逆ホメ殺し

2004-11-01 22:14:53 | 市民A
2004年はアメリカ人にとって、前後の年よりも1日、休日が多い年だ。11月2日は米国大統領選のための休日である。しかし直前になって、いくつかの事件が起きている。

まず、PLOアラファト議長が、病気治療の目的でフランスに向った。多くの報道では、白血病との説もある。本当とするなら年齢的に骨髄移植は困難であろうから、集中的な化学療法となるだろう。彼自身が再度パレスティナに戻ることを期待するだろうが数ヶ月先になるだろう。アラファト議長の重病のニュースは、ケリーに有利だっただろうと想像する。一説では、アラファトが亡くなった場合、その日をイスラエルが祝日にするという話もあるが、たぶん違うだろうとは思うが、本当かもしれないとも考えてしまう。ただ、それは大統領選挙の後の話だ。

次に、生死不明とされていたウサマ・ビン・ラディンがテレビ画像に登場して、米国に対するテロ宣言を行った。世論は大きくブッシュに傾いている。論理的には、ブッシュだからテロがおこらないということでもない。当面、政権交替でも大きく変わらないはずだ。イラク情勢は既に非可逆性の世界だ。では、ビン・ラディンからみればどちらが大統領になってほしいかといえば、ブッシュのはずだ。ケリーのように国連の枠組みを中心に活動すると、アルカイダの足場がなくなる。そうでなくてもイラク人から見れば成金の金持ちであるサウディ人との関係はあやうい。

今度のテレビ報道は、「逆ホメ殺し」とでもいう行動だろう。それにしても、この程度のゆさぶりで世論が動くとは米国の底も浅い。ウサマ・ビン・ラディンが選挙直前に捕まるという噂もあったが、さすがにここまでくると「泳がしていた」といわれるので何も行われないだろう。

それにしても、はたからみていると、どうしてこうレベルの低い、相手候補の欠陥ばかり言い連ねる選挙運動になるのだろうかということだが、私は2つの理由を考えている。
1つ目の理由は、大部分の国民は、共和党と民主党のどちらかの支持を決めているため浮動票が10%程度しかない。このためネガティブキャンペーンに終始してしまう。
2つ目は、大統領選挙が州ごとに選挙人総取り方式のため、見込みのある州(スウィングステート)に集中して選挙を行うため、どうしても選挙戦は局地的に激しくなっていく。

この2点のうち、最初の点(浮動票の低さ)の補足であるが、得票率も低いことがいえる。もともと英語が苦手なヒスパニック系の人たちは棄権率が高いそうだ。また選挙戦がネガティブキャンペーンに成り果てた結果、さらに投票に行く気力が失われてしまうのだろう。

次に、2点目の、州ごとの選挙人総取り方式だが、18世紀から行われるこの制度、米国でも評判が悪いそうだ。何しろ前回の選挙のときは総得票数の少ないブッシュが大統領になったのだから。また、理論的には相当大量の死に票が発生することになる。たとえばカリフォルニア州の選挙人は、上下院の議員総数の55であるが、1票でも大ければ、少ないほうの投票はすべて死に票となる。選挙戦終盤ともなれば、両候補とも世論調査でどちらとも決していないスウィングステートに張り付いての選挙活動となる。もし、選挙人選挙方式でなければ、カリフォルニアとかニューヨークとかいったところで全米を対象とした選挙戦を行うことになるだろう。しかし、もちろん直近の選挙制度を変えることはどこの国でも難しい。

それでは、闖入した応援団のおかげでブッシュが再選を果たすと、日本にとって有利かどうかだが、なかなか簡単ではない。まず、米国民はブッシュを大統領に推す反面、共和党が有利な両院議員選挙ではバランス感覚を働かせ、民主党が健闘するかもしれない。また、短期的にはともかく、経済的政策はグリーンスパンが決めている感もあり、どちらが大統領でも大差ないかもしれない。

前回の選挙では次期大統領が決まらない不安定な状況の中で、グリーンスパンの政策決定が遅れたと指摘されている。

また政治的にはブッシュの政策がますます袋小路に入り込み、2008年の選挙では共和党が大敗する構図になるのかもしれない。

2008年に、共和党政権が弱体化した上で民主党がヒラリー・クリントンを大統領候補にすることも考えられる。その場合、対抗できそうなのはシュワルツネッガー氏くらいなのだろうがそれには問題がある。憲法上、大統領は米国生まれで米国籍を取得したものに限定されている。シュワちゃんは移民だ。もし、ブッシュの頭の中に4年後のことがあるなら、今のうちに「そっと」憲法改正をしてしまうかもしれない。