迷走する吉野家D&C

2004-08-20 15:47:08 | MBAの意見
76282cb6.jpg吉野家の損益計算書はきわめてシンプルである。
外部要因(米国での狂牛病発生)により、どのように変化し、何が問題なのかというようなことを、初心者が分析するには最適である。

まず、基準として昨年をみると、原価率は38%。そして、店舗や本社の費用(人件費も込み)が売上高の52%で、利益として10%が残っている。
大雑把にいえば、280円の牛丼の原料代が僅か100円。150円が人件費や本社費、店舗費といった固定費。30円が利益ということである。
年間売上高は1400億円。1店舗あたり日販は40万円である。

そして、今年度の第一四半期(3月-5月)売上は300億円。昨年から見れば50億円が足りない。しかも原価率は昨年の38%から42%へと4%上昇。売上が低下のため、固定費の占める比率が52%から62%に上昇。都合10%の黒字からマイナス4%の赤字に転落してしまった。
結果から言えば、原価率のアップと売上げの減少が損益悪化の主因であることがわかる。

問題は、ここからである。来ない牛肉を待っていてもしかたがない。新メニューを考えなければならない。
松屋や中卯やらんぷ亭も必死に新メニューを投入し、多彩なラインナップ群が完成している。
吉野家より付加価値は高い。
しかし、吉野家はいまだに右往左往である。一旦は4メニューに絞ると発表したが、また一部で新メニューを発売。どうもよくわからない。

あまりに、牛丼に偏りすぎたため、多彩なメニューには設備的困難があるのだろう。従業員にしても、オーダー伝票とか食券とかないのにメニューばかり多様化しても、対応困難でミスオーダーの山となる。新メニュー戦略では明らかに他社に出遅れている。いぜんとして吉野家は、焼鳥丼とか牛カレー丼とか、さして難しくないメニューを出したり止めたり一貫しない。

一方、社長の安部氏にいくつか気になる兆候がある。どうも「牛丼」へのこだわりが強過ぎ、輸入再開後、元の姿に戻そうと考えているようで、現在の困窮に対し本格的な経営転換を考えているようには見えない。部分的対応の連続で、ともかく牛丼待ちである。

禁輸開始当初は、輸入再開キャンペーンの先頭に立ったり、調理場にもぐり込んだ映像を公開したりしていたが、本当に必要だったのは、代替供給ルートの確保とか新メニュー開発であったわけだ。また「牛丼一筋」もいいが、お客様の方が「牛丼一筋」かどうかもよくわからない。社長の反省の談として、「牛肉の備蓄が少なかった」と悔やんでいたが、ちょっと「食の安全」という観点では違和感がある。「安い、早い、うまい」はサービス業の三大テーマであるが、「(原料代が)安い、(現金回収が)早い、(金儲けが)うまい」では長続きしない。

安部社長は、吉野家が以前破綻した時は一店長であり、現在までの再建では巨大な実力を発揮したわけである。窮地に追い込まれた経験は、普通は大きな力と評価できるのだが、「つぶれることにこだわらない感覚」であるとしたら問題である。株主優待券を持った個人株主が大勢いるのだ。

9.11、SARSといった旅行業界にとっての危機により、弱小会社が淘汰され、HIS社がさらに強力になった旅行業界のように、輸入再開後には地盤変動があるのだろうか?
それにしても、牛丼店の店舗あたりの日販40万円は、同レベルの店舗面積のコンビニの2/3。見たところ、売上げの半分はお昼の1時間のようだ。何とかならないのだろうか。