言葉の救はれ・時代と文學

言葉は道具であるなら、もつとそれを使ひこなせるやうに、こちらを磨く必要がある。日常生活の言葉遣ひを吟味し、言葉に学ばう。

『アパートの鍵貸します』を觀る

2011年08月10日 07時12分54秒 | 日記・エッセイ・コラム

 内田樹の文章の中に、ビリー・ワイルダー監督の映畫『アパートの鍵貸します』のことが書かれてゐたので、DVDを借りて觀た。これが面白かつた。モノクロ映像のモノラル音源で暗転もしばしばあつて現代映畫との違ひは映畫通ならずとも随所に見つけられるが、そのテンポの良さとウィットのセンスがとてもいい。内容は、ある独身男サラリーマンの話。上昇志向が強く、出世を目指すために、上司の情事に自分の部屋を貸す(ここからタイトルが名づけられた)。しかし、あるとき自分が好きになつた人が上司の情婦であることを知り、次第に内省が始まり、その情婦が自室で自殺未遂をしたためにかけつけた隣質の住人で醫者の男から言はれた「人間になれ」といふ言葉が決定的な動機を彼に與へることになる。

   Be a mensch ! menschとは、立派な人といふ意味である。

 この腑甲斐ない男はジャック・レモンが演じてゐるが、哀愁があつてとてもいい。内田は、「都會的で享樂的な生活のなかでぐずぐずと壞れてゆく主人公」と評してゐるが、私はさういふ切實な崩壞感は感じなかつた。もつと輕くて、乾いてゐて、何の躊躇いもなく出世だけに生き甲斐を見出して居ける男だからこそ、後半の哀愁が出て來るのだ。

 

  映畫の筋とは關係ないが、冷藏庫から冷凍食品が出て來たり、テレビのチャンネルがソファの横に置かれたスヰッチによつて變へることが出來たり、すでに60年代にはアメリカの消費生活はああいふところにあつたんだといふことを發見して驚いた。

アパートの鍵貸します』(原題: The Apartment)は、1960年制作のアメリカ映畫。同年のアカデミー賞で、作品賞、監督賞など5部門を受賞した。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする