化石サルから日本人まで(鈴木尚著)

2014-01-08 00:00:22 | 書評
kasekisaru鈴木尚氏は化石人類学の大家である。本著の中では、ネアンデルタール人の本物の頭骨を金庫の中から取り出してもらって触ってみたくだりが書かれているが、超大家でないとそんなこと許されないのは自明なのだから、いわば「ささやかに自慢している」わけだ。

で、本著はわかりにくい題名なのだが、全編をまとめれば、「ネアンデルタール人考」である。この表現でのネアンデルタール人というのは、オランダのネアンデルタールで発見された人骨だけではなく、その同時代に広く世界に分布していた人たちのこと。

1971年の書で40年以上前なのだが、実はその時点から、色々と研究は進むものの、実はあまり決定打は出ていない。

もともと19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、世界中で人骨発掘がブームになり、このネアンデルタール人の仲間が見つかっていた。しかし、多くの点で、現在、唯一の人間族であるホモサピエンスと骨格が異なっていて、その二つの「人」が、どういう関係なのかがわかっていなかった。だいたい、ホモサピエンスよりも体格が一回り大きく、脳の容積も大きいのだから、簡単にやっつけられるとも思えない。ただし、喉の構造から言語を話す能力が劣っていたと考えられていて、集団戦争みたいなものが行われたのだろうか。

それにしても、20,000年ほど前に世界中にいたネアンデルタール人が絶滅したというのは、なかなか考えにくいわけだ。本著では、未開人種の中には、まだいるのではないかとも記載されているが、それは確認されていない。

当時の説は、世界中のネアンデルタール人が、住んでいる地域で進化してホモサピエンスになった、という説と、ネアンデルタール人を絶滅させるのに得意なグループが世界を席巻したというような説が中心だったようだ。

そして、その後の研究で、そのどちらも否定されているようだ。

つまり、ネアンデルタール人のDNAが解読されたということ。まず、ネアンデルタール人がホモサピエンスになったということは否定されたそうだ。そして、さらに人類(ホモサピエンス)の大移動の際、アフリカに残った民族以外の出アフリカ族(世界のほとんど)には、ネアンデルタール人の遺伝子が数%混ざっていると言われ始めた。さらに、その混血率が民族で異なるということらしい。

これは、アフリカ脱出が、大きく2回あったことと関係しているらしく、まだほとんど解明されていないようだ。つまり、簡単に混血可能なのかということに大きな疑問があることと、民族の移動の順序とか道筋とかに不明な点が多く、離れた場所に同じような民族が住んでいたりするからだ。


そして、20,000年というのは、それほど長い時間じゃないのだろうと思うわけで、現代の人間が、高い知能の割りに好戦的なのは、ネアンデルタール人を棍棒で殴り殺して、時には喰人していた名残なのだろうと思うのだが、この分野の研究って、なかなか倫理的に難しいのだろうと、うすうす感じたりする。