狂犬病報道の怪

2006-11-28 00:00:06 | 市民A
0155182a.jpg日本国内で36年ぶりの狂犬病による犠牲者が相次いで二名発生した。いずれもフィリピンで犬に噛まれたのが原因とされている。致死率は極めて高い。一方、韓国での鳥インフルエンザの大量発生のニュースも流れる。恐怖感を煽られても、理性をもって冷静に考えなければならない。

まず、狂犬病と鳥インフルエンザの問題は、大きく質が違うということ。

狂犬病は古来から存在する既知のウイルスによるものであり、ワクチンがある。致死率が高いというのは、発症してからの話で、犬に噛まれてからワクチンを何回か注射すれば、なんとか助かることが多い。ウイルスの体内での増殖速度は比較的遅い。脳に到達するまでの時間内にワクチンが効けば助かる(つまり、顔を噛まれるとまずいが、足先を噛まれれば発症は遅くなる)。そして、噛まれたら、徹底的に消毒することが肝心。

一方、鳥インフルエンザの場合は人間に感染したときのウイルスの変異に合わせてワクチンを後追いで作り続けることになるから、怖いわけだ。どれくらい怖いウイルスになるかは、今の所、誰にも予見できない。

さらに、多くの報道に登場する数字として、フィリピンの狂犬病死者が毎年数百人いて、世界全体では毎年5万5千人がなくなっているという推計が紹介されている。

読売:比でかまれ、60歳代の男性重体(2006年11月22日)
・・・フィリピンでは、年間250人前後が発症。世界保健機関(WHO)の推計では、狂犬病による死者は世界で年間約5万5000人に上り、インド、中国などで特に多い。・・・


朝日:横浜の男性が狂犬病発症「比で犬にかまれた」(2006年11月22日)
・・・厚労省は「狂犬病による死者は世界で年間5万5000人とも推計されるが、海外に渡航する日本人は増えており、36年間もなかったことが驚きなのかもしれない」としている。・・・


毎日:狂犬病「過去の病気」油断禁物…世界では年5万人超死亡(2006年11月21日)
・・・世界保健機関(WHO)などのまとめでは、狂犬病による死者は世界で年間5万5000人と推定される。このうち、3万1000人がインドや中国、ミャンマーなどのアジアで、残りの大半はアフリカだ。逆に近年狂犬病が発生していないのは、日本のほか、オーストラリア、ニュージーランド、ハワイ諸島、イギリス、スウェーデンなど12国・地域に過ぎない。・・・


産経:狂犬病 予防の重要性を忘れるな(2006年11月19日)
フィリピンでイヌにかまれた京都の男性が、「狂犬病」を発病して死亡した。世界では毎年、狂犬病で5万5000人が、命を落としている。ワクチンを打たないで発病すると、100%死ぬ恐ろしい感染症である。・・・


wikipedia:(2006年11月27日現在)
・・・流行地域はアジア、南米、アフリカで、とくにインドでは毎年30,000人が発病して死亡、全世界では毎年50,000人が死亡している。・・・

世界最大級の国の数字と世界全体の数字に違和感がある。そして、調べていたらWHO(国連・世界保健機関)に1999年の統計があった。加盟193ヶ国中、93ヶ国のデータだが、中国、インド、アメリカ、ブラジルなど主要人口大国のデータは入っている。狂犬病(rabies)について、人間の感染者と動物の感染個体の両方の数字が表に書いてある。

私の拙い英語力では解読できないのかどうかわからないが、人間の感染死者数は1,866名のように読める。問題のフィリピンは401人。次が中国で341人、パキスタン188人、ネパール159人、インドネシア135人、・・・アメリカ75人、・・・日本0人。うつされた原因動物別には、犬1,325頭、猫17頭、コウモリ15頭、・・・不明494

そして動物感染数の方が、34,141頭となっている。最大頭数は米国で7,067頭(アライグマ、スカンク、コウモリなど)ブラジル6,130頭(犬と牛など)、ロシア2,484頭(各種動物)、フィリピン1,995頭(犬)・・・日本0頭。

なんとなく、まあ、人間も動物の一種と思えばいいのかもしれないが、どこかで人間と動物の数字の間違いがあるのではないだろうか・・


ところで日本ではすべての飼い犬には登録義務があり、また狂犬病のワクチンを接種する義務がある。しかし、実際には、登録されている比率は約70%と推定されていて、さらに登録数のうち、ワクチン接種率は74%である。つまり、犬全体のちょうど50%しかワクチンが接種されていないことになる。国政選挙の投票率が60%の国にお似合いの数字であるが、ことは選挙より重要であるわけだ。前述のWHOの意見では、接種率が70%以上ないと、海外からウイルスが侵入してきた時に国内で押さえ込むことができないそうだ。つまり、犬の登録率とワクチンの接種率の両方を上げなければならないわけだ。

一方、日本は島国であるのだから、国内に感染犬を持ち込まなければいいではないか、という単純な発想もある。もちろん、それが守られればいいのだが、以前、稚内にカニを食いに行って、あぶないなあ、と思った光景がある。

ロシアのカニ船が来航した時なのだが、ロシア船には家族で乗船している例が多いのだ。そして、着桟すると、カニの荷揚げの一方、船員家族一同が陸地に上陸し、短いくつろぎの時間を過ごすのだが、その傍らには船から降りてきた大型のロシア犬が走り回り、地元の人間(物売り)や犬たちと交流をはかっているのである。もちろん、中には、久しぶりの陸地に狂喜して、どこかに逃亡してしまう犬もいるのではないだろうか。

そして、ワクチンをサボっている飼い主への忠告なのだが、「飼い犬が他人を噛んで狂犬病をうつした場合、その賠償責任は犬の方ではなく、飼い主の方であり、その場合、仮に個人賠償責任保険に加入していた場合でも、”事故防止のための重要な努力を怠った”とされ、適用が可能かどうかよくわからない」ということを書き加えておく。