サハリン1、日本向け天然ガス供給の中止の背景

2004-11-07 22:02:17 | MBAの意見
7a911761.jpg11月2日から3日にかけ、多くの一般紙で報道されていたサハリン1の日本向け天然ガス供給の白紙化について考えてみた。数年前、利権のおこぼれを狙って調査していたのだが、やっとの思いで函館の代理店ルートにたどりついた時には既に利権化が進んでいて、やむなく工作をギブアップした時の資料を読み直してみる。

まず最初に一言だが、原油やガス田の開発などというもの、問題の塊である。環境破壊も半端じゃないし、利権の分配から、国際問題までありとあらゆる価値観の人が登場するので、一つ一つの善悪を考えるのは難しい。自分で掘らねば誰かが掘るだけだし、環境保護といっても意味がない。先住民やコクジラの生態系はだいなしなのだが、あまり感情移入せずに、説明してみる。

まず、サハリンの開発状況だが、実は、ぐるっと一周とりまく大陸棚のすべてが鉱区になっている。それをサハリン1からサハリン9までのエリアに割り振っている。すでにサハリン6までは採掘権を持つ会社が決まっている。サハリン1とサハリン2は、サハリン北東部の1区画の中に共存している。というか最初に試掘した何本かの井戸をエクソンモービル(サハリン1)とシェル(サハリン2)に分け与えた形にしている。

ではサハリンの埋蔵量の総量はどれくらいだろうかというと、正確には誰にもわからないのだろうが、結構多いのではないかと思われている。なにしろエクソンとシェルという二大メジャーが血眼をあげているのだ。サハリン1はエクソンモービルの出資が30%、日系のサハリン石油開発(公団、伊藤忠、丸紅)が30%、インドの会社20%、ロシアの会社2社20%という構成だ。がっかりする話をすると、このサハリン石油開発という日系企業の出資金の大半の1100億円は国際協力銀行からの融資だが、そのカネの出所は郵便貯金と年金だ。投資ではなく出資金なので、利子分は配当で支払われるものの、元本は返ってこない。遠い将来、油田を掘り尽くした後に会社解散して返ってくる。もちろん開発に失敗すれば、配当もなければ、元本もなくなる。

シェルが中心のサハリン2では三井物産、三菱商事が一枚噛んでいるのだが、サハリン最南部まで原油とガスの陸上パイプラインを敷設し、そこからタンカー出荷を予定している。

一方、エクソン系のサハリン1は、原油は対岸のロシアまで短いパイプラインを敷設し、一方、ガスは長躯、海底パイプラインで稚内沖から日本海を通り、石狩市からいったん日本へ上陸し、札幌近郊から苫小牧を通った後、再度海底パイプラインとして太平洋岸を南下し、九十九里海岸(白子)から再上陸すると言う壮大な構想だったのだ。完成予定は当初は2008年、その後2010年に変更になり、さらに。とうとう中止になりそうだ。

なぜ今回、日本向けが中止になり、原油と同様に大陸向けパイプラインになったのかということかなのだが、最大の問題は、漁業補償の問題のような噂が聞こえてくる。日本の漁業に被害があるかと言われれば、海底パイプラインによる影響はまずない。それで当初エクソンはパイプライン構想を打ち出したのだろう。しかし、今のところ高額な漁業賠償金が要求されているらしく、デッドロックになったのかもしれない。なぜ、もめるのかと言うと、いわき沖ガス田開発で、まずい補償の前例を作ったからだろう。くわしく書くと江戸前の穴子の餌にされそうなので書かないが、巧妙にやっているようだ。今回も、ここぞとばかり多大な補償金を要求したのだろうが、それでは事業がなりたたず、日本向けは止めたということだろう。

日本企業や日本のカネがないと開発できないはずだったのに、今さら中国や韓国向けでは困ると言う声もどこからも聞こえてこないのではあるが、今度のエクソンモービル側の「脱日本戦略」は経済産業大臣に対して「早く漁協問題を解決しなければ、日本にはガスは渡さないぞ」というゆさぶりをかけてきたのだろうと思う。しかしサハリン石油開発社の単独の問題としては、仮に、日本にガスや原油が来なくても、中国や韓国に販売して投資に見合うリターンがあればいいのだろう。

奇妙なことに、ロシア側のパイプライン構想の図面を見ると、パイプラインは中国から、北朝鮮ピョンヤンを通った後、ソウルまで行くことになっているが、朝鮮半島の事情を知らないのだろうか、それとももうすぐ統合されると信じているのだろうか。

実際には被害のない漁業補償の問題を外国企業に対して持ち出せば、結局はこういう結果になるのは当然なのだろうが、今、パイプラインを敷かない限り、今後のサハリン3から9までの開発分も安定的に日本には供給されない確率が高い。もちろんLNG(液化天然ガス)による輸送は可能だが、船による輸送となれば、世界のどこへでも向うことになる。フィクサー鈴木宗男は別のおつとめが決まっているし・・・