ある病院へ

2012-09-17 00:00:01 | 市民A
少し前に、避けがたい理由により、某所にある結核病棟を訪問した。

言うまでもなく、以前は患者が多数いて完治するまで長い期間入院するため、交通辺鄙な場所に設置されていたのだが、患者数が漸減したことにより、病院経営的にも他の診療科目も受け付け一般病院として、その中に隔離棟を併設するという形をとっている例が多い。さらに、登るのが困難な高台の病院の周りにも住宅化の波が及んで行ったため、住宅地の中に病院があるということになっている。

そのため、病院の中に入って、その隔離棟に入る前に特別なマスクを購入して、鼻の周りから結核菌が侵入しないようにワイヤーで隙間を塞ぐわけだ。市中ではあまりみないスタイルだが、嫌がる面会人はいないだろう。

そして、棟内だが、パジャマであることだけが、入院患者と訪問者の違いであるように、ごく普通に、ソファーに座って本を読んでいたり、テレビを観たり、中庭を散歩したりしている。つまり投薬を続けることにより熱が下がれば、あとは待つだけ。細菌を体外に出さなくなれば退院してさらに投薬を続けることになる。だから今は3ヶ月ほどの入院の場合が多いそうだ。


ところで、ちょっと驚いたのは入院されている患者さんたちの年齢。たまたまなのかもしれないが、若い人と、年配の人の両極である。

20歳前後と65歳以上の方が多いように思った。男女を問わず。

まあ、ここにいる以上しょうがないという諦めがあるのだろうが、特に若い人には気の毒だなあと特に思ってしまう。65歳以上の人って元々ヒマなのだが、たとえば学生とか入社すぐの会社員とか、結局、数ヶ月入院することっても、1年遅れるようなことになってしまいがちだ。ただし、たぶんその方が本人にもいいのだが。

また、実際は長いスパンで考えれば、悪いことではないのかもしれないが、細菌の性質上、その後の人生で、健康上の制限事項が増える訳だ。体の中で、長い期間、結核菌は生き続けている。体力を酷使するような職業は向かない。糖尿病になると、かなり危険度は増してしまうので摂食が必要。タバコや過度の飲酒もハイリスクである。

といっても、病気の性質上、本人に何の過失や不注意がなくとも、罹ってしまうわけだ。負の宝くじみたいなものなので、要は、個人の気持ちの持ち方なのかもしれない。そして、社会的な偏見もありそうで、確かに病院の近くの交差点の表示も、正確な病院名ではなく、「県立病院前」という、いかにもアバウトな表示になっているわけだ。


そして、現実の日本の結核患者数だが、毎年25000人が発症し、2000人の方が亡くなっているそうだ。レバ刺し中毒どころではないわけだ。対抗策は、ほぼ唯一無二なのがBCG接種。以前は3回接種が義務付けされていたはずだが、現在は一回だけ生後3ヵ月から6ヵ月の間に接種することになっているのだが、それも「任意」である。おそらく、そのあたりが若年層の発症数と影響があるのだろうが、政策担当者のミスが明るみに出ないように因果関係は調べないのだろう。

この政策の大きな問題は、「任意」といってもこども本人の任意ではなく、親の任意なのであって、これをもって自己責任制度というのは、こども自身の人権を守るという観点からいえば大きな見当違いと言わざるを得ないだろう。