言葉の救はれ・時代と文學

言葉は道具であるなら、もつとそれを使ひこなせるやうに、こちらを磨く必要がある。日常生活の言葉遣ひを吟味し、言葉に学ばう。

『やってはいけない脳の習慣』を読む。

2017年02月18日 15時26分59秒 | 本と雑誌

 昨年の夏、教員の友人と話をしてゐた時に話題になつた本である。発売されたのが昨年の8月15日であるので、たぶんそのタイトルが気になつて話に出たのだらうと思ふ。

 スマホやラインやゲームをやつてゐる子供の学力低下は、勉強する時間が取られてゐるからである、といふのが一般的な認識であらうと思ふ。ところが、本書によればさうではなくて、勉強を二時間してゐても一定時間以上スマホやラインやゲームをしてゐれば、それらをせずにまつたく勉強してゐない生徒よりも学力は落ちてしまふ傾向にあるらしいのだ。

 比喩で言へば、下りのエスカレターに乗れば(スマホを使へば)、歩いてゐても(勉強しても)上階には上がれない(学力は伸びない)といふことである。

 これは恐ろしいことである。

 脳内で何かが起きてゐるのである。

 そこで著者は、かう記す。

「パソコンやスマートフォンの使用習慣の強さと、前帯状回という部分の小ささが関係していることが分かっています。したがって、パソコンやスマートフォンを日常的に長時間使用していると、(中略)脳の形が変わってしまう可能性があります。(中略)この前帯状回という部分は、注意の集中や切り替えや、衝動的な行動を抑えるといった機能に関わる重要な領域の一つです。」

 それから、スマホはやめれば成績は上昇するが、ラインなどはやめても過去に使用したことがあるといふだけで、成績に対する影響が残つてしまふといふことだ。

 ラインは着信があれば、音が鳴る。その音に反応して集中力が削がれるといふことが原因らしい。

 著者は、脳トレで有名になつた東北大学の加齢医学研究所の川島隆太教授の下で助教として勤める横田晋務氏である(いまネットで調べると、今年の2月から九州大学基幹教育院の准教授になつてゐた)。手法や研究スタイルは川島教授と同じである。実験データの詳細については、私にはよく分からない。したがつてこの結論の正否については判定することはできない。が、子供たちを見てきた実感と違和感はない。

 その他、朝食を食べよ、テレビを見せるな、睡眠時間を確保し、睡眠の質をよくせよ、本を読めなどの結論も賛成である。しかも、それを命令的にさせるのではなく、自分で判断させそのやうに導くことが大事、そのためにコミュニケーションの時を持てといふ大人への指導もうなづける。そして、そのコミュニケーションの時も、時間の長さではなく「よく理解してもらへた」といふ実感が子供にあるかどうかを見るべきといふのもその通りであらう。

 しかし、こんな完璧な「子育て」をしないと子育てができないのかといふ圧力がかかるやうな社会といふのもまづいのではないか。

 前書きで書かれてゐるやうに、大人が儲けようとして作つた技術で子供の発達が阻害されてゐる、その阻害要件を排除するために大人が必至になる。しかも、儲けようとした大人の行為は環境全体に及び一度に複数の子供を巻き込んでしまふが、子育ては個別である。社会全体で取り組むべき課題もある。

 本書で知つたが、兵庫県小野市や宮城県仙台市ではスマートフォンとの付き合ひ方について先進的に取り組んでゐると言ふ。さういふことも必要だと感じる。

 

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