解者の数を勘定したいので来てください」という要請が京都支部にありました。私たちは「勘定の会」じゃないので、丁重にお断りしましたが・・・。

      
      (池の点々はカモさんたち、向こうの建物はスタンド)

前フリが長くなりましたが、先日その「勘定の会」をやってきました。しかも、淀の競馬場で。
全国の野鳥の会のメンバーは毎年この時期、カモの調査に狩り出されますが、私は今年初めてここの担当になりました。競馬ファンはご存知でしょうが、中央に大きな池があって白鳥や黒鳥が飼われています。冬になるとその池に野生のカモが入るのです。
先日は琵琶湖で優雅なカモウォチングを楽しんできましたが、調査となると呑気なことは言ってられません。双眼鏡と望遠鏡を覗きながら、種類ごとにカウントしました。
いちばん多かったのがホシハジロで240羽、次がオカヨシガモで108羽。そのほかオナガガモカルガモヒドリガモハシビロガモを含めて約600羽のカモがいました。同行のメンバーによると去年はこの倍くらいの数だったそうですが、今年は暖冬のせいかどのポイントでも例年より数が少ないようです。
淀競馬場のスタンドには入ったことがありますが、地下のトンネルをくぐってレース場内に入るのは初めて。馬が走るコースは想像以上に厚い芝でした。ついでに飼い鳥もカウントしたら、コブハクチョウが80羽、コクチョウが5羽でした。
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今年は左団扇だ!

2007年01月15日 | 木と言葉
初詣に訪れた花寺では、マンリョウがたくさんの赤い実をつけていました。
もともとは「万量」とか「万竜」と書いたそうですが、この赤い実を大金に例えて「万両」と表記するようになったようです。

      
       (名前のとおり赤い実をいっぱいつけています)

初詣の帰り道ではセンリョウが赤い実をつけているのを見つけました。昔は、お正月にこのセンリョウとマンリョウ、それにアリドオシという樹を鉢植えにして、「千両、万両、有りどおし」という縁起物にしたそうです。
最近はこういう言葉遊びを蔑視する傾向がありますが、駄洒落は日本の文化だと私は思っています。背景には、母音が5つしかないので同音異義語が発生しやすいという日本語の特質があります。

      
       (マンリョウよりは実が少ないセンリョウ)

このセンリョウはセンリョウ科、マンリョウはヤブコウジ科で全く別の種類。ヤブコウジ科の中にはマンリョウのほかに、「百両」と呼ばれるカラタチバナ、「十両」と呼ばれるヤブコウジもあります。誰かが「万両」のついでに名づけたのでしょう。いずれも赤い実をつける低木で、桁が小さくなるにつれて実の数が少なくなります。
年末ジャンボは外れたけど、初詣で万両と千両を見つけたから、今年はきっと金運に恵まれるぞっ!
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30数年ぶりの『武蔵野』

2007年01月12日 | 木と作家
私は大学で日本の近代文学を専攻し、卒論では国木田独歩というマイナーな作家を取り上げました。
日本の近代文学を選んだのは、外国語や日本の古語を勉強するのが面倒だから。国木田独歩を選んだのは、著作数や研究書が少なくて楽そうだったから。若い頃から、楽な方へ楽な方へという安易な消去法人生を歩んでおります。
卒業後は読んでいませんが、樹の本に時々この懐かしい名前が出てきます。『武蔵野』という代表作で明治時代の東京の森や樹を描いているからです。
先日、30数年ぶりに読み返してみました。『武蔵野』は小説ではなく、H.D.ソローの『森の生活』みたいなエッセイなので、自然に興味のない人(学生時代の私がそうでした)には面白くない作品です。
「楢の類だから黄葉する。黄葉するから落葉する。時雨がささやく。木枯らしが叫ぶ。一陣の風が小高い丘を襲えば、幾千万の木の葉高く大空に舞って、小鳥の群れの如く遠く飛び去る。(略)鳥の羽音、さえずる声。風のそよぐ、鳴る、うそぶく、叫ぶ声。草むらの陰、林の奥にすだく虫の音・・・」。
森を歩くことが好きな人にはこの感じが伝わるでしょう。学生時代の私はこういう描写をサラ~っと流していましたが、今読むと「そう!そう!」と感情移入します。

      
      (武蔵野ではないですが、ミズナラやトチノキのある落葉樹林)

別のところでこんなことも書いています。「元来日本人はこれまで楢の類の落葉林の美をあまり知らなかったようである。林といえば松林のみが日本の文学美術の上にも認められていて、歌にも楢林の奥で時雨を聞くというようなことは見当たらない」。
ある樹木研究家は、日本人が落葉樹を愛でるようになったのは近代以降のことで、それを促したのは国木田独歩をはじめ明治時代の文化人だったと言います。西欧文化の影響を受けた彼らが、文学や美術を通じて落葉樹の良さを日本人に教えたそうです。
そんなこと卒論にはひと言も書かなかったな~。
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柿の色

2007年01月11日 | 木と作家
みなさんはお正月に干し柿を食べられましたか? 私はいつもの干し柿が食べられませんでした。伯母が毎年送ってくれていたのですが、年末に「今年はいい柿が手に入らなかったから、あんたに送れるほど作ってない」と電話があってガックリ。
伯母の干し柿のうまいこと! 大きくて、ずっしり重くて、外は粉を吹いて少し硬いけど、中はゼリーのように柔らかくて、とっくり甘い・・・。結局、今年はスーパーの干し柿で我慢しました。
写真の柿の木は、私の家から歩いて5分くらいの所にあります。茶畑や野菜畑、小さな田んぼがあって、その中にぽつんと1本・・・。田舎育ちのためか、こういう風景を見るとホッとします。いいでしょう? 俳句の世界ですね。

      
      (撮影は12月。現在は実がすべて落ちています。)

有田に柿右衛門という陶芸家がいますが、つい最近まで、その名前がこの柿に由来することを知りませんでした。本名は喜三衛門というそうですが、あまりにも美しい柿の色を表現したので、藩主の鍋島侯から「柿右衛門」という名前をもらったそうです。
何でも、喜三衛門の庭の柿の木に夕陽が当たり、すずなりの赤い実が珊瑚のように輝いたのを見て、その美しい色を焼物に表そうと何年も苦心したそうです。
私は焼物の知識はないですが、柿の色に魅せられた喜三衛門の気持ちは想像できます。赤というか朱色というか、初冬の空に映える柿の実は美しいです。
来年は伯母の干し柿が食べられますように・・・。
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白鳥の湖

2007年01月10日 | 野鳥
私は鳥を見始めて18年になります。普通のバードウォッチャーは4~5年もすれば、わざわざはカモを見に行かなくなります。冬の湖や海に行けば嫌というほどのカモがいて、苦労しなくても見られるので物足りないのでしょう。
でも、私はひと冬に2~3度、天気のいい日を選んで琵琶湖までカモを見に出かけます。冬の暖かい陽射しを背中に浴びながら、湖面にプカプカ浮いているカモを眺めていると幸せになれるからです。
この「陽射しを背中に浴びながら」が大切で、自分も暖かいし、順光だからカモもきれいに見えます。そんなふうにして、カモが潜ったり、羽づくろいしているのを眺めていると、日なたに置いたチョコレートみたいに気持ちが融けてくるんです。

      
      (中央に浮いているゴマみたいなのがカモさんたちです。)

先日もとろけてきました。背中に陽を浴びるには、午前中なら琵琶湖の東岸です。湖岸道路や駐車場公園が整備されているので、ドライブも気持ちがいいし、カモウォッチングのポイントもたくさんあります。カメラマンが多いのでいつもは避けて通る白鳥のポイントにも寄ってきました。

      
         (優雅に泳ぐコハクチョウ)

ここには毎年40~50羽のコハクチョウが飛来します。この日は幼鳥も含めて36羽いました。私は白鳥を特別に美しいとは思いませんが、首が長くて、真っ白なので何となく優雅に見えるのでしょう。
カモはいつもの面々でしたが、「いたら嬉しいな」というミコアイサも沖で泳いでいました。別名「パンダガモ」、可愛いでしょ。
琵琶湖への往復は宇治川~瀬田川の渓谷の道を通るのですが、帰りはオシドリウォッチングするのがいつものパターン。駐車できる場所で止まって川を覗くと、たいていオシドリがいます。この日は、最初のポイントでは昨日ご紹介したカワセミに遭遇。さらに次のポイントでオシドリを見ていたら、対岸の樹の枝にヤマセミが止まってくれました。80円切手でおなじみですが、最近はなかなか見られなくなりました。
そんな幸運が重なって、春から縁起もいいし、天気もいいし、トロトロに溶けてきました。
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寒がりな宝石

2007年01月09日 | 野鳥
宇治市の鳥はカワセミ。平成元年の夏に「市の鳥選定委員会」が組織され、市民から公募したり、11名の委員が5回ほど集まって翌年の3月1日に正式に告示されました。けっこう大層な手続きを踏むんですね。

      

以来、宇治市の施設のあちこちにカワセミが出現するようになりました。上の写真は中央図書館のカウンターに置いてある剥製。ガラスケースに収めてあります。
ご覧のように、背中はコバルトブルー。翼は光線によってエメラルドグリーンに見え、「飛ぶ宝石」と呼ばれています。でも、それほど貴重な鳥ではなく、川や池で普通に見られます。小さいので双眼鏡がないと無理ですが・・・。

      

市役所内の看板には、こんなカワセミも出現します。guitarbirdさんのブログにもよく鳥のキャラクターが登場しますが、このカワセミもなかなかでしょう?
この鳥の美しさに感動してバードウォッチングの世界に足を踏み入れる人も多いです。野鳥の会にとっては、会員を増やしてくれるありがたい鳥。面白いのは、魚を捕って食べるとき、必ず頭から飲み込むように嘴で向きを変えること。鱗が喉にひっかからないように、そうするらしいです。

      

先日、市役所に行ったら例のカワセミがマフラーをかけていました。カワセミが寒がりとは知りませんでした。
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お札の樹

2007年01月05日 | 木の材
明けましておめでとうございます。本年もよろしくおつきあいください。
さて、今年の初詣は近くにある世界遺産の宇治上神社と、恵心院という小さな花の寺に行ってきました。花の寺ではミツマタが花芽を出していました。

      

ミツマタはコウゾやガンピとともに和紙の御三家と言われています。ガンピはクワ科、コウゾとミツマタはジンチョウゲ科。このうちガンピとミツマタは、明治以来日本の紙幣に使われています。
中でもミツマタは繊維が緻密で、弾力性や光沢に富み、しかも虫の害もなく、耐久性があるので紙幣の材料として最高で、偽造もしにくいとか。1万円札と5千円札の主原料はミツマタだそうです。

      
      (すべての枝が3つ股になっているのが分かりますか?)

枝が3つに分かれることから、この名前があります。原産地は中国からヒマラヤあたりで、日本には室町時代に渡来しました。
この花の寺ではいつも賽銭箱に小銭を入れていましたが、元旦なので奮発してお札を入れました。ミツマタが主原料のお札ではないですが・・・。
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