樹樹日記

じゅじゅにっき。樹木と野鳥に関する面白い話をご紹介します。

北斎・広重が描いた木

2006年08月09日 | 木と作家
昨日に続いて、江戸時代の版画に描かれた木の話ですが、今日は木材です。
私は一応「樹」と「木」を使い分けています。根を張って立っている状態、つまり生きている場合は「樹」、伐採された後、つまり死んでいる場合は「木」。どちらも含めた一般的な概念を表す場合も「木」です。昨日は「樹」、今日は「木」。版画に描かれた木材の話です。

      

写真は北斎の「富嶽三六景」の内の「尾州不二見原」。大きな桶の円の向こうに富士山が小さく描かれています。大波の向こうに富士山を描いた有名な「神奈川沖浪裏」もそうですが、北斎の版画の魅力はこういう構図の大胆さにあると思います。
この絵は木の本にも時々出てきて、木工の道具の話の例に使われます。絵が小さいので分かりにくいですが、この職人は台鉋ではなく槍鉋(やりがんな)で削っています。江戸時代にはすでに台鉋はあったはずですが、こういう大きな面積を削る場合は槍鉋を使っていたんですね。現在、槍鉋は宮大工しか使わないはずです。

もう一つは、同じく北斎の「富嶽三六景」の内の「遠江山中」。大きな材木をノコギリで縦引きしています。
現在なら帯ノコで5分もかからないでしょうが、当時はこうして時間をかけて手で切っていたんですね。この絵の材木はすでに角材になっていますが、丸太からこの角材になるまでにすでに多くのエネルギーが費やされていることを考えると、気が遠くなりそうです。
意外なことですが、この絵にあるような縦引き用のノコギリが発明されたのは15世紀の中頃、室町時代のことです。それまでは、木を割って、槍鉋で削って板にしていたそうです。

このほか北斎には「諸国名橋奇覧」という橋ばかり描いたシリーズもありましたし、広重の作品にも大小の船やたくさんの家々が描かれていました。その橋も船も家も、当時はすべて木で作られていたわけです。
今回の版画展を見て、「日本は木の文化の国なんだな」と改めて思いました。そんな感想を持った観覧客は私一人でしょうけど・・・。
コメント (2)
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