松本清張ドラマスペシャル 砂の器 [DVD] 価格:¥ 7,350(税込) 発売日:2011-11-25 |
砂の器 デジタルリマスター版 [DVD] 価格:¥ 3,990(税込) 発売日:2005-10-29 |
先日、贔屓にする役者が出てゐたのでテレビドラマの『砂の器』を觀た。言はずと知れた松本清張の作品であるが、二夜に亙つて放映された合計四時間強のドラマは一言で言つて駄作だつた。原作にない女性記者が、犯人特定の必要且つ十分な情報をすべて與へ、刑事たちはそれを後附けていくだけ。これでは、主人公たる犯人とその父親との葛藤や、その背景にあるらい病患者が當時社會的に苛酷な差別を受けてゐたといふ重い現實に、搜査を續けながら二人の刑事が直面するといふ過程が全く描くことができなくなつてしまつた。犯人である作曲家・和賀英良を演じる佐々木蔵之介のポーカーフェイスが、不氣味さを出してゐるとは言へ、感情の隱蔽振りが度を越したために、いつたい何を祕めてゐるのかも分からなくしてしまひ、虚言癖のある人物といふ印象を與へてしまつた。何より駄目なのが、人物の服裝である。マフラーをコートの衿の下を通すやうな着方を五十年前の人がする筈がない。タバコを吸ふ人がゐないのも不思議だが、スーツのスタイルも現代風で「背廣」の時代の雰圍氣ではない。時代考證がこの作品の場合、重要な要素となつてゐることを、演出家は氣附かなかつたやうだ。だから、總じて薄つぺらである。やはり、らい病を取上げることができないといふ現在の放送コードの問題があるのであらう。
あまりにその出來がひどかつたので、映畫版の『砂の器』を觀た。これがじつに良かつた。思ひ切つて登場人物を減らし、テーマをらい病患者の父とその子の葛藤と、刑事がその社會的現實に迫つていく中で變化していく心理的變化とに絞り、嘘で作り上げた器も砂のやうに崩れていくといふ「宿命」の重みが描かれた秀作であつた。
小説もまた時代の子である。特に社會派と呼ばれる清張の作品が、時代の描き方をいい加減にしてうまく表現できるはずはない。らい病患者が抱えて來た悲劇を拔きにしては、この作品で行はれた殺人の理由が分からなくなる。なぜ自分の過去を知つてゐる人を殺さなければならなかつたのか、そのことの説明に説得力のない脚本は、どう映像技術を高めても、あるいは設定の變更の工夫を凝らしても、感動を與へてはくれない。
誤魔化してしまつたがゆゑに、舊作が光つて見え、新作が霞んで見えてしまつたといふ次第である。