地獄のドバイ・M山政弘

2008-05-28 00:00:20 | 書評
3ff79b13.jpg一応、書評である。採図社という、あまり有名ではない出版社からの発行である。筆者のM山氏は29歳。国内の国立大学理学部を卒業したあと、どういうわけか、何種類かの仕事をしたあと、フリーター的になり、海外で就職しようとする。それも頭脳系ではなく、即席の寿司職人。実は、寿司職人など、簡単になれるわけないのだが、海外での日本食ブームもあり、一人前になるまで十年かかるというのを、僅か3週間の研修でやっつけるアカデミーがあるそうだ。

もちろん、国内で働けるわけもなく、卒業生の多くは海外に職を求める。とはいえ、海外の寿司バーにはあまり日本人職人はいない。

そして、M山氏はなぜか大産油国UAEに行く。実はUAEというのはアラブ首長国連合といって、何人かの王様が支配しているエリアの連合体である。うち有名なのが、ドバイとアブダビという二つの国。その中のドバイの方に行って、高級ホテルの『板さん』になろうとしたわけだ。

しかし、今や、ドバイは世界の金持ち達のホットプレースである。3週間のスクーリングで星のきらめくドバイレストラン戦争に参戦できるわけもなく、求職活動は不発に終わる。そのため、金策ついに尽き、あえなく日本に帰国か、という寸前に、親切な現地人が現れ、現地資本の肥料工場に就職が決まる。要はM山さんは、何でもいいわけだ。一流寿司職人への固い決意はすぐに破られる。

が、やっと肥料工場に勤めたものの、すぐにロングロング夏休みになり、オーナーは欧州方面に避暑に行ってしまい、豪華な庭園の芝生が枯れないように水やリの毎日になる。

そして、やっと、仕事が始まり、しばらく安月給で働いていると、突然、会社がなくなる。オーナーが肥料事業を清算してしまう。そして、M山さんの次なる運命は・・

拘置所送りになったわけだ。

要するに、UAEでは、特に悪いことをしたのではなくても、外国人は失業すると、捕まって拘置所に送られる。UAEにいるのが、観光か、ビジネスか。ビジネスならば、どこに勤めるか。勤めないのにビジネスで入国するのは犯罪、ということだ。

そして、劣悪な外国人拘置所内の生活が綿々と綴られる。

収容者の国籍は、主にパキスタン(200名以上)。そしてアフリカ勢、中国人2名、日本人1名だ。狭いスペース、臭い飯、不衛生、あふれる汚物、収容者同士の対立・・・

このあたりは、以前読んだシベリアでの強制収容所と同じだ。大きな違いは、それぞれの気温だろうか。

そして、何とか、劣悪な環境に適応し、やっとの思いで、大使館と連絡がとれ、脱出。(実は、僅か4日間だけ拘束されたようだ)

どうも、M山さんは、ドバイという華やかな都市の裏側に、外国人に対する劣悪な待遇を実感し、その差別性に抗議しよう、という意味でこの本を書いたのだろうか。


実は、かなり前(湾岸戦争前)の夏にドバイにもアブダビにも行ったことがある。本書を読んで感じたのは、ビルやホテルが近代化しても、本質的には当時と変ってない、というかさらに奴隷支配的な国家になってきたなあ、ということ。

そして、観光目的と仕事目的では受入国の対応がまったく違う、という世界の常識を知らないんだなあ、実は、日本でも同じなのに、ということ。成田空港には「Welcome Japan」の文字があふれるが、それは観光に限ってのことで、外国人が働こうとすると、大変なことになる。拘置所が汚いだけで、日本と同じじゃないかとも思えるわけだ。

日本は単純労働者の受け入れは行なっていないが、UAEは逆で単純労働者だけを外国人労働者として安い賃金で受け入れている。例えば、街路樹の水やリはスプリンクラーが中心だが、郊外になると、パキスタン人が水を撒いている。水が高いのだから、太い幹に育った街路樹のコストは高い。クルマを運転した場合、ぶつかるなら、街路樹ではなく水まきオジサンの方が補償金が安いと言われている。

M山氏は本書の末尾で、アフガニスタンで誘拐された大学生やイラクで殺害された学生のことに触れているが、「あなたこそ、また捕まりそうだ」とその無知を注意したいくらいだ。

UAEの隣にはもっと大きい産油国があるが、そこは、はるかに戒律が厳しい国で、首都の名所の一つが、公開処刑広場であり、また、灼熱の刑務所なのである。次作の題名が、「狂熱の刑務所、そして広場で・・」とならないように・・

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