思いは言葉になりにくいよね

2014-01-21 00:00:45 | 書評
新潮社の書評誌である『波』にかなりの長期にわたって連載されていた「ソラシド(吉田篤弘著)」が最終回を迎えた。まとめて単行本になると、かなりの厚さになるのかもしれない。

sorasido


作家の作風は、都会的な穏やかさが紡ぎだす不思議な時空間ということだろうか。今まで読んだことがなかったため、連載が始まった頃はかなり読みにくい感じがあった。大きく言えば、現在と過去に二つのストーリーを走らせ、現在時空の主人公が、過去の時空で起きた複雑な人間関係を、一つ一つ解き明かしていくような構造になっている。そこに、移ろいやすいさまざまな事象や社会の常識の変化、今だからわかる家族の関係とか・・

ということで、本来は一気に読み進むべき小説を、14,000字ずつ毎月読むという苦行になっていったわけだ。おそらく、作家にしても分断して書いたものは、全編に少しずつ手直しを入れて、場合によっては、ストーリーの並び替えなどを行ってから上梓するのだろうとは思うのだが、普通、連載で全部読んだ本を購入する気にはならないのだが、本作は例外になりそうだ。

最後の最後になるシメのところで、今は会えなくなった人物からの声が聞こえてくる。
「意見は言葉で出来てるけど・・・・思いは言葉になりにくいよね」


ところで、書評誌では、編集部が小山田浩子さんの第一作品集で、第30回織田作之助賞を受賞した『工場』を絶賛していて、合わせて第二作品集の『穴』が芥川賞候補作となっていることが記されている。そして、実際に芥川賞を受賞することになったのだが、あわてて書店に第一作品集を買いに行くと、書店員から「芥川賞を受賞したのは、そちらではなくこちらです」と余計なお小言で怒られそうである。