将棋界の事件簿(田丸昇著)

2007-09-08 00:00:20 | しょうぎ
7293c723.jpg将棋界の事件簿(田丸昇著・毎日コミュニケーションズ)は2005年10月の初版であるから、最近の「名人戦主催紙問題」や「女流棋士独立問題」「ソフト盗作問題」などの重大問題は書かれていない。それらの問題と比べれば、小さいのかもしれないが、将棋界のインナーレポートのような書であり、普通の会社では表ざたにならないような話を堂々と出版できるのは、将棋の世界が、実力の世界であって、何を書いても「クビ」になることはないと思われるからだ(ところが、最近は、連盟会長に楯突くと、「除名だ」とか脅される可能性があるらしい)。

著者の田丸昇氏は、本の中で自ら書いているが、生涯最高の成績はA級在位1年というくらいなので、30年間でそれほどの実績もなく、最近は生涯勝率も5割を切ったそうだ。とはいえ、A級に1年でも在位したというのは、プロとして、名人になることの次のレベルの目標なのだ。C2組で終わる棋士も相当いるのだから、成功した口だ。それに、最近の最大の仕事は、「名人戦の朝日×毎日問題」を決する棋士総会で議長を務めたことか。賛否同数の場合、最後に議長が一票投じて決めるという、PK戦の最後のキッカーみたいな役だった。

つまり、引退しているわけではないが、気分的には引退棋士、ということになるのだろうか。かなりきわどい内容に踏み込んでいる。内容は、いわゆる事件簿という「やばい話」、「将棋界が二分されたテーマ」、そして、「エピソード」だが、当然、「やばい話」や「二分テーマ」の方が面白い。

「将棋会館建設問題」
以前、調べていたのだが、よくわからない話だった、現在の千駄ヶ谷の将棋会館だが、表(将棋世界誌)に出ている話では、総額6億円で、うち1億2千万円の寄付を募っている。そうなると必要資金は4億8千万円と言う計算になるのだが、日本船舶振興会(現日本財団)から、2億円の建設助成金を得られることになったそうだ。それが昭和49年の話で、まあ色々ごたごたして、将棋連盟の加藤会長以下の理事が総辞職したりしている。そして、奇妙なことに、理事が変わったのに、方針は変わらず、そのまま将棋会館ビルは建設されることになる。

「名人戦の朝日×毎日問題(前回の)」
この問題は、昨年の名人戦移管騒動で、再度、振り返って語られるようになったが、元々、将棋連盟が将棋会館建設に振り回されていた昭和49年頃から、読売新聞の部数が伸びてきて、これらの新聞棋戦の行方が高額トレードされる要素があったわけだ。それに期待して、連盟は、朝日とけんかしても、毎日、あるいは読売と契約できるだろう、と甘く考えていたが、結局、読売は、その直前に、朝日を抜いて部数ナンバー1になっていた。今更、将棋でもないのだ。そのため、1年のブランクができしまった。

「千日手ルールの変更」
以前の千日手ルールでは、同一手順3回繰り返すと千日手成立ということだったのだが、昭和58年3月のA級順位戦の谷川×米長戦で、米長が千日手を成立させずに60手以上も金銀の打ち換えを行った後、谷川が打開に出て失敗。その後、米長の行為に議論噴出し、現在の「同一局面4回」で成立するということになる。実は、このルール改正案をまとめたのが、武者野四段。今や米長会長の天敵みたいな存在だが、案外、この千日手ルール問題あたりのことを根に持っているのかもしれない。

「林葉直子失踪問題」
林葉問題といっても例の不倫問題ではない(というか、本当は同時進行だったのだが、当初は失踪問題だけが表に出ていた)。平成6年に起きた、現役女流トップ棋士の失踪問題。「心身疲労」という理由で休場届を出し、国外脱出。アイルランドの田舎に行っていた。そして、ついにマスコミに居場所を発見され、極秘帰国。「謝罪会見」をした後、連盟理事会による処分が決まる。容認派と厳罰派に分かれた結果、対局禁止3ヶ月となる。なにか、朝青龍とまったく同じだ。失踪事件の原因だった不倫事件は、まだ暴露されていなかったのだが、彼女の謝罪記者会見をもっともハラハラ聞いていたのは元名人だったということになる。朝青龍問題だって、表に出てこない、巨大な問題が隠れているのかもしれない。

「テレビ対局遅刻の罰」
先日、二人の棋士がテレビ対局(銀河戦)不戦敗の責を問われ、処分されたが、同様な例があったそうだ。平成元年5月のNHK杯。櫛田×高橋戦で、櫛田四段が大遅刻。対局開始時間より30分遅れ、自宅に電話すると、寝過ごしている。高橋八段が激怒して、対戦しないと言うのを「テレビ番組に穴が開く」となだめて、ようやく対局開始。その後、この勝負に勝った櫛田四段はどんどん勝ち進み、とうとうNHK杯で優勝。その後、不戦敗・次期出場停止・多額の賠償金といったテレビ対局専用のルールができたそうだ、今回の処分が妥当かどうかは、このルールと実態の差ということなのだろう(ルールの詳細は書かれていない)。


7293c723.jpgさて、8月25日出題作の解答。

▲9一飛成 △9二桂 ▲9四香 △8三玉 ▲9二竜 △7三玉 ▲7四香 △同馬 ▲6二銀不成 △7二玉 ▲8一竜 △8三玉 ▲7五桂 △同馬 ▲6三香成 △5六香 ▲7二竜まで17手詰。

最後の17手目は▲7三成香あるいは▲7三銀成でも詰む。一応、初型で玉方6一桂を配置して最終修正図ということにしておく。

この問題は、パソコンに勝手に考えさせた上、修正したもの。一枚、桂を補充する手筋がオリジナルのパソコンの思考。パソコンのくせに、狙いがはっきりと見えてしまう。竜が一マスずつ動くという妙な感じは、人間が付け加えた部分。


7293c723.jpg今週の問題は、打歩詰がらみ。手筋的なのかもしれないが、最後はキッチリと詰むような感じ。

「わかった!」と思われた方は、いつものようにコメント欄に最終手と手数と酷評をいただけば、正誤判断。

なお、まったくの余談だが、この「わかった!」というのは、ギリシア語で「ユリイカ」というそうで、アルキメデスが風呂に入っている時に、王様の冠に金以外の素材を混ぜていることを証明する方法を思いついた時に、発したそうだ。

冠に混ぜ物をした合金野郎は耳の穴に、熱く溶かされた金属を流し込まれて死刑にされた可能性がある。

「イタイカ?」
「アツイカ?」


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