岸田家のひとびと

2009-05-24 00:00:58 | 美術館・博物館・工芸品
ryusei新宿の損保ジャパン美術館で、岸田劉生没後80年特別展が開かれている(4月25日~7月5日)。ほぼ全展示が肖像画ともいえる壮大な企画である。もともと、「岸田劉生の首狩り」とは同時代に有名な呼ばれ方で、1日2枚とか仕上げていたらしい。多くの画家仲間がモデルになっている。

ゴッホやセザンヌに影響されたと本人は言っていたそうだが、他の画家の影響も随所に感じられる。

そして、岸田劉生と言えば、有名なのが「麗子シリーズ」。彼の娘である。娘をネタにして、幼女の頃から成人するまで様々な有名作をなしている。

しかし、かねがね思っていたことがある。

麗子って、あまり、可愛くないなあ、ということ。

ryuseiところが、そういう幼女であっても、女性の容姿について善悪を口にしたり文字にすることは、はばかられるわけである。セクハラそのものみたいである。「画家が娘を描くのだから、少しは美人に描くはずなのに、それでも気持ち悪いのだから・・」と思っていた人は多いのではないだろうか。

さらに、今回の展覧会では、自画像が出品されている。なかなか個性的で、いい男である。たぶん、本人より男前だろう。なにか変だ。

もっというと、奥様の肖像もあった。すごいカギ鼻だ。男みたいだ。しかも、絵画の中にうっすらと、「PORTRAIT OF SHIGERU」と書き込まれている。SHIGERUとは男の名前ではないだろうか。


ところが、実は、会場には、麗子さんの写真や、奥様の蓁子さんの写真も展示されていたのだ。

まったく似ていない。

まず、麗子さんの方だが、結構、現代的(平成初期)な顔の美人系である。女優の沢田亜矢子さんに似ている。こどもの頃の写真をみても、比較的タマゴ型の顔立ちである。キャンバスの中の麗子の顔(や体)は、縦より横の方が長いのだが、どういうことなのだろう。

ryuseiまた奥様の顔も、別にカギ鼻にはなっていない。ただ、名前の方は、本当は、一文字の「蓁(しげる)」だったのを、女性的な「蓁子」と表していたようだ。

普段はあまり読まないキャプション類をながめているとわかってきたのだが、

わざと、グロテスクに描いていたらしいのだ。

どうも、国内外の様々な画家の技法を取り入れているうちに、戦国時代末期から江戸時代初期に活躍した「岩佐又兵衛」に心酔したようなのだ。異様の画家である。戦場を描けば、首ゴロゴロの図である。首狩り劉生はグロテスクの中に美を見つけていたのだろうか。

つまり、赤の他人でモデルを頼まれた人にすれば、向かい合った岸田劉生がせっせと筆を走らせて完成した自分の肖像を見ると、びっくりするではないか。そして怒り出す。さらに、「友人K」とか題名がついてしまう。こうして、岸田家のひとびとの自己完結型作品群が量産されていったわけだ。

のちに、麗子さんも画家になり、麗子さんの娘である夏子さんも画家になった。誰をモデルにしているのかは、よくわからない。