善人長屋(西條奈加著)

2023-04-25 00:00:25 | 書評
ある雑誌で、高島礼子氏がドラマ出演作の『善人長屋』を紹介していた。著者の西條奈加作は読んだことがなかったが一昨年は直木賞受賞と活躍中なので、手に取ってみた。時代小説ではあるが。

時代小説の中でも、ミステリー色が強い作、エンタメ的である作と思った。江戸の長屋といえば町人や浪人が1Kのような箱に住んでいて、いわば長屋全体が大家を中心とした共同体の観もある。(そこが幕府の共同監視策の付け目だったのだが)



登場人物たちの住む長屋は、オーナーは質屋で、その他の住人は一見は義理人情に篤い紳士淑女を装っているが、全員が犯罪者。表向きの善人顔のため「善人長屋」と言われている。凶悪犯はいないようだが、住人は盗品買取業に情報屋に文書偽造家、美人局の兄弟、巾着切り。ところが、新たに錠前破りが転入することになっていたのだが、偶然、何も知らない錠前職人が入居してしまう。転入予定の錠前破りが江戸潜入前に捕まってしまったので気が付かなかった。

この錠前職人は根からの善人で、人助けばかりをして、長屋に連れてきてしまう。そうなる住人たちは自分たちが悪人であることを隠したまま、小賢しい犯罪を重ねながら問題を解決していく。


似たような展開は畠中恵氏の「しゃばけシリーズ」であるが、「しゃばけ」は善人と悪人が二分割されている。西條奈加氏は「しゃばけ」を意識してさらにヒネリを加えたのだろうか。

実際には『善人長屋』シリーズは3冊あるそうだが、「しゃばけ」は毎年1冊ということで20冊を超えている。むしろ、西條氏は時代小説の中で、ファンタジー→ミステリー→アドベンチャーと域を拡げた上、現在は社会派になっているようだ。直木賞はその延長にあるのだろう。