負けそこなった一局

2008-11-22 00:00:51 | しょうぎ
無気力相撲というのは、専門家が見れば、すぐわかるそうだ。問題化しにくいのは、対戦する両者が合意しているか、片八百長と感じても、勝った方が黙っているからだろうか。

アマチュア将棋でも、わざと負けたことは何回かあるが、結構難しい。相手に悟られないように演出する必要がある。そして、ごく最近、わざと負けようと思っていても、うまくいかなかったことがあった。


昨日のエントリで触れたように、一週間ほど前、棋友だったM氏が亡くなった。1年半前、難病が発症し、3度目の入院でついに息絶える。年金受給までは、まだかなり遠い位置だった。本人は自分の状態をきちんと認識はしていなかったし、元より健康や病気のことなどの知識に乏しかったのが幸だったのか不幸だったのか微妙だ。

健康関連企業に勤めながら、まったくの不健康生活で、酒を飲む、ゴルフボールを打つ、馬券を買うの三拍子である。不健康生活を送るのは、健康な人にとっては、大変楽しいのだが、体が不健康な人が不健康な生活を楽しむと、ダメージが徐々に体を蝕む。

ギリシアの格言に「健全なる精神は健全なる肉体に宿る」というのがあるが、一般的にはウソだ。不健康な人は健全な生活を送り、健康な人は不健康な生活を好む。

M氏は、不健康×不健康=大破滅というパターンにはまっていたと思う。

そんな彼も、将棋を指すときは「賭けよう」とは言わなかったのは、他方面への出費がかさんでいたからだろうとは推測していた。

いい年して里見女流のファンで、いつも対局のつど、長距離バスで上京する彼女のバスの到着スケジュールなどを調べていたので、「Mさん、ダメですよ」って、やんわりと言ったこともあるが大丈夫だったのだろうか。

最期は里見さんが倉敷藤花戦に出場しているのにかかわらず、女流王位戦に出場していると勘違いしたままだったが、何が何だかわからなくなっていたようだ。

さて、実際のところ、M氏は、あまり例を見ないタイプの棋風で、力を発揮するのは、終盤で8割方劣勢に追い込まれたところから。

奇抜な受けや持ち駒のすべてを自陣に打ったり、敵陣にいた龍や馬を引き戻す。攻めるほうが頭に血が上って敗着を指す。それでも三段以上はあったと思う。


72af3753.jpgそして、最後の彼との対局は、亡くなった2週間ほど前。本人はわかってなかったようだが、傍目にも、もうダメというほどやせ細って、月例会に現れる。心を鬼にして、「これは、負けるしかないな」と思ったのだが、M氏気力が出せないのか、四間飛車美濃に構えたと思ったら、自ら角道を開けて、決戦方向に向かってしまう。どうみてもまっすぐ終わりそうなので、こちらの玉の横をあけ、飛車打ち王手をかけさせ、自陣に成りかえって受けるような余地を作ったのだが、大量の持駒を打って守ることなくあっさりと投了されてしまった。

次回は頑張ろう!ということになる。


そして、告別式の当日、ほぼ1年前に彼に贈った初段免状を再度見ることになる。これも、「実力は三段以上と思いますが、まずは初段ということで」ということにしたもの。本人が他界してしまえば、所詮は紙切れと言えばそれまでである。おそらくは、彼の持参品の一つとして柩に納められるものと想定していたのだが、予想に反し、葬場ロビーの陳列品になっていたわけだ。

もっとも柩を生花で埋め尽くす時に気付いたのだが、既に競馬新聞各種が納められていたわけだ。

遺族の方々にとって、競馬新聞よりも初段免状の方が、いくぶんは格上と考えられたわけだろうか。


72af3753.jpgさて11月8日出題作の解答。

▲2一銀不成 △同玉 ▲9一龍 △3一桂(途中図1)

▲同龍 △同玉 ▲2三桂 △2一玉 ▲3一桂成 △3一玉 ▲2一成桂 △同玉 ▲2三香 △1二玉 ▲2二香成 △1三玉 ▲2三歩成 △1四玉 ▲2四と △1五玉 ▲3六王(途中図2)

△1六玉 ▲1五飛 △同玉 ▲1七香 △同馬 ▲2五と△1六玉 ▲1五とまで29手詰

72af3753.jpg初手に▲1一銀成は、いずれ行き詰まるので、▲2一銀不成、△同玉から▲9一龍と香を入手。同馬なら▲2三香、玉が1二に逃げれば2一龍と捨てればいいのだが、3一に桂合いがある。これに対して▲2三香なら、本譜のように進み、▲2三歩成に△同桂が逆王手になり崩壊する。いったん▲3一同龍のあと、6手かけてやっと基本形にたどり着く。

次の関門は▲3六玉と香を取って開き王手をかけた場面。△4五香と飛車を取りたいが、2手早く詰む。いったん△1六玉と逃げ、2手を稼がなければならない。

どちらかというと、攻め方より受け方の手を問う問題である。

動く将棋盤は、こちら



72af3753.jpg今週の問題だが、棋友が亡くなった時に詰将棋はどうしようかと、以前から悩んでいて、有名な羽生一手頓死の図でも紹介しようかと準備していたが、あまり気が乗らなかった。

地方都市での葬儀が終わり、彼が物質的な姿を失ってから10時間ほど経ち、盤もパソコンもない仮の宿のベッドで、眠れぬ頭の中に一枚の墓銘碑が浮かんできた。2時間ほど熟考し、完成させる。

ということで、難易度は高くない。

わかった、と思われた方は、コメント欄に最終手と手数を記していただけば正誤判断。