きょう(9月6日)、海南島近現代史研究会は、神奈川県教育委員会高校教育指導課に「要望と質問」を郵送しました。その全文はつぎのとおりです。案文を書いたのは、長い間教師をしている海南島近現代史研究会の会員です。
■要望および質問
神奈川県教育委員会高校教育指導課さま
海南島近現代史研究会
連絡先 大阪府大東市中垣内3
大阪産業大学斎藤日出治研究室
不当な流言・介入に屈せず、教育現場の熱心な取組みを守り進めることを要望します。 2011年9月6日
記
本会は、海南島近現代史の研究・究明を目的として、2007年8月5日に結成され、活動も会員も国内外におよびます。
本会は、特に、日本が侵略した朝鮮・中国との負の歴史を正しく認識し、「前事不忘、後事之師」として平和友好の今日を築くことに努めております。
さて、『産経新聞』(2011年8月25日)の「日本史でハングル授業、横浜の県立高女性教諭を是正指導、『朝鮮人虐殺現場』見学企画も」という見出しの記事を読みました。
貴委員会高校教育指導課(以下、指導課と略称)が、当該教諭に対して是正指導をおこなったことを不当であるととらえ、当該教諭への是正指導を撤回され、教育現場の取組みを守り進めることを要望します。以下、その理由を述べます。
1 善隣友好を深めるすばらしい授業である
当該教諭が、ハングルを理解させるために「生徒に自分の名刺をハングルで作らせる授業」をしたことに、貴指導課は、「学習指導要領を発展させた授業を行う場合はあるが、今回は生徒や保護者、県民に疑義を持たれる行為だったと判断」とされています。電子メールがあっただけで、「生徒・保護者・県民に疑義を持たれた」と短慮に判断を下し、是正指導をおこないました。
「学習指導要領」でも重視する国際協調時代に、なぜ善隣友好の関係がある韓国のハングルについて知らせる教育的意義を、貴指導課は評価しないのでしょうか。
本会には、日本史の教師・研究者も所属しています。表意文字の漢字を受け入れた、日本と朝鮮が、それぞれ表音文字の仮名とハングルを作りだしたことで、民族の自主性を高め、それぞれ国風文化を発展させた、歴史の共通面を理解させることは大切です。
当該教諭は、ハングルをとりあげた背景として、「日朝貿易に関連して、輸入品の木綿についてハングルの発音のモクミョンが日本語と似ている事を教えたところ、生徒が関心を示した」と述べたと報道されています。
生徒の関心を大切にして発展学習を取り組むことは、授業展開の基本であり、貴指導課の要職にある者は高く評価すべきです。生徒が関心を示すのは、当然です。木綿・栽培技術は、朝鮮から伝来した物であり、中世の日朝貿易では、綿布は輸入品第一位でした。伝来された木綿が、日本で船帆・寝具・衣類に活用され、国民の生活・文化が大きく潤ったことは、貴指導課の方々もご存知と思います。
朝鮮語モクミョンが日本語モメンとなったことは、歴史家なら周知のことです。
学校現場では、この木綿とともに、日本から朝鮮へ伝来された薩摩(琉球)芋も取り上げます。薩摩芋の栽培によって、飢饉から日本と朝鮮の人びとが助けられた事実。朝鮮では、薩摩芋のことを、命を救ってくれた食物として、孝行芋(コグマ) と呼ぶ。このように、善隣友好関係が築かれていた時代の日朝関係を教えることは、教育的に大きな意義があります。
該当教師は、善隣友好を深める素晴らしい授業をされたと、私たちは判断します。
2 正しい歴史認識をつちかうことは教師の責務である
当該教諭が、夏休みに希望する生徒を対象におこなう夏期講習の一環で、「関東大震災時に起きた朝鮮人虐殺の現場の見学を校外学習として企画」したことに対しても、貴指導課は、「歴史事象に対して多様な考え方がある中で、一方的な解釈は望ましくない」として、是正指導をおこなったと報道されています。
日本の韓国「併合」による植民地支配の時代、関東大震災のさいに朝鮮人虐殺が起きた事は歴史的事実です。「学習指導要領」にもとづき文部科学省が実施する検定に合格した教科書にも、朝鮮人虐殺があったことは記述されています。
夏休みに発展学習・地域学習としてフィールドワークを希望者に企画したことは、熱心な教師として、貴指導課は当該教諭の取組みを支持すべき立場のはずです。
3 貴指導課の見解を正確に把握するための質問
① まず、「関東大震災のさいに起きた朝鮮人虐殺」に対する貴指導課の見解「歴史事象に対して多様な考えがある中で」についてうかがいます。
「多様な考え方」には、朝鮮人虐殺を否定する考えを含みますか。それは、いかなる文献にもとづいていますか。
また、「一方的な解釈」とは、朝鮮人虐殺を肯定する解釈でしょうか。説明してください。
② 貴指導課は、「校外学習は実行されなかったので教諭本人への指導や処分はしない」と話したと報道されています。
これは、希望者が出て、校外学習を実行していれば「本人への指導・処分をする」ということになります。
検定合格教科書にも記述された内容について、教師が、発展学習・校外学習をすることを不許可とした基準は何でしょうか。それは、「学習指導要領」にもとづく「教科書」以外の基準となりますが、お教えください。
③ 以上の要望・質問は、「産経新聞」という一商業紙のみの記事にもとづくため、貴指導課の見解・対処が正確に報道されていない点があるかもしれません。そのような点があればお教えください。
以上の三点の質問については、一週間以内に文書にてご返事いただきたく、お願いします。
最後に、貴指導課が、不当な流言・介入に対峙して、毅然として教育の自主性を貫かれることを期待します。
………………………………………………………………………………
『産経新聞』2011年8月25日
日本史でハングル授業 横浜の県立高校女性教諭是正指導 「朝鮮人虐殺現場」見学企画も
横浜市にある神奈川県立高校の地理歴史科の女性教諭が日本史の授業で生徒にハングルを教えていたことが24日、県教委への取材で分かった。県教委では授業は学習指導要領に定められたものといえず教育内容として不適切と判断。こうした授業をしないよう学校側を指導した。教諭はこのほか、「関東大震災のさいに起きた朝鮮人虐殺現場」を見学するよう企画し、生徒に参加を募っていたことも判明。県教委はこれも指導対象とした。
県教委によると、問題の授業があったのは昨年12月下旬、学期末試験終了後の2年生の「日本史B」の時間。1コマ45分を使って、生徒に自分の名刺をハングルで作らせる授業を2クラスで行ったという。
今年8月上旬、授業内容について県教委の考え方をただす電子メールがあり県教委が事実関係を確認。その結果、この教諭は日本史の授業でハングルを教えた以外にも夏休みに希望する生徒を対象に行う「夏期講習」の一環で「関東大震災時に起きた朝鮮人虐殺の現場」の見学を校外学習として企画。参加者を募っていたことも分かった。
この教諭は県教委に「日朝貿易に関連して、輸入品の木綿についてハングルの発音のモクミョンが日本語と似ていることを教えたところ、生徒が関心を示した。韓流のドラマなどもはやっていた」などと授業の背景を説明したが、県教委は「学習指導要領を発展させた授業を行う場合はあるが、今回は生徒や保護者、県民に疑義を持たれる行為だった」と判断。校外学習については希望生徒がおらず、実施しなかったが「歴史事象に対して多様な考え方がある中で、一方的な解釈は望ましくない」として、いずれも校長に対し口頭で指導した。これを受け、校長が教諭に是正を求めたという。
県教委は「校外学習は実行されなかったので教諭本人への指導や処分はしない」(高校教育指導課)と話す。
この教諭は通常、学習指導要領に基づく年間の授業計画で授業を進めているという。
■要望および質問
神奈川県教育委員会高校教育指導課さま
海南島近現代史研究会
連絡先 大阪府大東市中垣内3
大阪産業大学斎藤日出治研究室
不当な流言・介入に屈せず、教育現場の熱心な取組みを守り進めることを要望します。 2011年9月6日
記
本会は、海南島近現代史の研究・究明を目的として、2007年8月5日に結成され、活動も会員も国内外におよびます。
本会は、特に、日本が侵略した朝鮮・中国との負の歴史を正しく認識し、「前事不忘、後事之師」として平和友好の今日を築くことに努めております。
さて、『産経新聞』(2011年8月25日)の「日本史でハングル授業、横浜の県立高女性教諭を是正指導、『朝鮮人虐殺現場』見学企画も」という見出しの記事を読みました。
貴委員会高校教育指導課(以下、指導課と略称)が、当該教諭に対して是正指導をおこなったことを不当であるととらえ、当該教諭への是正指導を撤回され、教育現場の取組みを守り進めることを要望します。以下、その理由を述べます。
1 善隣友好を深めるすばらしい授業である
当該教諭が、ハングルを理解させるために「生徒に自分の名刺をハングルで作らせる授業」をしたことに、貴指導課は、「学習指導要領を発展させた授業を行う場合はあるが、今回は生徒や保護者、県民に疑義を持たれる行為だったと判断」とされています。電子メールがあっただけで、「生徒・保護者・県民に疑義を持たれた」と短慮に判断を下し、是正指導をおこないました。
「学習指導要領」でも重視する国際協調時代に、なぜ善隣友好の関係がある韓国のハングルについて知らせる教育的意義を、貴指導課は評価しないのでしょうか。
本会には、日本史の教師・研究者も所属しています。表意文字の漢字を受け入れた、日本と朝鮮が、それぞれ表音文字の仮名とハングルを作りだしたことで、民族の自主性を高め、それぞれ国風文化を発展させた、歴史の共通面を理解させることは大切です。
当該教諭は、ハングルをとりあげた背景として、「日朝貿易に関連して、輸入品の木綿についてハングルの発音のモクミョンが日本語と似ている事を教えたところ、生徒が関心を示した」と述べたと報道されています。
生徒の関心を大切にして発展学習を取り組むことは、授業展開の基本であり、貴指導課の要職にある者は高く評価すべきです。生徒が関心を示すのは、当然です。木綿・栽培技術は、朝鮮から伝来した物であり、中世の日朝貿易では、綿布は輸入品第一位でした。伝来された木綿が、日本で船帆・寝具・衣類に活用され、国民の生活・文化が大きく潤ったことは、貴指導課の方々もご存知と思います。
朝鮮語モクミョンが日本語モメンとなったことは、歴史家なら周知のことです。
学校現場では、この木綿とともに、日本から朝鮮へ伝来された薩摩(琉球)芋も取り上げます。薩摩芋の栽培によって、飢饉から日本と朝鮮の人びとが助けられた事実。朝鮮では、薩摩芋のことを、命を救ってくれた食物として、孝行芋(コグマ) と呼ぶ。このように、善隣友好関係が築かれていた時代の日朝関係を教えることは、教育的に大きな意義があります。
該当教師は、善隣友好を深める素晴らしい授業をされたと、私たちは判断します。
2 正しい歴史認識をつちかうことは教師の責務である
当該教諭が、夏休みに希望する生徒を対象におこなう夏期講習の一環で、「関東大震災時に起きた朝鮮人虐殺の現場の見学を校外学習として企画」したことに対しても、貴指導課は、「歴史事象に対して多様な考え方がある中で、一方的な解釈は望ましくない」として、是正指導をおこなったと報道されています。
日本の韓国「併合」による植民地支配の時代、関東大震災のさいに朝鮮人虐殺が起きた事は歴史的事実です。「学習指導要領」にもとづき文部科学省が実施する検定に合格した教科書にも、朝鮮人虐殺があったことは記述されています。
夏休みに発展学習・地域学習としてフィールドワークを希望者に企画したことは、熱心な教師として、貴指導課は当該教諭の取組みを支持すべき立場のはずです。
3 貴指導課の見解を正確に把握するための質問
① まず、「関東大震災のさいに起きた朝鮮人虐殺」に対する貴指導課の見解「歴史事象に対して多様な考えがある中で」についてうかがいます。
「多様な考え方」には、朝鮮人虐殺を否定する考えを含みますか。それは、いかなる文献にもとづいていますか。
また、「一方的な解釈」とは、朝鮮人虐殺を肯定する解釈でしょうか。説明してください。
② 貴指導課は、「校外学習は実行されなかったので教諭本人への指導や処分はしない」と話したと報道されています。
これは、希望者が出て、校外学習を実行していれば「本人への指導・処分をする」ということになります。
検定合格教科書にも記述された内容について、教師が、発展学習・校外学習をすることを不許可とした基準は何でしょうか。それは、「学習指導要領」にもとづく「教科書」以外の基準となりますが、お教えください。
③ 以上の要望・質問は、「産経新聞」という一商業紙のみの記事にもとづくため、貴指導課の見解・対処が正確に報道されていない点があるかもしれません。そのような点があればお教えください。
以上の三点の質問については、一週間以内に文書にてご返事いただきたく、お願いします。
最後に、貴指導課が、不当な流言・介入に対峙して、毅然として教育の自主性を貫かれることを期待します。
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『産経新聞』2011年8月25日
日本史でハングル授業 横浜の県立高校女性教諭是正指導 「朝鮮人虐殺現場」見学企画も
横浜市にある神奈川県立高校の地理歴史科の女性教諭が日本史の授業で生徒にハングルを教えていたことが24日、県教委への取材で分かった。県教委では授業は学習指導要領に定められたものといえず教育内容として不適切と判断。こうした授業をしないよう学校側を指導した。教諭はこのほか、「関東大震災のさいに起きた朝鮮人虐殺現場」を見学するよう企画し、生徒に参加を募っていたことも判明。県教委はこれも指導対象とした。
県教委によると、問題の授業があったのは昨年12月下旬、学期末試験終了後の2年生の「日本史B」の時間。1コマ45分を使って、生徒に自分の名刺をハングルで作らせる授業を2クラスで行ったという。
今年8月上旬、授業内容について県教委の考え方をただす電子メールがあり県教委が事実関係を確認。その結果、この教諭は日本史の授業でハングルを教えた以外にも夏休みに希望する生徒を対象に行う「夏期講習」の一環で「関東大震災時に起きた朝鮮人虐殺の現場」の見学を校外学習として企画。参加者を募っていたことも分かった。
この教諭は県教委に「日朝貿易に関連して、輸入品の木綿についてハングルの発音のモクミョンが日本語と似ていることを教えたところ、生徒が関心を示した。韓流のドラマなどもはやっていた」などと授業の背景を説明したが、県教委は「学習指導要領を発展させた授業を行う場合はあるが、今回は生徒や保護者、県民に疑義を持たれる行為だった」と判断。校外学習については希望生徒がおらず、実施しなかったが「歴史事象に対して多様な考え方がある中で、一方的な解釈は望ましくない」として、いずれも校長に対し口頭で指導した。これを受け、校長が教諭に是正を求めたという。
県教委は「校外学習は実行されなかったので教諭本人への指導や処分はしない」(高校教育指導課)と話す。
この教諭は通常、学習指導要領に基づく年間の授業計画で授業を進めているという。