早稲田大学の日向野幹也氏の著書である。
電通が出してゐる雑誌でこの方のインタビューを読み、「権限によらないリーダーシップ」といふ言葉を知つた。世の中で広く使はれてゐるリーダー論は、役職と権限とを持つリーダーはどうあるべきかといふことが大半である。現今の政治家に対する賛同も批判も、政治家として理想に照らしてそれぞれの人が批判してゐる文脈である。
しかし、それでは埒が明かない。それほどに社会の変化は激しく、一元的な指導体制で何もかも決めるといふことでは指示の的確さも実現の速度も問題が大きくなりすぎる。身近なところで言へば、あのアベノマスクの惨状たるやその好例である。あのやうなことを政府が決める必要はない。
日向野氏の言葉で特に力があつたのが、「不満を苦情として伝えるのは消費者。不満を提案に変えて持っていくのがリーダーシップ。」である。これに付け足す言葉はない。その通りである。当事者意識を持てとか、オーナーシップを持てとか言はれることの具体化である。
本書は、高校生でも読める極めて分かりやすい本である。実際に高校生活のなかでどう生かすべきかといふことも書かれてゐる。ご自身の研究での失敗談も書かれてゐる。また、どうやつてリーダーシップを発揮するかといふことと共に、うまくいかない時にどうするかも書かれてゐるので実践的でもある。物足りないなと思へば、巻末の参考文献に進めばいい。
権限がなくともその組織や集団を良くしたい、その組織を通じて社会にこのやうに貢献したいといふ思ひでもつてリーダーシップを取れる人物がゐる組織は大したものである。そして、さういふ人物は宝である。どうぞ人材などといふモノ化した言葉で表現しないでほしい。
さういふ人物を育てるのが、私たちの仕事である。