「個人所得課税に関する論点整理」について

2005-07-01 20:40:46 | MBAの意見
税制調査会が発表した「個人所得課税に関する論点整理」レポート(PDF版)が不評だ。さんざん叩かれている。サラリーマンの増税案と受け取られていて、石会長自身、「これからはサラリーマンが負担するしかないじゃないですか」と言っているのだが、これがまた混乱に拍車をかけている。
石会長の個人的意見と税制調査会の意見は少し違うだろうし、レポート自体は、増税が派手に主張されているわけではない。(しかし、いわずもがなということなのだろう)

実は、大学の時、財政学のゼミを受講していた。まず、財政学は大きく二つに分類される。一つは、ケインズを代表とする、どこに歳出を使うと、どういう効果があるかというような筋。簡単に言うと、「使い途」論議である。これはかなり難しく、多くの複雑な算式が必要となる。そして、もう一つの分野が税金の取り方である。これは、かなりやさしい。電卓があれば十分だ。絶対的に正しい真実として、「取りやすいところから取れ!」とか「取られたことに気付かれない税金が最高」というのがある。そして税金の不公正感は二の次となる。さらに徴税コストが少ない方がいい。そして、歳入学者は歳出学者とは無関係に税収入が最大化するようなことを提言する。

また、最近では、財政学の中に、国債学も必要かもしれないが、歳出-税収=国債という一行で表現されるのでどちらかというと、どうやって国債を売るか、というマーケティング分野のような気がする。

そしてゼミでは、消費税の研究をしていた(と書くと格好がいいが、英語で書かれた研究論文を日本語に適当に意訳して教授に提出したら、教授がそのまま利用していた。)。消費税の特徴として、すぐれている点は、「取られている人が気にしなくなる点」である。日本も内税方式になった。一方、劣っている点としては、「所得に対して逆進性があること」。だから、累進性の高い所得税と組合わせるべき税制なのである。もちろん税総額の問題は別だ。

そして、今度発表された「個人所得課税に関する論点整理」を2回読んだ(PDFで20ページだが字が大きいのであまり長くない)のだが、要するに、「増税論ではない」が、「増税するならここから取れ!」という論文なのである。そして、先に結論があって、結論に合わせて、断定的に論理付けされるので、違和感を感じる。そして、歳出について触れるのは、最後のページに書いてある、ほとんど一行だけである。
”国民に負担増を求めることとなる場合は、国・地方を通じた徹底した行財政改革が必要である。”あたりまえだ。

構造的に大きな変化の提言としては、

退職金所得に関する課税強化。
事業所得者に対して認めている、みなし経費の廃止と記帳義務。
譲渡所得への課税強化。
年金収入への課税強化。
配偶者と合算し、平均して課税する方式。
などである。

さらに、所得税が諸外国に対して低いこと
地方税の均等割部分の引き上げなどだ。

理論的には、かなり常道をついている。裏に消費税の増税があれば、ますます税負担は低所得者に不利(逆進的)になる。高所得者も低所得者も消費性向には差が少なく、所得に対する消費税の比率は、低所得者の方が重くなるからだ。そのため、高所得者から追加で徴収するような税制が必要なのだが、高額所得サラリーマンからは、既にかなり絞っているので、残るは「中の上」クラスのサラリーマンから取り上げることである。さらに、現在の税率が、10%、20%、30%であるものを、細かな運用として5%刻みにするべきとも読める箇所があるが、まあ増税用に使うのだろう。


そして、この報告書にはまったく触れられていないのだが、最大の問題は、税金をとればとるだけ経済は冷え込むということだ。橋本内閣で大失敗している。

実は、法人税という分野がある。私は、法人税率をアップしようという野暮な政策を支持する気はない。法人税をたくさん払うような企業を育成すべきだと考えているのである。例えばトヨタは連結ベースで、6,500億円の税金を払っていることがわかる(もちろん全部が日本国内というわけではなく、詳細はわからないが)。日本全体の税収は44兆円に満たないのだから、トヨタは相当貢献しているわけだ。もちろん高級車を売れば、消費税も増えるし、社員に賞与や給与や株券で還元すれば所得税も自動的に増える。同じ、クルマ1台を三菱自動車が作っても、赤字企業は税金を払わないことを考えてほしい。

つまり、税収を増やす方法の中で、税率アップといった単位あたり増税策というのは「愚の極み」ということだ。しかし、産業振興とか増税によるダメージとかはこの報告書には一行も書かれていない。

役人の数については、省庁統合で一人もリストラが行われず、さらに何かといえば、新規の規制をつくり職場確保に走っているのが中央官庁だと感じているのだが、こういう考え方もある。

つまり、国民の数が一定とすると、役人という生産性のない行政サービスの人員が生産性のある民間企業に移動すると、生産性が増加しGDPが増え、法人税収が増えるはずだ(歳入増)。一方、役人の給料が減少する(歳出削減)という二重効果がおこるはずだ。ただし、役人が役所を辞めてすぐに、仕事につこうとすると、天下り風になるので、それはダメだ。それに3セクもダメ。あくまでも普通の企業でなければならない。


ところで、税制調査会の会長である石弘光氏の履歴や学歴をみていて、奇妙なことに気づいた。
学歴:昭和12年生まれ、昭和36年一橋大学経済学部卒業、昭和38年修士、昭和52年博士
履歴:昭和40年一橋大学助手、昭和42年同講師、昭和45年同助教授、昭和52年同教授、平成10年同学長
 ケチをつける気は、あまりないのだが、昭和52年に教授になったと同時期に博士を取得している。修士と博士の時期が14年も離れている。きちんと博士号の審査は行われたのだろうか。というのも、徴税学そのものが「博士号」というほどの高尚なものなのかという大きな疑問があるからなのだ・・