北斎風呂敷から発生する光線は

2006-11-26 09:48:25 | 美術館・博物館・工芸品
先週月曜のことだが、両国の江戸博物館で開催されている(~12/10)「ボストン美術館蔵・肉筆浮世絵展”江戸の誘惑”」へ行く。行くといっても「特別招待」である。まず、この日は休館日。実は、スポンサーであるフィデリティ証券の顧客サービスである。何と、この展覧会が「貸切」である。さらに、専門家の方の講義付き。そして、フィデリティといえば投資信託では世界有数の運用規模である。個人的には、何種類かの海外ファンドをここに頼んでいて、村上ファンド並みの成果を得ている(というと資産家みたいな書き方だが、スズメの嬉し涙の話だ)。

夜の部に間に合うように、すっ飛んでいく。ところが、閉館日は博物館の周りも暗く、館内も冷蔵庫のように寒い。やっとたどり着くと、50人弱といったところだ。出品数は68点なので、会場スキスキである。

当日の開館時間の途中に、ある専門家(名前はオフレコかな)の講義があるので、まず、一回観て、講義を聴いて、二度目にまた観るということにする。そして、今回は絶品揃いなのだ。「幻のビゲロー・コレクション」からのセレクト。

まず、現在、江戸の浮世絵は世界に200万枚ほどあるそうなのだ。そしてうち50%がUSAに、30%が日本、20%がEUにあるとのこと。どうしてそういうことになったかというと、江戸末期から明治にかけて日本から流出していったそうなのだ。日本人は浮世絵を美術と思ってなかったそうで、流出したからこそ、名品が残っているそうだ。(ビートたけしも、自著の中で、祖母が浮世絵を凧に改造したのを見て、こどもながら、「これでいいのだろうか」と思った、と書いている)浮世絵はだいたいが1枚20文(400円位)くらいで、売れ行きがいいと10,000枚ほど刷ったらしいので、芸術っぽくなかった(と、いうところが江戸社会の世界に誇るべきすばらしさである。広重1枚400円)。

b146d7cd.jpgそして、浮世絵と肉筆なのだが、浮世絵の原画が肉筆ということではないのだ(そう思っていたのだが)。肉筆は、ようするに金持ち階級が、絵師に高額を払って自分用の絵を描いてもらうことなのである。だいたい10両(10万円)から40両(40万円)位だったようだ。”世界に一枚しかないあなただけの絵画”ということだ(西洋美術ではもともと全部が肉筆ということ)。つまり、浮世絵もいいが肉筆もいい、ということだ。

そして、やはり、今回の作では北斎がすごいのだが、北斎以外の絵師から行くと、まず菱川師宣の「芝居町遊里図屏風」。肉筆のもう一つの特徴は、平面的な紙ではない素材に描く場合である。複製困難な物。屏風は8パートに別れ、右側が芝居観劇の様子で左側が吉原遊郭の図である。登場人物は200人以上300人以下という豪華版。芝居小屋と吉原は二大悪所と言われていたらしいが、芝居を見るのと、買春行為が同列の悪所であったということらしい。この屏風は本物なのだが、偽の師宣の印章が押されているというミステリーのような話になっている。仮に、自宅にこういう屏風があったら、飽くことのない時間が過ごせるだろうと思う気持ちを注文主も持っていたのだろう。

b146d7cd.jpg次に、鳥山石燕の「百鬼夜行図鑑」。妖怪たちが生き生きと自由に振舞う様子が描かれる。いくつかは、ゲゲゲの鬼太郎で見たことがある妖怪が登場する。

さらに、枕絵の絵巻が展示されている。巻物の一部だけが見えるだけなので、まったく興奮しない。一巻が12の図でできているそうだが、浮世絵大衆版の方も、12枚ワンセットで箱に入れてしまっておく。この12で1セットというのが浮世絵の基本。48手というのもこの12からきたのだろう。枕絵の話しを始めると先に進まなくなるので、北斎の話しに移る。

b146d7cd.jpgそして、北斎「鳳凰図屏風」。まず、枕屏風からで失礼。高さが40センチ程度の小さな屏風で、文字通り枕のところに置くもの。そして、本当は、前段の枕絵が描かれているのが多いのであるが、北斎はどぎつい赤と緑で鳳凰の絵を、羽根の一枚に至るまで細かく描く。その真意、誰もわからないそうだ。和服を着たままイタすポーズは「孔雀のポーズ」と言うらしいが、案外、北斎がこの枕屏風で鳳凰のポーズを発明したのが最初なのかもしれない。

b146d7cd.jpgそして、「朱鍾馗図幟」。幟(のぼり)には朱色の鍾馗(しょうき)様が描かれる。北斎晩年となれば、幟1本でも50万円以上が必要だったろう。誰が、何のために幟を発注したか?わからないそうだ。5月の節句か何かだろうか。これは、かなり近くで(10センチの距離で)観える。筆の勢いがそのまま伝わるし、麻布の質もいい。朱色一色で絵を描くというのも、結構難しいはず。線の太細で陰影感を出している。

b146d7cd.jpgそして、「鏡面美人画」。これは古来有名な作で、日本にあれば重要文化財だろうとのこと。右足が描かれてないことや、右手の角度がおかしいことなど不自然さをそのままにして、「北斎」の画風を押し通している。名人に定跡なしだ。

b146d7cd.jpgさらに、今回の目玉の一つが「提灯」二本。「提灯絵 龍虎」「提灯絵 龍蛇」。提灯本体が残ってなく、外に張られている紙の部分だけがボストン美術館に残っていた。あれこれ検討の結果、今回再現してみると、二つのちょうちんの大きさが異なっていた。竜は男性を指し、虎と蛇は女性を指すそうである。これは、製作難易度から言って、値が張るだろう。のしイカ状に展示していたらしいが、これからは常設展示でも特別なガラスケースに昇格になるのだろう。

そして、最後は唐獅子の風呂敷「唐獅子図」。すごい霊気を受けるのだ。何しろ、10センチの距離から観られということは、北斎もそれくらいの距離で描いていたのだからそれを考えると、心臓が鳴り出す。冷蔵庫のように冷えた館内だが、この唐獅子の眼光レーザーを受けると体内からうっすらと汗がにじんで来る。実は、70歳台になった北斎は、一時、毎日1枚の唐獅子を描いていたそうだ。理由は「魔除け」。だから風呂敷に描いても巧いはずなのだ。

b146d7cd.jpg私も、毎日ブログを書き、毎日詰将棋を作ることにしようか。何を除けようというのかはよくわからないが・・(前者は可能だが後者は無理だが)

それより、ボストンに行って、700点全部を観てくるべきなのかな。もちろん、ついでに某投手の視察も兼ね・・