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私がここに行くのは、主に花粉症の時期にはコンサートホールの予約をとるのが危険ということが原因なので、もちろん今が一番コンビニエントな時期だ。「期待の音大生シリーズ」だ。
東京芸術大学の古川貴子さんのピアノソロでバッハ「平均律クラヴィーア曲集から」とショパン「ノクターン7番」そしてベートーヴェン「ピアノソナタ第31番」だ。この3人の巨匠を同時にやっつけるとはエンターテイナーだ。
実はバッハはあまり好きじゃない。型にはまった優等生という感じで、どうも心を揺らさない。そのうち好きになるとかの予感も感じない。古川さんも、あまり感情移入しない。指の運動か?
ノクターンはまさにショパンのオハコだ。オハコ過ぎて、演奏家の腕が振るい難いのかもしれない。明るく軽快なノクターンもないし、憂鬱と哀愁に満ちたノクターンもない。映画「愛人・ラマン」のエンディングに突然流れるノクターンはまさに映画というジグソーパズルの最後の1ピースという感じだ。
ベートーベンは自由に演奏家が表現できる。古川さんは、いたって優しく、メロディを追いかける。かなりベートーヴェンの原曲に近く、憂鬱や歓喜といった感情を表現する。私は目を閉じて聞いていると、花粉症の予防薬「ジルテック」がじとっと脳に効いてくる。眠らないように意識を保っていると、ピアノを弾いているのがベートーヴェンそのもののような錯覚に落ちていく。ベートーヴェンの初演を聞くような至福の中で、必死に睡魔と戦う。そしてフィナーレを迎え、午後の職場へ帰るのだが、会議の司会者の役が待ち構えている。あまりに退屈な会議であって、司会者なのに眠り込むという信じられない大失態を演じてしまった。