World Energy Outlook 2008

2008-11-20 00:00:48 | 市民A
先週、IEA(国際エネルギー機関)の発行するレポート、”WORLD ENERGY OUTLOOK 2008”の発表記念シンポジウム(東京)に参加する。日英同時通訳付で入場料は高いが、その気になれば、誰でもシンポジウムに参加して講演を聴くことは可能。

このIEAだが、第一次オイルショックの頃、1973年にキッシンジャー国務長官の旗振りにより、OPECに対抗する石油消費国連合という意味合いでOECD諸国を中心にパリに設立された。現在、中国はメンバーに入っていて、ロシアは入っていない。このIEAのトップの役職が事務局長で、事務局長の一声で、各国は国内の原油備蓄を取り崩して原油価格の安定を図ることになっていて、最近は、カリブ海で被害を出したハリケーン・カトリーナの時に、世界規模の備蓄取り崩しが行われた。

そして、そのIEAの事務局長の椅子には、現在、日本人が座っている。田中伸男氏。2007年9月から。したがって、高額会費を払って、高級ホテルの同時通訳イヤフォンを使ってみようと思っている人には、田中氏が行った基調講演は、ちょっと残念ということになる(外国人の方はここで、英語ダイヤルに切り替えると英語通訳が聴ける。やってみたが、英語訳の方が日本語スピーチより先に進んでいて、ちょっと驚き)。



もう一つ残念なのは、この1年をかけて綿密に各種試算を積み上げて構築した「OUTLOOK」だが、ここのところのクレジット・クランチに続く世界経済の大崩壊が、あまり前提になっていないことだ。原油価格は100ドルを前提にしている。要するに、ほとんどの経済指標を現在から2030年まで延ばしているのだから、「これって本当は、どうなるのだろうか」ということばかりだ。

だいたい右肩上がりの折れ線グラフを積み重ねれば予測は完成する。エネルギーの需要が増加し、それに合わせて、各種供給源(石油、石炭、ガス、原子力、水素、風力・・・)を温暖化問題とリンクさせ積み上げていく。グラフを描く前のイメージ通りグラフが描ければ仕事は終わりだ。

一応、「今後、経済再建のことばかりに目がいき、環境問題がおろそかになることが心配」と、まったく定量的でない一言が添えられた。



そして、OUTLOOKの各論は、各自、超高額書籍費を払って購読していただくしかない(ロンドン・シンポジウムでは400部が売れたそうだ。今後、日本と米国で何冊売れるのだろうか)のだが、その概略を発表したのは、IEAのチーフエコノミストのファティ・ビロル氏。やっと日本語ダイヤルに合わせてイヤフォンが使える。

しかし、実際には、ビロル氏のスピーチは、あらかじめ日本語訳がテーブルの上におかれている。さらに、ビロル氏は英語圏のネーティブでないのは明らかで、かなり日本人の英語みたいだ。若干、訛りもあるが面倒なのでイヤフォンは使わなかった。実は、少し鼓膜が弱いのでイヤフォンが苦手なのである。そして、もっとも困っていたのが、わざわざこのシンポジウムを聴くために来日した東南アジア系の方々かな。フランス語訛の英語は聞き取れないし、机の上の資料は象形文字のような日本語である。お手上げだ。早く、天麩羅とかすき焼き鍋とか食べに行くしかないなあってところだ。あいにくの円高で、悪所通いは高そうだし。

そして、実は今回のOUTLOOKの中には、一部、重要な想定も含まれている。一応の方向感は持っている業界なので、情報の玉石分離くらいはできる。現在の原油生産量と2030年の原油生産量を比べた場合、その内容には大きな変化が起こっているはずである。

つまりマクロ的には、最初に、需要=生産という図式を描く。さらに現在のようにOPECが国別の生産枠を設定した状態では、生産コストが安い国でも高い国でも経済原則は効かないため、まったく外には見えないが、専門家的に予測されるのは、「世界の大油田の減退・枯渇」という問題なのである。世界には凡そ50程度の大油田があるが、そのほとんどが、この先2030年までには減退するだろうと予想されている。無論、世界の原油を掘りつくすということではまったくないが、特に非OPEC油田である北海やメキシコあたりの産出は極度に減少するだろう。

さらに、中東地区でも、かなり以前から既存油田からの回収率をあげる努力を続けていたため、ついに別の砂漠や海底に新たな巨大油田を開発しなければならないだろう。今回のシンポジウムでは、予想されるエネルギー需要から、まず石油以外のエネルギー量を差し引いて石油供給量を計算し、さらにその石油供給量から今後減少する既存油田の量を差し引くと、新規油田の量が算出されるという逆算法のグラフが描かれていた。かなりの量の新規油田が必要となる。

一方、中東地区への投資を外国企業が行っても、懲罰的な税率(90%とか)を掛けられることが多く(例外あり)、世界中の民間企業にとっては、中東への投資は採算に乗らない。基調演説の中でも軽く触れられたが、「(消費国の)国営原油開発会社」への期待は大きい、ということだが、日本では「国営」はだめだ。うまくいくはずはない。


講演の最後にQ&Aの時間があって、最初の質問は日本国営放送の記者。冒頭の「経済危機による環境問題への関心の低下」というところについて、「何か具体的な証拠や根拠があるのか」というKY発言で場内失笑。1時間半のあいだ、それについてまったくテーマにならなかったのに、先に質問を決めて、ずっとQ&Aタイムまで我慢していたわけだ。だいたい、どこまで経済危機が続いて、どういう結末になるのか記者自身が予測しているのだろうか。それによって答えは違うだろうに。

二人目のQは、某邦系石油会社社員から。「今後の石油消費量の減り方が、世界平均より日本の方が早いのはなぜ?」というような質問。Aは「日本の省エネ技術が進んでいるため」と、いともそっけない発言で、失笑がちにシンポジウムは終了。

高級ホテルのロビーでサービス・コーヒーを飲み、”そういえば、このホテルも経営変わったなあ。前は航空会社だったか”と思いながらトボトボと最寄り駅に歩く。