五輪開会式狂騒曲&トゥーランドット

2008-08-20 00:00:00 | 市民A
五輪が終わると、中国経済脱力不況に落ち込むような気もして、その場合、五輪不祥事のことなど、「遠い過去の出来事」化しそうなので、会期中に書いてみる。

張芸謀(チャン・イーモウ)監督の演出による開会式のオープニングショーについて、いくつかの問題が明らかになっている。産経より。


開会式の「少数民族の子供」大半が漢民族 五輪組織委
8月15日 産経新聞

巨人花火の中継、少女の歌声など過剰な演出が指摘されている北京五輪で15日、開会式に民族衣装を着て登場「56民族の子供たち」の大半が、実は民族衣装を着ただけの漢民族の子供だったことが分かった。北京五輪組織委員会が記者会見で明らかにした。


問題の演出は、開会式の中盤で9歳の少女が祖国をたたえる歌を披露するなか、56の少数民族の子供たちが、中国旗を運ぶというパート。チベット問題などで揺れる中国が、国内の民族融和をアピールする政治色の強いシーンでもあったが、これまでに少女の歌声が、会場で歌っている姿を披露していた少女とは別人の声だったことが判明していた。

開会式をめぐっては、会場に近づくように打ち上げられた巨人の足跡型の花火の空撮映像が、実はコンピューター映像だったことが明らかになっている。

このほか、報道陣に配られた「プレスキット」に、日本のアイドル写真が無許可で使用されたラジオに五輪シールを貼っただけのものが入っていたことなど、ずさんな運営が指摘されている。

さらに、ギズモード・ジャパンは口パク事件への批判コメントがネット上から次々に削除されていることを確認している。





実際の歌い手と、歌い手として出た子が全くの別人…(ギズモード・ジャパン)

北京オリンピックで歌った少女が実は口パクだったというニュースは、なんだか悲しいですね。

作曲家の陳其鋼(Chen Qigang)氏によると、共産党政治局の幹部がリハーサルを視察した直後に、歌い手の楊沛宜(Yang Peiyi)ちゃんの降板が決まり、表舞台に出る役として林妙可(Lin Miaoke)ちゃんが選ばれたとのこと。「(歌い手の)楊沛宜はその外見的理由から(開会式出場のための)選考に漏れた。国益のための措置だった」のだそうです。

確かにオリンピックはビッグビジネスであり、高度に政治的なイベントです。ですので開会式ではあらかじめ録音した音を流し、舞台では歌ったり演奏したりするフリをするというのはままあることではあります。

しかし今回は、実際の歌い手と、歌い手として出た子が全くの別人…果たして小さな女の子が大舞台で一生懸命歌うそのシーンで、その女の子の美しさが足りないからといって、感動が薄れるでしょうか?

幕の後ろで歌っていた楊沛宜ちゃんにとっては自分の顔が、舞台に立った林妙可にとっては自分の声が国家から否定されたような形に見えかねません。楊沛宜ちゃんは「歌声だけでも披露できて満足、悔しくはない」と語っているそうです。彼女たちがこのことで傷ついていなければよいのですが…

それにしてもこのカラオケの設備をセットアップしたチームは素晴らしいですね。このことが陳氏より明らかにならなければ、一生気づかなかったところです。そして中国では、本件に関する批判コメントが続々と削除されているそうです。


現在のところ判明している問題点をまとめると、

1.56の民族の大部分は漢民族が、少数民族に扮装していたこと。

2.9歳の少女の歌声は、容姿が悪いと、別の容姿の良い娘が口パクで演じた。

3.口パクを批判する意見をネット上から削除している。

4.巨人の足跡型の空撮花火映像はCGだった。

5.報道陣に配られたプレスキットの中のラジオのシールを剥がしたら、本体には日本の女性アイドルの無許可写真が使われていたこと。

ということになる。なお、日本の女性アイドルとは小倉優子さん(ゆうこりん)なのだが、彼女にも「こりん星出身ではなく、千葉県茂原市出身ではないか」という疑惑もあるのだが、それは別問題。


一言で言えば、張芸謀監督といえども、やはり「勘違いモード」なのだろうか。そう思うと、今まで観た彼の作品も、「やや、わざとらしい重さ」があったような気もするし、現代中国映画のルーツが、満州映画協会で働いていた現地スタッフと、その撮影機材に緒を発するという出発点に戻っていくのだろうか。


ところで、この張芸謀監督、映画や開会式の演出だけでなく、オペラの演出まで、手掛けていたそうだ。

トゥーランドット。

長い間、中国国内では「中国蔑視」として封印されていたが、1998年、張監督の演出で公開された。

歌劇の作曲はプッチーニ。史実をまったく無視して蝶々夫人なども書いている。まあ、日本を好色国家と見ていたのと同時に中国を少数民族迫害国家と見ていたのだろう。(つまり本質を見抜いていたのかもしれない)

超あら筋はこうだ。

トゥーランドット(中国皇帝の王女)は美貌を誇っていたので、数多くの男性、特に周辺属国の王子たちの羨望の的になっていた。そして、婚姻の申し入れは多数あった。が、彼女に求婚するためには、王女の出す三つの謎を解かなければならず、解けないと公開の場でクビを斬られることになっていた。

そして、ペルシャ系の王子の首切りショーを見るために広場に現れた王女を見て、その美しさの故、新たなチャレンジャーが現れる。カラフといって、西方系民族の王子である。ところが王子の侍従である女性は、秘かにカラフに心を寄せている(これくらいのヒネリがないと劇にならない)。

そして、いつものように3つの謎(後述)が出題されるのだが、大苦心の末、3問とも正解してしまう。そうなると、契約は履行されなければならないのだが、簡単にいかないのが中国流。なんとか、「なかった話にできないか」と財宝の提供をもちかけられるが王子は拒否。逆に、王子は、王女が自分の名前を今夜中に突き止めれば、「なかった話にしてあげる」とこちらもアラビック的である。

そのため、王女は北京中に「今夜は眠ってはいけない、なんとしても王子の名前を調べるように」と、お触れを通告。この部分が、「眠ってはいけない」というパートで、トリノ五輪の荒川さんのウイニングテーマになった。

その後、王子を慕う女侍従が捕えられ、中国流の拷問が加えられ、彼女は死んでしまうのだが、結局、周辺民族の王子の名前すら調べていなかった傲慢さがたたり、トゥーランドット王女はカリフ王子と結婚することになり、西欧人の聴衆からは、割れるような拍手で閉幕となるはず。

ということで、少数民族問題は、古くて新しい問題なのだが、だいたいオリンピックの選手の中に漢民族以外はどれだけ含まれているのだろうか。

そして、今から気になるのが、閉会式。予測不能である。


後記:姫の出題

第一の謎「毎夜生まれては、明け方に消えるものは?」

第二の謎「赤く、炎の如く熱いが、火ではないものは?」

第三の謎「氷のように冷たいが、周囲を焼き焦がすものは?」


答え「希望・血潮・トゥーランドット」