日系企業の国際化と宗教の折り合い(4/4)

2008-08-14 17:43:10 | MBAの意見
4.今後の方向性

最近の国際情勢を考えるに、宗教そのものが直接的な紛争の原因となることより、異民族・異宗教徒間の貧富の差が問題の根本的原因になっていると考えられる。世界人口が急増する現代に、宗教、民族を超えて必要なのは、最低限の安定的な生活であり、解決・改善が必要な問題は並列的に存在するということである。先にあげた東南アジアの3ヶ国などは、既に安い労働力とのみ見ることはできず、生産国であり消費地としての発想が必要となっている。

単に安い労働力を求めるなら、中国・インド…と次々に3K輸出を繰り返すこととなるが、今後はTAKE-OFFした東南アジア各国への技術供与等を続けないとならないと考えられる。一方で国内産業の空洞化を埋めるべく努力は必要となる。

先日、筆者はソウルに行ったのだが「日本の5年遅れ」と言われた10年前とは異なり、もはや日本なしでも自立できる自信をソウル市民から強く感じたのである。ASEAN各国とも(政府も国民も)既に、元気の無い日本だけを意識するのでなく、世界全体を視野にいれているのである。

他方、日系企業も多国籍企業の特徴である国家を超越した国際分業手法を進めていけば、例えば製造業にあれば、研究開発部門・生産部門・消費市場といった分野ごとに多段階に地域分化するものと考えられる。

多民族国家アメリカを見れば、宗教・民族の対立は、今後は激化ではなく統合の方向に向かうものと考えられる。反グローバリゼーションを唱える人達の中には、グローバル化の進行に伴い、各民族・地域が過去に築いた文明や文化の消滅を危惧し、保護を主張する正統的な意見も多いが、一部の危険な意図をもった似非宗教家や似非民族主義者が民族問題や宗教問題をイデオロギー的に利用し煽動している場合がある。今後、急増する人口問題・地球環境の保護を考えれば善意の批判に対しては寛容でなければならないが、テロそのものを究極的目的とするグループは排除しなければならない。

2001年8月31日南アフリカのダーバンで国連人種差別反対世界会議が開かれた。あらためて、世界に残るさまざまな差別(日本はアイヌ問題と問題が指摘を受けた)に対して、その撤廃が求められたのは南北問題の重要な原因であると世界各国が認識しているからであろう。(会議終了4日後に発生したテロにより、この会議の理想が十分に理解されないのが残念である)

1948年の国連人権宣言以後、繰り返し主張される「差別の撤廃」こそ、世界に根深く発生する「貧困」の原因であり、その構造から脱却しなければ「イスラム過激派」をはじめとする宗教的テロリズムの発生を抑えることは困難であろう。
(了)

今後、日系企業もアジアを離れ、世界へ進出する中で、固有の無宗教文化を「無意識の無宗教」から「意識的無宗教」に変換することが必要であり、進出先ではあらゆる差別を設けないことが必要である。また、安い労働者という植民地的見解ではなく、グローバル企業として現地採用の従業員でも優秀であれば国際的人事ローテーションを示すことが必要となるであろう。

参考文献リスト
多国籍企業と雇用問題 カール・ソーヴァント編 藤田正孝訳 国際書院1999年5月15日
東アジア経済圏と日本企業 丸山恵也 新日本出版社 1997年7月20日
世界経済を読む 清水嘉治 新評論2002年4月10日
マハティールのジレンマ 林田裕章 中央公論新社 2001年10月20日
多国籍企業と戦略提携 竹田志郎 文真堂 1998年9月11日
アジアで勝つ 児島正憲 伯楽舎 1997年4月25日
アラビア半島とどう付き合うか 遠藤晴男 第三書館 2001年3月25日
企業と国家 恒川恵市 東京大学出版会 1996年9月13日

本レポートは2002年の筆である。