樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

5000年前の人間の持ち物

2007年08月08日 | 木と歴史
暑中お見舞いの代わりに、本場の宇治金時をどうぞ。

      

近所にあるお茶屋さんのカフェのメニューです。この店のスイーツはとんねるずのテレビ番組「喰わず嫌い王」のお土産ベスト5に選ばれて、それ以来お客さんがドッと増えました。オープンした頃はいつ行っても空いていましたが、先日は月曜日なのに満席でした。
少しは涼しくなりました?
では、無理やりですが、氷つながりの木のお話です。と言っても樹氷じゃないですよ。
1991年にスイスで氷づけになった5000年前の男が発見されました。その冷凍ミイラは、白樺の樹皮で作った筒型の容器を持っていたそうです。炭火のおきを入れる容器ではないかと推測されています。5000年前といえば、日本では縄文時代中期。当時の人類はどんな生活をしていたのでしょう。

      
         (信州ツアーで撮ったシラカンバの樹皮)

また、ロシアのある民族やアメリカの先住民は白樺の樹皮でカヌーを作ったそうです。油を含んでいるので水には強いでしょうし、何より軽いのが重宝されたのでしょう。
もうすぐお盆ですが、岩手県盛岡市近辺ではお盆の迎え火や送り火に使うために白樺の樹皮を売っているそうです。油分が多くて燃えやすいからでしょう。以前、白樺の樹皮をタイマツに使ったことをご紹介しましたが、同じ理由ですね。
現代の私たちは樹皮にはほとんど無関心で、せいぜい樺細工の茶筒くらいしか目にしませんが、昔の人にとっては木の皮は大切な材料だったんですね。
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鉛筆の木

2007年08月06日 | 木の材
私がコピーライターという仕事を始めたのは30年ほど前。今はパソコンで文章を書きますが、当時は鉛筆で原稿用紙に書いていました。
独立した頃、仕事の道具だからいいものをそろえようと、当時最も高価だった(と言っても1本100円くらい)三菱鉛筆のユニをたくさん買いました。消しゴムはドイツのステドラー社製、原稿用紙も先輩と一緒にオリジナルのものを作りました。

      
          (現在は鉛筆は下書きに使う程度です)

その鉛筆には木が使われています。みなさんもナイフや鉛筆削りで削ったことがあると思いますが、木のいい匂いがしたでしょう?
現在の鉛筆はインセンスシダーというアメリカのヒノキで作られています。「インセンス(incense)」は「香りのある」という意味で、削った後の匂いはヒノキ系のものです。別名は「ペンシルシダー」。
鉛筆を日本で初めて工業化したのは眞崎仁六という人物で、明治10年のパリ万博で鉛筆を見て感心し、帰国後に鉛筆づくりに挑戦しました。当初はヒノキやヒバ、コウヤマキで試作しましたが、硬くて削りにくいので失敗。最終的にイチイにたどりつきました。飛騨の一刀彫などに使われるイチイです。

      
        (イチイの材と飛騨の一刀彫・京大木材研究室で撮影)

北海道にイチイが豊富にあるので、道東に鉛筆工場が建てられました。この眞崎仁六が三菱鉛筆の創業者で、社名は「三菱」でマークもスリーダイヤですが三菱グループとは無関係です。
その後、イチイの入手が難しくなって、先日トーテムポールでご紹介した米国産のイースタンレッドシダー(別名エンピツビャクシン)が使われるようになり、さらに現在は前述のインセンスシダーが90%のシェアを占めるようになりました。
軽いこと、年輪とそうでない部分の硬さに差がなく削りやすいことが鉛筆の木に求められる条件。北海道で鉛筆を生産していた頃の名残りか、知床博物館では現在もイチイの鉛筆を販売しています。
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あの世に旅立つ木

2007年08月03日 | 木の材
人間、誰でもいつかは死にます。そうなれば、遺体は棺に入れられます。みなさんは「どんな棺に入ってあの世に旅立つのだろう?」と思ったことはありませんか。
『日本書記』に、スサノオノミコトが自分の体の毛を抜いて木を作り、その用途を指定したという記述があります。そこでは、お尻の毛を抜いてコウヤマキを作り、棺に使うように指示しています。その言葉どおり、青森県の三内丸山古墳からコウヤマキの棺が出土しています。腐りにくい材質なので、棺に使われたのでしょう。

      
          (古代の棺に使われたコウヤマキ)

また、第4代将軍徳川家綱の棺は、幅4尺高さ9尺厚さ4寸のヒノキ製で、底はカシの二重底になっていたという記録が残っています。
現在はほとんどがモミ。その理由は、材が白いので清浄感があること。そして、せつない話ですが、燃えやすいから。土葬の場合はコウヤマキなど腐りにくい材が重用されたのですが、火葬になることで棺の材も変わったのです。
葬儀屋さんのホームページを見ると、高級品には今でもヒノキやキリが使われています。キリのタンスは燃えにくいことで知られていますから、棺も燃えにくいでしょうね。

          
    (宇治川河畔にはモミの群生があり、名木百選になっています)

みなさんも多分、このモミの木で作った棺に入ってあの世に旅立たれるはずです。
最近は、すぐに燃やしてしまう棺に貴重な木材を使うのは森林破壊やCO2排出につながるという理由で、ダンボール製の棺が作られています。人間用もありますが、ペットの棺としてはけっこう普及しているみたいです。
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『野鳥と木の実ハンドブック』

2007年08月01日 | 木と鳥・動物
自然観察の好きな方は図鑑をたくさん持っておられると思います。さっき私の本棚を調べたら、野鳥関係は洋書も含めて19冊、樹木関係は11冊ありました。コレクション志向のない私でさえこの数ですから、もっと熱心な人や野草、キノコ、昆虫、魚など幅広く観察している人の本棚は図鑑だらけでしょう。
その本棚にまた1冊加わりました。『野鳥と木の実ハンドブック』。以前ご紹介した『樹皮ハンドブック』と同じシリーズです。
著者は、野鳥の写真で有名な叶内拓哉(かのうちたくや)さん。読んでみると、樹木のことにも異常に詳しい。「スゴイな~」と思って「あとがき」を読んだら、野鳥写真家になる前に9年間も植木屋さんで働いておられたとか…。
今まで「鳥を呼ぶための庭造り」みたいな本は何冊かあって私も持っていますが、自然の野山の木の実と野鳥の関係をまとめた図鑑はなかったはずです。

          
         (表紙はナナカマドの実を食べるアトリ)

バードウォッチャーに嬉しいのは、木の実を食べる鳥の写真が多いこと。ヤマハギの実を食べるオオマシコ、オオバヤシャブシの実を食べるベニヒワなどが掲載されています。
ツリーウォッチャーにありがたいのは、木の実の色の変化がカラーゲージで示してあること。しかも、どの色になったら鳥が食べるかまで分かります。
叶内さんの観察力も尋常ではないです。ヌルデの実を食べる鳥として、「珍しい鳥ではヤマドリ、アカヒゲ、トラツグミなど私の観察では25種類を超える」と書いてあります。鳥のことに詳しくない人のために書き添えますと、アカヒゲは南西諸島にしか生息しない珍しい鳥で、私も見たことがありません。また、「ウメモドキは鳥が好む木の実の代表のように言われているが、実際にはあまり食べられていない」。豊富な観察経験がないと、こんなことは書けません。
私も一応バード&ツリーウォッチャーなので木の実を食べる鳥には関心がありますが、そこまで詳しくは見ていません。叶内さんはさらにご自身でも多くの木の実を実際に食べて、その味を書いておられます。いやー、頭が下ります。
コメント (6)
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