バルカン超特急(1938年 映画)

2020-04-07 00:00:23 | 映画・演劇・Video
ヒッチコックの英国時代の集大成というべき映画。翌年、戦火の近づく欧州から離れ、ハリウッドに活躍の場を移す。

この1938年というのは、悪名高い「ミュンヘン会議」のあった年だ。ヒトラーの率いるドイツがチェコスロバキアを吸収しようとして英仏と対立。しかし英国は、ナチズムよりソ連の共産主義を恐れ、ドイツを使って共産主義からの堤防にしようと、チェコをドイツが支配することを容認してしまう。そして、ヒトラーは世界制覇に向けて邁進をはじめてしまうわけだ。英国首相のチェンバレンは会議でドイツやソ連との戦争を回避したとしてロンドン帰朝時には市民の熱烈な支持を受けるが、後に「ナチ躍進を招いた無能首相」と言われる。

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この映画も、英国のスパイ(老女)がドイツ側の某国から列車で逃走する途中に国際列車内で消えるという事件をテーマにしている。ある意味、007の『ロシアから愛をこめて』にも影響しているのだろう。ストーリーは、第一話は列車に乗る前夜の田舎ホテルにはじまる。様々な国籍の様々な無関係な男女が泊まったホテルで、殺人事件が起きる。ホテルの庭で演奏中のイタリア人(のちに英国側スパイであることがわかる)が殺されるのだが、謎の音楽で客室の老女(学校の先生でありスパイ)に情報を伝達したあとだった。

そして老女殺害計画は失敗し、第二話の機関車超特急に乗ってしまう。そして英国人の若い女性(アイリス)と親しくなるが居眠りしているうちに老女は忽然と消えてしまった。さらにまったくの別人が替玉で登場。そこに登場したのが、長身で女性に親切な音楽家のギルヴァ-ト。真相解明に動き出すが、乗客たちは「めんどうなのはゴメン」とばかり口を閉じてしまう。さらに多くの乗員は買収されている。

そして第三幕は、真相を知ったアイリスとギルヴァートが列車内で敵と戦い、さらに老女や英国人乗客と列車内に立て籠もって銃撃戦をやったり、列車を自分たちで動かしたりして、ついに国境を突破するわけだ。

要するに、ドイツ人(とは断定していないが)は悪で、英国人は善という構造なのだ。しかし、敵国内に潜伏したスパイは、それ自体が犯罪者とみられてもしかたないのに、捕まえようとしたら逃げられて、それの方に正義があるというようなストーリーは、いつものように英米主義だ。

ちなみに『ロシアから愛』だけではなく、ジョディ・フォスター主演の『フライトプラン』という映画は、航空機の中から人(こども)が消えるという仕掛けになっていて、本作を下敷きとしていると言われるが、買収された乗員が彼女をハイジャック犯に仕立て身代金を要求させ、途中で巻き上げて飛行機も炎上させて証拠隠滅してしまおうというケチな話になっている。ただし、おもしろいし、怖くないし、正義が勝つ。