言葉の救はれ・時代と文學

言葉は道具であるなら、もつとそれを使ひこなせるやうに、こちらを磨く必要がある。日常生活の言葉遣ひを吟味し、言葉に学ばう。

きいろいゾウ

2013年08月03日 10時50分40秒 | 日記・エッセイ・コラム

 少し時間が取れたので、DVDを観た。観たかつたのは「オリエント急行殺人事件」新旧だつたが、新作が置いてゐなかつたので、旧作と表題の「きいろいゾウ」を借りて観た。

 オリエント急行殺人事件については、ヨーロッパのお金持ちたちはどういふ仕草やふるまひをするのかといふことを感じた。とにかく皆よくしゃべる。セリフで筋を伝へるのが映画なのだから当たり前ではあるが、しゃべるしゃべる。自分の生活や趣向を、その不幸も幸福も含めてしゃべりまくる。探偵は、そのしゃべりの中に解決の糸口を見つける。語るに落ちるとは推理ドラマの王道であらうが、年と共にしゃべらなくなって来てゐる私の現状から見ると、しゃべる文化のヨーロッパがやはり遠いものであるなと感じた。

  それにたいして「きいろいゾウ」はしゃべらない。設定がとんでもないし、不思議な人びとが次々と出てくるし、ムコ=向井理の下手さ加減には笑つてしまふが、ツマ=宮崎あおいとのしゃべらない夫婦の様子が切ない。かういふ傷を抱へた者同士が夫婦として生きていくといふことは、決して理想的で見本となるやうな生き方ではないが、お二人ともいい出会ひができましたねとは思ふ。さて、この後ムコとツマとはどういふ生き方をしていくのかは分からないし、この作品の作者も出会ひの僥倖を書いたことで満足してゐるやうであるから(チチとハハとはなりさうもない。彼らの名称が新婚でしかないことを示してゐる)、さう問ふことは愚かである。とは言へ「すべての人へおくる感動のラブストーリー」とあるのは、宣伝文句を間違へてゐる。御愛嬌であらうから、野暮なことは言ふまいが、結構重たい内容である。傷を負つた者同士でしか愛せないのか、ロレンスの言ふやうに「現代人は愛しうるか」といふ問ひへの、日本人的な答へである。神なき国では傷さへあれば愛しうるのだとは、切なすぎるのである。

  高校生で、感動した本が「きいろいゾウ」だと言つた生徒がゐたが、何かの間違ひであらう。

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コメント (1)
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