ロシアの恋人(ロバート・リテル)

2013-01-28 00:00:25 | 書評
russian1989年のモスクワを舞台としたKGBとCIAの暗闘をテーマにしたスパイ小説である。時は、ゴルバチョフが「共産党をぶっこわす」と物騒なことを言いながら共産主義社会の破壊を始めていた時期である。実際、翌年には80年にわたるソ連は崩壊してしまうのだが、米ソ対立構造があったからこそ飯を食ってきたのが両陣営の防諜組織である。

ということで、「ゴルバチョフは一時、米国側のスパイとして活動していた」という情報を両陣営が「実際にあったことのように」扱い始める。

で、その中で実際どのチームに所属しているのかはっきりしない主人公(ベン・バセット)が両陣営のスパイ組織の間を、いったりきたりして、どちらからも消されそうになったりするわけだ。

とはいえ、そういう基本構造が明らかになるまでに、480ページのほぼ半分が必要なのだから、かなり根気がいる。

本(文庫本)の場合、全体の厚さの中で、何割ぐらい読み進んだのか視覚的に認知できるので、長編ミステリーを読む場合、根気と我慢の限度を維持しやすいのだが、電子書籍だとどうなのだろう。終わりの見えないストーリー。人生と同じだ。

それで、本作は、何度も「これで解決」と思わせながら、なかなか終わらない。土壇場で色々と予想外の展開が続く。逆に、本だと、終結するまでのページ数が視覚的に見えてしまうので、とりあえず安心できる。もっとも007シリーズのようにハッピーエンドで終わるのか、悲惨な結末になるのか、それは最後まで読まないとわからない。

ミステリーはハッピーに解決して終わるもの、と考えるのは平和ボケの日本人くらいで、フリーマントルの「チャーリー・マフィン」シリーズなんて、悲劇の時の方が多いのではなかったか。