「女のいない男たち」(村上春樹著)

2022-02-09 00:00:56 | 書評
2014年に発表された短編集。6作からなる。冒頭の作品が『ドライブ・マイ・カー』。世界中の映画ファンにジワっと不条理な気持ちを拡げていく話だ。



長く春樹ファンであったが「1Q84」のあたりから、新鮮さが薄れているように思えてきた。原因が作家の方なのか読者の私の方なのかはわからないが「ねじまき鳥クロニクル」や「海辺のカフカ」のような作品を貫く緊張感が今一つ見えなくなっていて、ちょうど、この短編集のあたりから少し距離を置くようになった(つまり読んでないということ)。タイトルも輝いていないし。

そして、映画を観てから思ったのは、短編小説をどうやって3時間もの映画にしたのだろう、という単純な疑問(もっとも藤沢周平の短編も2時間超の映画になっている)。

読んでみて思ったのは、原作と映画の脚本とは、かなり異なっているということ。もっとも基本テーマである「愛する妻が、何人もの男と交わっていて、その理由を明かすことなく病気でなくなってしまい、演劇界で生きる夫が、理由を解明しようとするが、よくわからなくなる」というところは同じだが、愛車の色も違うし(小説では黄色、映画では赤色)なにしろ映画の場面は広島であるのだが、原作では東京だ。

要するに、映画の脚本の方がかなり細かく具体的に描写されている。妻の死因も異なるし、ドライバーの女性の性格は同じように感じる。小説ではフィナーレで韓国に行ったりはしない。