ライターの脳みそ

最近のマイブームはダム巡りと橋のユニークな親柱探し。ダムは目的地に過ぎず、ドライヴしたいだけ…。

親ダムに歴史あり!…山王海ダム

2024-08-09 06:55:17 | 脳みその日常
どーも、ワシです。今回は岩手県紫波郡紫波町土舘(しわぐん しわちょう つちだて)にある北上川水系滝名川(たきながわ)に築造されている山王海(さんのうかい)ダムを目指します。アクセスは東北縦断自動車道の紫波インターチェンジを降りたら右折し、県道162号を進んでいくと志和古稲荷(しわふるいなり)神社の大きな看板があるのでそこを左折。そのまま道なりに進み、トンネルを抜けたところが山王海ダムになります。

トンネルに入る前のところで「御尊顔」を拝むことができます。左岸側に洪水吐があるのがわかりますね。

ここがダムへの入口で山王海ダム管理事務所の入口でもあるんですが、ご覧のように立入禁止で中へ入ることができません。仕方ないので敷地外から見学します。

門柱の横にある案内板。これを見ると山王海ダムと次回記事にする予定の葛丸ダムは二つの水路トンネルで結ばれた「親子ダム」らしい。で、山王海ダムの諸元を見ると、高さ=61.5m、長さ=241.6mの中心遮水ゾーン型ロックフィルダムなのだとか。ただ、よく見るとこの数値は「改築」後のものらしく、旧山王海ダムのデータは記されていません。

近くにある石碑。「平安の会」がどのような組織なのかは不明ですが、ダム本体に「平安」の文字があることから何らかの関係があるものと思われます。また平成13年(2001年)10月竣工とあるのでダムを改築したのがこの時期であるようです。

別の石碑。同時期に建立されたものですが、その文言「ダムが出来 水争いのなくならむ 温き水ひろがりてゆく」とはどういう意味なのでしょうか。

山王海土地改良区の記述によれば、この地域は大和朝廷の時代から稲作に適した場所として開拓されてきたそうな。ところが水田面積に比べ、滝名川の水量は乏しく、降雨量も少なかったことから常に深刻な水不足に悩まされてきた。現在の山王海ダムの下流にある志和稲荷神社前で滝名川は二つの水系に分岐するが、旱魃になるとその水系の利用者の間で水の取り合い、すなわち水争いがたびたび勃発。その争い、時には死者も出るほどの過激なものだったらしい。

こうした悲劇を繰り返さないためにはどうしたらよいか。その苦悩が明治末期になって滝名川上流にダムを築造しようという運動になります。そして大正15年には当時の志和村が中心となってダム建設の陳情が始まり、昭和4年に計画が具体化されるも社会的政変の影響から事業の着手にまでは至らなかったそうな。

時代は下り、昭和18年、ダム建設の推進母体となった「山王海普通水利組合」(現在の山王海土地改良区の核組織)が設立され、翌年遂に山王海ダム築造の事業計画が具体化。そして昭和20年、遂にダム築造に着手。当初は営団事業だったものがその後国営事業に移行され、昭和27年(1952年)に当時東洋一のアースダムとして完成。当時の岩手県知事であった国分謙吉(こくぶけんきち:1878-1958/知事在職期間:昭和22年4月12日〜昭和30年4月29日)は「農は国の基本」をモットーにしていたことからダムの本体に「永遠に水争いがなく、平穏であれ」という意味を込めて「平安 山王海 1952」の文字を植栽したという。この時の山王海ダムはダム便覧によれば高さ=37.4m、長さ=150.0mのアースダムだったようです(参考)。

その後、近代的農業が展開していくなか、国営山王海農業水利事業は開田政策、圃場(ほじょう)整備事業による乾田化による用水不足を鑑み、平成3年(1991年)、新たに葛丸ダムを築造するとともに上の記した通り2001年には旧山王海ダムを嵩上げ、そして両ダムに取水・導水トンネルを導入するなどして現在に至っているそうな。なるほど、なるほど。

で、左岸の上流側からダムはこんな感じに見えます。

そして、滝名川の上流方向の景色。


【山王海の由来】(参考)(参考
ところで、気になって仕方がないのはダム名である「山王海」の由来です。これはその昔、このあたりに存在した山王海という名の部落に由来するものですが、ここからさらに遡るとダムの上流には「山王海館跡(さんのうかいだてあと)」があります。これは斯波氏の旧臣だった山王海左衛門太郎(?-1601)の隱城で、1588年に南部信直に追われた斯波詮直(しばあきなお:1548-1597)をここにかくまったともいわれます。また、太郎は滝名川を堰き止めて沼を作ろうとしましたが、大雨が降るたびに決壊して流れてしまったそうな。そして、ついには諦めて秋田県の八郎潟へ行ったという伝説も残っています。

歴史を繙くと様々なドラマがあり、それが山王海ダムの誕生につながっているんですね。
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