ピストンエンジンは永遠か!な?

バイクを中心に話題を紹介します

OHVの未来は (最終章)

2005年10月18日 | consideration

 8月25日にこのブログがスタートして早や100回目の記事になってしまいました。たくさんの方が遊びに来ていただいて更新する励みになっていますので、これからもよろしくお願いします。
ちょっと間が空いてしまいましたが、OHVの未来って本当にどうなるのでしょう?
考えていると悲観的なものしか見えてこないので結論が中々出ないのですが(本当は出したくないかな?)現状をもとに考えてみましょう。
OHVと空冷は別々の機構ですが、ハーレーの魅力として考えると切っても切れないモノがあります。これにビッグツインというキーワードを付け加えた分野において去年あたりの情報では、空冷エンジンはユーロ3や日本の平成18年規制の高い壁に、ほぼ絶滅するのではないかと言われていましたが、幸いな事にどうもそうでもないようです。正式なアナウンスはまだ聞くことは出来ませんけれど、2006年のヨーロッパにおけるハーレーの商品ラインアップに大きな変更はありませんし、ワタシの手元にある06モデルの排ガスデータも空冷ハーレーがユーロ3の排ガス規制をクリアしたと推測させるのに充分なものであり、ヤマハMT01もクリアしたと聞いていますので、近い将来はまだ安心できるようです。

ハーレーの人気のワケ
クルマのガソリンエンジンは30年以上も前に排ガス規制の洗礼を受け、高いハードルを次々にクリアし熟成されて、その感触はまるで電気で回るモーターのようです。ごく一部の趣味性を訴えるものを除けば、その存在は「何であろうと何処にあろうと関係ない」考えようによっては理想のパワープラントで、もはや有害ガスは出さなくなる水素エンジンに切り替わっても不満を言う人はいないかもしれません。
日本製の高性能バイクも4気筒エンジンは色々な意味でも標準化されて、その高いパフォーマンスも排ガス規制の犠牲になることなく、むしろ電子コントロールにより更なるパフォーマンスを示そうとしています。
日本でのハーレーの人気のモトは様々ですが、ひとつの大きな要素に「鼓動」を上げる方は多いようです。付け刃のジャパニーズアメリカンとは違い黎明期からずっと同じ様なスタイルとエンジアリングを守ってきたハーレーは、日本のメーカーとはまるで違う軌跡を辿ってきたのはご承知のとおりですが、グッチなどと同じように暦史のあるメーカーは「時代のサイクル」を引き寄せてしまったことなのでしょうね。存在感をなくすほど進化し続ける内燃機関に対するアンチテーゼとも言える「失われたもの」や「失われつつあるもの」への郷愁は根強く、故障などのリスクを消去できる「ノスタルジックなハーレーの新車」は今後も社会から要求され続けるでしょう。

ハーレーのTC88エンジン(B)
これから先の10~15年の担い手として20世紀の最後にデビューしたこのエンジンは、前の世代のエボリューションエンジンと空冷45°VツインOHVという基本路線は守っていますが、全般的に機械としての熟成度が進んだとみても良いでしょう。ナックルからエボまで、それまでの段階的な進化と違い大きく変化を遂げました。
熟成度とは一つにオーバーホールまでの走行距離延長で、極端な例ですと初期の航空機エンジンは数時間の運転でオーバーホールを要したとされています。もう一つは運転途中の偶発的な故障要因を減らす事でしょうね。ハーレーも近年ではヨーロッパでの人気が高く販売台数も増えているようですし、アメリカでも55マイルの最高速度は65マイルに高くなった州も多くなり、日本の高速道路でも80km/hの制限が取り外されています。つまりクルージングスピードが高くなって、そういったハイスピードにおける快適性も重視されてきますね。
こうした背景のもとに誕生したTC88エンジンは「トラブルフリーを目指したハーレー」として、世界的に販売台数を大きく伸ばしてきたのはご承知のとおりです。しかしこの先もパフォーマンスを維持して私たちを楽しませてくれる事ができ空冷OHVの未来を託せるのか大いに気になります。

ユーロ3以降のハーレー
中国の北京でも今年の7月から予定通りにユーロ3基準の排ガス規制が施行されたようです。日本では平成18年規制が輸入車特例として平成20年9月より施行されるように、今までは平成11年規制でも乗用車の規制の17倍ものHCの排出が許されていましたがこれからはそうもいきません。日立グループのテレビCMのように貨物船が途中で引き返してしまいます。
手元の排ガスデータによると相当な希薄燃焼をしているようなので、噂のようにトルク不足解消の6速ミッションなのか気になるところで、是非乗ってみたいと思っています。

空冷OHVビッグツインの問題点
規制クリアの絶対条件である希薄燃焼は、燃焼時間を考える点ではレースチューニングと共通するところもあります。高回転でパワーを出す場合には燃焼時間を短くする必要があり、希薄燃焼ではノッキングしやすいので、マッピング等によるきめ細かな点火マネジメントだけではなく、適切なスワール(渦流)を作ってやり燃焼を促進してやらなければなりません。
理想的なスワールは4バルブで可能になり、空冷の4バルブはヘッドの熱ひずみによる影響が大きいので中々難しく、ヤマハのMT01のヘッドは巨大です。
しかし、騒音規制も厳しくなっているので、大きなピストンの発生する音エネルギーはバイクに存在するスペースに置けるマフラーの大きさで消音すると残留ガスが多くなってしまい、まるで昔のEGRが効いたエンジンのようになってしまいます。
元々ハーレー独自の乗り味はOHVの大きなフリクション、フライホイールの大きな慣性重量、2バルブの荒々しい燃焼が組み合わさったモノによると言わざるを得ないところで、TC88のカムチェーンテンショナースプリングの強さは(ラチェット式にすればもっと軽くできる?)故意と思わせるフシがあるほどです。そうしたパワーロスを補填する意味では内部フリクションを減らして実効パワーに上乗せする必要があるので、OHVに内包するフリクションは問題ですね。何らかの方法でフリクションを減らし、さらに希薄燃焼で荒々しさがなくなったOHVエンジンは外観的な特徴に過ぎなく、こうして考えると旧来の魅力はすでに途絶えているのかもしれません。

カムシャフトが消える?
ルノーチームは今年のF1レースのタイトルを全部持っていってしまいましたが、3.5Lエンジンで19000rpmの高回転を実用化したニューマチックバルブのシステムは元々ルノーが1980年代に開発しています。実際にはまだのようですが、そのルノーに関した噂が絶えないのが電磁駆動バルブで、つまりカムシャフトの替りにソレノイドでバルブを動かすというのです。
効率を上げる事によりパワーを上げられれば、結果的に燃費も抑えられ排出炭酸ガスも減らす事が出来るので、現在でも可変タイミングのカムを採用するクルマが増えていますが、可変タイミングではカムの作用角までは変えられないのでそれほど大きな効果は得られません。ところが電子コントロールの電磁駆動で自由自在にバルブを動かすとフリクションも減り、まだまだ市販には遠いかもしれませんが実効パワーは2倍くらいになるのではと思えます。
となると、将来的にはOHVだけでなく全てのエンジンからカムシャフトがなくなる可能性があるわけで、ピストンエンジンの発展にはまだ先があるようです。

結論
やはりOHVにとって悲観的な結論が出てしまいましたが、多分ココに遊びに来ていただいている方は既にハーレーを所有しているでしょうから大事に乗り続けていただきたいと思っています。

この記事は難産でしたが、ブログは続きますのでヨロシクです。


触媒②

2005年10月12日 | consideration
私たちに一番身近な触媒の例といえば白金カイロです。最近は使い捨てカイロに押されて絶滅したのかなと思っていたら、最近は復活して年間30万個も販売されているらしいのです。
使い捨てカイロは鉄粉を水分と塩分で酸化させた発熱を利用するので、鉄粉もゴミとなってしまいます。1個の使用量は大したことがないでしょうが、それが何百万個ともなれば使用量は莫大になるでしょうね。対して白金カイロはベンジンを補給するだけなのでランニングコストも十分の1で済みゴミもでないのが人気らしい。
ベンジンは石油ですが、普通に燃やせば700~800°くらいにはなりますが、白金を触媒にすると130~300°で安定します。
ちなみにイタリアとかドイツでベンジンはガソリンのことを言うようです。
寒い冬にバイクに乗るときは是非白金カイロを使ってみてください。

触媒の寿命?
現在、適用されているバイクの排ガス規制は割と緩やかなもので、ハーレーでもスポーツスター系は触媒なしでも規制に適合していますが、ビッグツインには2001年モデルから触媒が装着されています。2004年モデルからは、それまで1個であったものが2個になり排ガスの浄化機能が安定しているようです。
我がECCTOSに装着している触媒はサクラ工業というメーカーから供給を受けていますが、このサクラ工業は某国産バイクメーカーのマフラーもOEM生産してるので、当然触媒の耐久試験も行っているようですが、マフラー本体がボロボロになっても触媒の機能は問題なかったそうです。
昔のハイオクガソリンは4エチル鉛を含んでいて鉛公害も引き起こしましたが、触媒の寿命も縮めてしまうため使用が禁止されています。クルマのガソリン給油口が小さいのは、給油ノズルの大きさが変えられてノンリード(鉛なし)のガソリンしか入れられないようになっていたと記憶しています。

触媒が詰まる?
ノーマルマフラーに社外キャブレターを付ける方は居ないと思いますが、3元触媒を機能させるのには空燃比(混合比)がかなり薄くなければなりません。つまり、アクセルを吹かしたときに黒煙がでるようなセッテイングではないということで、通常では触媒がすすでつまる心配はないのですが、エンリッチナー(チョーク)をひいた暖気運転を長くやる人や、ノーマルマフラーに高性能キャブをつけて調子悪いまま乗っていて、触媒が暖まって煤を燃やす間もなく低回転でドコドコ乗っていると、純正マフラーの触媒は目が細かいために詰まってしまう可能性があるかもしれませんね。このような心配がある方は是非ECCTOSを使ってください(笑)。
ハニカム触媒はペレットのものに較べて、元々透過性が良くて普通では詰まる心配はないのですが、ペレットを使ったクルマでは詰まってしまって調子が悪くなるなどの例もあるようです。
ペレット触媒とは球状の担体に触媒成分をコーテイングしてあるものを箱状のケースに詰め込んであるものです。






Vツインの起源③の補足

2005年10月11日 | consideration
Vツインの起源③のなかで、BMWのヘリオスについて「へんてこバイク」と書きましたが、仲間がたくさん居たのにはビックリしました。
最近はバイク雑誌をあまり読まなかったので今頃気付いたのですが、先月発売のHOTBIKE誌86号を今日みていたら1920年ハーレーダビッドソンW sportの記事が掲載されていました。ご存知船場モーターのコレクションだそうです。しかもハーレーダビッドソン本社から請われて売却され、アメリカに里帰りするのだそうです。
このWスポーツがヘリオスと同じ横置きフラットツインで、記事には英国ダグラスのコピーと書いてあります。
調べてみると確かに1931年ダグラスE31という横置きフラットツインはありましたが、それ以上のことは分かりません。
BMWはヘリオス以前につくったのは2サイクル単気筒で、ヘリオスのすぐ後には普通の縦置きフラットツインになっていますので、横置きフラットツインはヘリオスのみです。
ハーレーも本社に保存されていないくらい希少なものですから、あまり売れなかったようです。
ダグラスが本家で、ハーレーWスポーツ以前から31年までずっと作っていたのかは分かりませんが、3つのメーカーが大西洋と英仏海峡を跨いで、この超ヘンテコなバイクが市販されていたとは本当にビックリです。
しかし、、難儀でコストが高くつくと思われるシャフトドライブを使わないで、振動の少ないフラットツインを採用するには、横置きクランクシャフトは素晴らしいアイデアと思えたのかもしれませんね。
興味のある方は是非HOTBIKEを購読してください。


触媒

2005年10月10日 | consideration
ここのところ涼しいので現場仕事が進み、このブログを書く時間がありませんでした。
しばらく前に、ターミー君からリクエストのあった触媒のことを思い出したので説明させていただきます。
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左側は弊社で販売しているECCTOSマフラーに使っている触媒で、右側はハーレーの純正マフラーに入っていた触媒です。
大きさはひと目で分かりますが、中の網目みたいなのがハニカムと呼ばれていて、ECCTOSのが100セルという細かさで、純正のものより荒いのがお分かりでしょうか?長さが半分でしかも目が荒いので随分抜けが良いと思います。

現在、自動車やバイクの排気ガスを浄化するための触媒は三元触媒と呼ばれる物で、CO・HC・NOxを1つの触媒で処理してしまいます。外側の筒とハニカムと担体と言い、耐熱性の高いステンレスで出来ています。これに白金とロジウムを5対1の割合で担体にコーテイングしてあります。
ロジウムはあまり聞いた事がないと思いますが、なんと白金の3倍もの価格(1gで1万円)だそうです。それだけ需要が多くて生産が少ないのでしょう。ハーレーでは2001年モデルから装着されていますので、もったいないから外さないでくださいね。
触媒は化学反応を促進させる働きがあり、CO(1酸化炭素)を酸化させ2酸化炭素に、炭化水素を水と2酸化炭素に、NOxを窒素に還元させます。
NOxって昔から騒がれていますが、馴染みがないですよね。
本来、窒素は安定している気体で、普通私たちが呼吸している空気には8割も含まれています。ところが高温で物が燃えると、この空気中にたくさんあるので酸化して1酸化窒素や2酸化窒素になり、光化学スモッグや酸性雨の原因になってしまいます。
30年前の排ガス規制に対応したクルマは、このNOxを減少させるため燃焼温度を下げるようとEGRというものがあり、排気ガスをまた吸入させたのです。当然、調子はすこぶる悪くみんな外してしまいましたね。
3元触媒に感謝ですよ。

続く



OHVの未来は?②

2005年10月06日 | consideration
valbe
これはショベルエンジンのバルブトレインです。こんな形で見るのは初めての方も多いのではないでしょうか?
カムシャフトと、それに動かされるバルブとの距離が随分遠いと思われるでしょう。ロッカーアームを使わないDOHCだとカムは直接バルブを押しますからね~。
ヘミヘッドのバルブの大きさにもビックリしますか?
この大きいバルブとタペット、プッシュロッド、ハイドロユニット、ロッカーアームが全部、慣性重量になるためにバルブスプリングは固く頑丈なものになっています。
このバルブスプリングの頑固さはプラグを抜いて、空キックをしても想像できます。デスモドロミックのドウカティはバルブを戻すのに小さなスプリングしか使っていないので、プラグを抜いてしまいますとクランクは手でクルクル回りますね。
デスモのドウカティが独特のフィーリングを持っているのと同じで、ハーレーの個性は固いバルブスプリングにも理由があるかもしれません。
ハーレーのフライホイールはかなり重いです。ショベルがパンより軽くなったといっても随分重いのです。
アイドリング時のように、キャブレターのスロットルバルブが閉まっているときは、燃焼は最小限ですから本当に回転を維持するだけですので、バルブスプリングを縮める仕事はフライホイールが行っているようなものですね。
もちろん、ピストンが吸入ガスを圧縮するのが最大の仕事ですが、バルブスプリングを縮める仕事量はそれの半分くらいではないでしょうか。

続く


OHVの未来は?

2005年10月05日 | consideration
究極のOHV

純レーシングエンジンの変り種として、1994年のインディー500に優勝したペンスキーメルセデスがあります。
3400ccのプッシュロッドを持ったV8ターボエンジンで、1万回転も回って1000馬力以上出たそうです。当時の特殊なレギュレーションの穴というべきOHCの純レーシングエンジンのリミット排気量2650ccに対して,OHVの市販車ベースは3430ccまでOK(ただし2バルブ)。更に、過給圧も通常の1.2倍まで許されていたのでした。最初は出場者を増やす目的で本当に量産車のシリンダーブロックを使わなくてはならなかったのですが、このレギュレーションをつかう人がいなかったらしく、ついにスペシャルブロックでも良くなって、そこにペンスキーが目をつけたらしいのです。
何といっても世界最大のお祭りみたいなインディー500ですから、違反でないかぎりどんな手を使っても優勝すれば、大変な名誉と賞金を手に入れる事が出来る訳です。
エンジンの中身はそれこそ究極のOHVです。特にバルブを動かす機構は凝っていて、ハーレーでもカムとプッシュロッドの間にバルブリフターがあり、これにローラーがついていてリフターブロックの中をスライドしますが、メルセデスのはスイング式になっており極力、フリクションと慣性質量を減らしています。プッシュロッドを使ってバルブを動かす場合は、ほとんどロッカーアームを使い方向を転換しますが、支点にはニードルベアリング、バルブとの接点にはローラーを使うなど徹底していました。
V8のDOHCでしたらカムシャフトは4本必要になってしまいますが、OHVの場合は1本で済んでしまい軽量なエンジンができたようです。
その後はどうなったか分かりませんが、インディーレースの場合では1967年の悲劇のガスタービンのように変り種が独走してしまうと、そう出来ないように翌年からレギュレーションが変わってしまいます。

もう一つの究極

究極のOHVは飛行機ネタですが、第2次大戦の前後にもありました。液冷エンジンに対して故障が少ないなどの理由で、パイロットに愛された星型エンジンです。
B29などに搭載されていたライトR3350エンジンは最終的にターボコンパウンドで補強され55000cc!18気筒で3700馬力でした。(ターボコンパウンド=排気ガスでタービンを回して出力軸に連結する)
名前もロマンチックな星型エンジンは直径が1メートル以上もあり、双発以上で翼についていればまだしも、戦闘機のように目の前にデカいエンジンがあると特に着陸のときなど前が見えなくて大変だったらしく、雷電のように三菱製の火星エンジンは、ゼロ戦の栄エンジンより直径で20cmも大きいと、前をみるためにシートに座っていられないで中腰で着陸しなければならないようでした。
星型エンジンはシリンダーをオフセットすることなく、特殊なコンロッドでクランクに接続しているため、前後長は短いのですが直径は大きくなってしまいます。そのために少しでも直径を小さくするためにOHVでプッシュロッドを使った訳ですね。
もっともあまりにも複雑になるので、星型のOHCは企画さえもなかったと思いますが。
ちなみにメッサーシュミットやスピットファイアの液冷V12はOHCでしかも4バルブでした。
推測ですが、ハーレーにも使われている油圧タペットは、星型エンジンのために開発されたと思っています。航空機エンジンは自動車エンジンに較べて桁はずれに巨大なため、プッシュロッドもシリンダーもすごく長く熱膨張も当然大きいので、冷間時と熱間時ではバルブクリアランスも大きく変わってしまいます。下手な整備兵がミスって、飛んでいる最中にプッシュロッドを落としたなんていうのを想像してみてください。

続く





トレンド?

2005年09月24日 | consideration
どのような世界にもトレンドが存在するようです。
昨日のK1は、かつては無敵のように見えたファイターや、今年デビューしたルーキー?が、それぞれのコンセプトをもって死闘を繰り広げてくれました。
愛すべきボブ・サップもサップる(スゴく痛がる)ことなく果敢に戦いましたが、身長差20cmは如何ともしがたく奮闘むなしく敗れてしまいました。正道会館と極真の決戦も興味深く見ていましたが、身長差以上の戦いでしたね。
これまでにも、スーパービッグファイターはいましたが、昨日のシュルトとホンマンは、デカいわりに体格のバランスがいい点が違います。過去のウルトラスーパービッグファイターは、その有利な体格差だけを頼りに戦いましたが、昨日の2人の動きの良さはきついトレーニングも想像させてくれます。サップの自慢のパワーも天に向かって突き出しては威力は半減以下でした。グラウベのテクニックもただ空回り。
K1の一つの魅力は、バンナを代表とするような身長2m以下、体重130kg以下くらいの均整がとれたビッグファイターが、足技を含めたテクニックと3ラウンドを戦えるスタミナで、観客を飽きさせることなく接近戦を繰り広げることにあったと思います。
しかし、スーパービッグファイターの戦いぶりを見てしまうと、テクニックとスタミナを併せ持って、更にプラス20cmの高さを備えたファイターの出現はこの先暫くのトレンドになる予感がいたします。


空冷エンジン

2005年09月22日 | consideration
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ホンダ1300

ココをご覧の皆様は「デュオダイナエアクール」って聞いたことがあるでしょうか?
ご存知の方は相当古い!(失礼)
ホンダが、1969年頃にリリースした社運を賭けた1300ccの乗用車に搭載されたスゴいエンジンでした。どれくらいスゴいエンジンかというと、オールアルミ、一体式二重空冷、4キャブ、ドライサンプで115馬力を7500rpm!で絞り出し、前輪を駆動した、月並みな表現をするとまるで(出来の悪い)バイクのようなクルマでしたね。ホンダが(多分)乗用車市場に本格的に参入を試みるのにホンダらしい技術をふんだんに織り込み、小さい(1300)エンジンで大きいクラス(1800~2000cc)の性能を持つという、CB450でトライアンフ650に挑戦状を叩きつけたと同じ手法だったのでしょう。
しかし、世間がアッと言ったのは動力性能だけでなく、空冷にして軽量のはずが思いもよらぬ重量エンジンがもたらしたアンダーステアの強さでした。今思うと900kgという思い車重(現在の標準だとスゴク軽い!)をプアなタイヤで支えて、110馬力の駆動と操舵も委ねるなど失敗は明白であるのに、これを市販してしまったのがなによりもスゴい。
当時はFFはまだ少なく、これに目をつけたホンダの先進性はさすがなのですが、サスペンションの水準は低くコーナリング中は中間回転数ですが、その回転にしても他社の最高回転ぐらいでしょうから、コーナリング中にアクセルを踏めばさらにアンダーは強くなり、アクセルを離せば回転数が高いゆえにエンジンブレーキは強くかかり、タックインは強烈でした。それに加えてトレッドが狭いものだから、下りのコーナリングはサイドカーのように転覆しそうな怖さがあったでしょう。
ワタシの友人がこれを持っていて、乗らせてもらったことが何度かあり、エンジンはまるで当時のワタシの愛車ベレットGT(1800cc 115ps)と較べてもレーシングカーのようでしたね。
後日談として、故本田宗一郎氏の進退問題にまで発展したそうなので、周辺技術(タイヤ、車体)のバランスを考えないととんでもない事になります。

GMの空冷エンジン

ホンダの空冷問題の更に50年前に同じ様な事があったのですね。歴史は繰り返すと言いますが、まったくその通りです。
主人公は、ワタシが何回も登場させているチャールズ・ケタリングです。もう一度紹介すると、元々電気技師であったケタリングは電動レジスターを発明したあとはジェネラルモータース(GM)でバッテリー点火とセルフスターター(セルモーター)を発明し、その名をスローンケタリング癌研究所としても残し、ケットおやじ(BOSS KET)と親しまれて数々の名言も残しています。
その頃も空冷エンジンは存在していましたが、冷却フィンは鋳物でシリンダーと一緒に作るという(今でも一般的です)方法で、重いためにクルマに載せるのに不適当と考えたのか、フィンを銅板でつくりそれを溶着させるという画期的な物でした。高温の炉の中で溶着させる方法まで開発して、うまく行くかに思えたのですが結局オーバーヒートを解決できず、GMの経営危機まで引き起こしたうえお蔵入りしてしまいました。ケタリングはやはり進退問題にまで追い込まれてしまったようです。第2次大戦の後にGMの社長として癌研究所を立ち上げたので復権したようですが。
ケタリングのスゴいところはオーバーヒートによる異常燃焼を燃料で解決しようとして、ハイオクガソリンを発明してしまったことです。後年に名を残す人は転んでもただでは起きないようです。こういったエピソードはワタシ達凡人を力づけてくれます。
ケタリングの作ったフィンは想像するしかないのですが、量産性を考えると平板の打ち抜きと考えられます。これを鉄のシリンダーに溶着させたと言う事は鉄のシリンダーから銅のフィンに熱移動がうまく行われたかどうかです。フィンが平板ですから根元と先の断面積は同じです。そうなると熱の移動量は根元の断面積で決められてしまいますので、フィンがある程度の大きさ以上はいくら大きくしても放熱効果が同じになってしまうと言う事です。
ワタシ達が現在目にする鋳物フィンは、鋳物であるがゆえ根元が厚くなっているのは理にかなっていると言えますね。
フェルディナンド・ポルシェ博士が空冷ビートルを作ったのは、鋳物シリンダーを使っていますから、やはりこの点でも上手であったようです。

続きます。


目的と手段

2005年09月21日 | consideration
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「エンジンの焼き付き」でドラッグレースの話題が出たので、そこからネタをひとつ。
目的と手段は、しばしば取り違えてしまいがちで、ドラッグレースという一見単純そうな競技も奥が深いものがありました。
バイクにとって1000ccという行程容積(排気量)は大容量です。それを1250cc(ドラッグレースのプロストッククラスの上限)にドラッグレースチューニングすると260馬力くらい(15年前の話)になり400mを7秒で走りきり、ゴールの到達スピードは260km/hにも達します。
アメリカ人はカワサキならZ1、スズキならカタナ1100のエンジンを主に使っていましたね。そう、15年前だってもう水冷エンジンの全盛期で空冷のビッグバイクはカタログ落ちしていました(その後にまた復活しましたが)。その古いエンジンを「今さら何で?」と皆思っていたんでしょうね。
日本で本格的なバイクのドラッグレースがその頃から始まったのですが、日本人のほとんどはシロウトで今から思うと笑っちゃうほどいろんなアプローチがなされました。ワタシもトーナメントが始まる前年にNinja900でエントリーして、日没中止になってしまいましたが、決勝(確か?)まで残ったのに気を良くして、水冷エンジンをチューニングして翌年にはフルエントリーする「やる気マンマン」でいたのですが、エンジンを爆発?させてしまいました。
その後ワタシ達のチームは、アメリカ人の中古マシーンを買って、1回も優勝せずに、ほとんど2位でしたがシリーズチャンピオンを取ってしまいました。
前置きはこれくらいにして本題ですが、日本人の意地を賭けて、日本製のエンジンは日本人の手で、世界一早いドラッグレーサーを作るビッグプロジェクトを始めた方がいらっしゃいまして、豪華なマシーンでしたよ。
クロームメッキのフレーム、TM50スペシャルキャブレター、削りだしシリンダーなどなど素晴らしかったですよ。
ワタシ達の中古レーサーは2万ドルくらいでしたから、その5倍は掛かっていたでしょうね。
しかし、そのベースエンジンは油冷エンジンでしたから、ピストンストロークは空冷のより10mm以上短いのです。
真っ直ぐだけ走るのだから、パワーはあればあるほど有利ですが、そうでは無かったんです。
奥が深かったのですよ。

ランチスタートのルーツは

アメリカ人は第2次大戦の直後からドラッグレースやってますので、テクニカルな技がいっぱい詰まっていました。
文明堂のカステラ2本分はあるようなイグナイターユニットには、レブカットのチップを2つセットでき、一つはアッパーリミットでもう一つは「ランチスタート」用ですね。ランチスタートはスタート時の回転数を固定して、アクセルで合わせる必要がないものです。ドラッグレースにおいて一番重要なスタートをシステム化することにより、タイミングだけに集中できる「優れもの」です。いまや2輪4輪のグランプリレースでも採用されていますよね。
ウイリーバーも一見、前輪が浮いてしまわないように付いているようですが、車重を全部後輪に載せてトラクションを掛かかかるように出来ています。
今からみれば幼稚ですが、データロガーも使っていたし、ラム圧、遠心力を利用したクラッチロック、エアシフターなどなどとにかく400mを出来るだけ早く走る専門機械を開発していましたね。
その中のエンジンは、「トラクションを考えたエンジン」だったのでしょう。ピークパワーは確かにショートストロークのほうが有利ですが、250馬力以上のパワーで尖ったトルクカーブではドラッグスリックタイヤも空転させてしまいます。
タイヤが空転すると、ドラッグレーサーの長いホイールベースをもってしても蛇行してしまい、大きなタイムロスになってしまいます。
モアパワーは早く走らせる手段のおおきな要素ではありますが、ピークパワーを目的にしてしまうと良い結果にはつながりません。






エンジンの焼き付き⑤

2005年09月20日 | consideration
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コンロッドの焼き付き(続き)

ベアリングメタルの焼き付きは必ず悲惨な結果を迎えてしまいますが、2サイクルのエンジンではローラーベアリング(ニードルベアリング)を使っているので金属粉さえ噛み込まなければ大丈夫かも、と前に書きました。
ハーレーのクランクもニードルとローラーのベアリングです。ところが、焼き付きに近い症状があったのです。
1990年代後期のある年式のビッグツインではコンロッドのビッグエンドの動きが硬くなってしまい、最後には動かなくなってしまったようです。
でも幸いにクランクケースを突き破るほどではなく、エンジンが温まってくると重くなってしまい、オーバーヒートする感じでしょうね。でもこの場合は、きちんとしたクリアランスのクランクピンとベアリングに交換しないと直りません。
もし、中古車を買われるようでしたら試乗は長めにしたほうが良いでしょうね。
日本の気候だと真夏の40℃気温ではアスファルトの路面温度が50℃以上になりますが、ごく最近の新車は分かりませんけれど、空冷のハーレーでも調子がそれほど悪くなければ、古くても新しくても、渋滞でライダーがバイクと我慢比べしない限り、それほどオーバーヒートしないと思います。
しかし、どこかが「炎症」を起こしているとそこでオイルが過熱してしまい、オイルの匂いをかいでみると「ツン」ときつい匂いがします。音も何か違うはずですね。
排気ガスの匂いをあまり嗅ぐと健康被害を気にしなくてはなりませんが、オイルが燃えていても匂いで分かりますし、アクセルを煽ってエンジンのツキを耳だけでなく全身で感じようとすると、何かが見えてきます。熟練のメカニックは五感プラスで異常を嗅ぎつけます。それらはマニュアルには載っていません。
それらをデータベースとして記録と記憶に残して分析すれば怖いもの無しなんですが、最近は目に見えない電子とも戦わないとね~。

もしバルブが焼き付くと・・・・・。

運が良ければ、バルブがヘッドに密着した時に焼き付いてくれれば、大事にならずにその気筒が仕事をしなくなるだけで済むかもしれません。
しかし、バルブを戻す力はスプリングですから、カムの押す力には敵いません。ハーレーの場合でしたらプッシュロッドが曲がらない限り、多少の焼き付きだったら押してしまうでしょうね。そうして、スプリングがバルブを押し戻せなくなり、そこにピストンがやって来ると、バルブは鉄で出来ていますが細いステムに支えられているだけなので、ピストンに押されて一番弱いところが曲がってしまいます。そうなってしまいますともう逃げ場がなくなって、バルブの傘の部分はステムからもぎ取られて、ベーゴマ(今はベイブレード?)が出来てしまいます。
あとは想像にまかせます。
オーバーレブでのバルブクラッシュと同じことが起きます。オーバーレブでのバルブクラッシュは当然回転数が高いので、壊滅的被害になるのは間違いありません。
エンジン内部の部品でコンロッドと並んで厳しい条件下で仕事をしているのはバルブです。動くスピードはコンロッドの3分の一程度ですが、ロッカーアームを使った駆動では真っ直ぐでなく妙な方向に押されています(ローラーロッカーはその点良いですね)。特に排気バルブは高温に晒されているので、ショベルの場合ですと、バルブステムは径が約9.5mmで当然鉄にも拘らず(膨張係数が小さくても)バルブガイドとのクリアランスは0.1mmもあります。10倍近く大きいアルミのピストンとシリンダーのクリアランスは0.05mmですから非常に大きいと言えますね。
バルブが燃焼ガスにより加熱されますが、その熱は閉じたときにバルブシートを介してヘッドに移動するか、ステムからバルブガイドを伝わってヘッドに移動するしかありません。ステムは細いので熱が伝わりづらいので、F1とかゼロ戦の排気バルブはステムが中空になっていて、そのなかにナトリウムを封入し熱ハケを良くしようとしています。
ハーレーのバルブガイドには‘79年までステムシールが付いていなかったのも、オイルが燃えるよりバルブが焼きつくのを嫌だったのかもしれません。
③の項で、バルボリンの由来はバルブをよく潤滑したからと書きましたが、発展途上のエンジンは段々と高回転するようになって、あちこちが焼き付くようになったのでしょうけれど、オイルの研究がそれを解決して現在があるとも言えます。もっとも、発展途上初期のエンジンでは圧縮比が小さいので、ピストンが上死点に行ってもバルブとの間隔が広く、焼き付いたとしてもバルブクラッシュはあまりなかったのでしょう。
逆に、バルブとピストンの間隔を確保するために燃焼室を小さく出来ないで、圧縮比を高く出来なかったり、ショートストロークに出来なかったのかもしれません。
ヘミヘッドの由来はまだ解明できていませんが、ヘミヘッドの構成の特徴であるV型のバルブ配置も、冷却のためにバルブガイドを離して置きたいが為の苦肉の策かもしれません。

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これはパンヘッドです。カバーの中に冷却フィンがある変なエンジンです(パンのオーナーさんがいたら失礼です)P1010175
排気側のバルブガイドです。
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 こちらは吸気側ガイドです。 上端部がテーパー状になっているのが分かりますか?
吸気側は吸入負圧の影響でオイルが下がりやすいのですが、こうするとオイル溜りがありませんので、オイル下がりを多少防ぐことができます。レーシングチューンで、ステムシールのスペースがないときなどは、こうすることもあります。