何を念じて走ればいいか

2012-03-01 00:00:16 | スポーツ
東京マラソンで2位(日本人1位)になった藤原新選手のことが、よく報道されている。

残念ながらマラソンの実力の報道ではなく話題となっているのは大きく2点である。

まず、無職であるというところから、五輪候補のライバルで公務員の川内選手に対し、「無職が公務員に勝った」という筋合いの話。公務員といっても県立高校職員ということで、財務省主計局勤務ということじゃないので、そんなに毛嫌いしなくてもいいのかもしれないし、公務員やめてマラソンに専念していたら五輪に行けたかもしれないのだから、自分の責任。むしろ、実業団に入っている選手の方が公務員より恵まれているのではないかな。

そして、もう一つが、その無職の青年が今回の準優勝で手に入れたもの。

まず、五輪切符。そして、賞金400万円。3位なら200万円だったそうだからゴール直前で一踏ん張りして2位に上がって200万円を上乗せしたわけだ。さらに3位までに賞品として渡されたのがBMW車。定価は不詳だが5百万円位か。乗るのか換金するのか不明だ。

そして、彼は競技中には「五輪、賞金、BMW、五輪、賞金、BMW、・・・」と繰り返し念じていたそうだ。なんとなく明治時代の政治家が、「カネと名誉と女」にこだわったというのと似ている。「カネと栄誉とクルマ」に変わっただけだ。思えばマラソンの起源が紀元前450年に起きたアテネとペルシャとのマラトンの戦いでの勝利の伝令だったこととは、大きく次元の低い話に堕ちてしまった。

そして、この念じながらマラソンを走るという点について、思い出したことがある。1999年にスペインのセビリアで開かれた世界陸上の女子マラソン。日本の市橋有里を3秒差のデッドヒートで破り優勝したのが、北朝鮮のチョン・ソンオク選手。当時の北朝鮮は経済が完全に破たんしていたのだが、1996年にアトランタ五輪の女子柔道で田村亮子を破って金メダルを獲得したケー・スンヒと並んで二人目の英雄になったのだ。

その後、チョン・ソンオクは「将軍様の娘」ということになり、高級マンションや、運転手つきの高級乗用車がプレゼントされる。また共和国英雄の称号を得て日本の国会議員に当たる最高人民会議の代議員にも選ばれる。

柔道のケー・スンヒの方が、五輪では金・銀・銅メダル、世界柔道で金メダル4個と実績では上であるのに、彼女は最高人民会議の代議員になれなかった(彼女に柔道で負けた銀メダリストの方が国会議員になってしまったが)。

その違いは、チョン・ソンオクがマラソンのゴール後に外国人記者の質問に対して答えた内容だといわれている。

「金正日将軍の姿を胸に思い描きながら走りに走った」と言ったそうだ。確かに「五輪、賞金、BMW」よりは、ましかもしれない。

しかし、当時から流れていた噂によれば、彼女はレース中にはフィアンセからもらったスポーツウォッチを見ながら力を得ていた、というのであり、たぶんその方が本当だろうと思うわけだ(その後のフィアンセの運命は知らないが)。


もっとも彼女は世界大会で優勝したのであり、藤原選手は東京マラソンで2位になったに過ぎないのであるので、五輪で優勝した時のためのスピーチでも今から考えておくのもいいかもしれない。「カネ、カネ、カネ、カネ、・・・・」というようなことは、思っていても、口に出さない方がいいと思う。少しは被災した国民の顔でも思い出してもらえると嬉しいのだが。