『マクベス』の魔女の言葉である。
善悪二元論。
さうさう簡単には善悪さへ峻別することは難しいといふことである。
悪人の中にも善があり、善人の中にも悪がある。簡単に切り分けられないのが人間の生であるといふだらう。
私自身のこれまでの生活の中で、厄介だと思ふのは、その人が善意に基づいて行つてゐると思つてゐながら、とても悪意を含んでゐる場合である。最近の出来事にも、そんなことを感じることが多い。
善意の自己欺瞞には改善が見込めないからである。
私たちは正しいことを行はうとする。そしてそれが善であると信じてゐる。
「正しい」の集合が「善」であると思つてゐる。正しい生き方の連続が善を生み出すと思つてゐる。しかし、正と善とは別の次元にあるのではないか。
例へば、正しい生き方を貫かうとするがゆゑに不善をなしてしまふといふことがある。
正しいといふ生き方にさへ私たちは縛られてはならない。
正や善にさへ自由でなければならない。
なぜなら悪意が潜む危険をいつも私たちは内包してゐるからだ。
正しいことばかり言ふ人には、まゆにつばをつけて聞かなければならない。
正しいことばかり言ひ続けてしまつた場合には、舌を出して自戒しなければならない。
その自覚なしに生きてしまふ自己欺瞞には、いつも警戒しなければならないのである。
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