「The Hankyoreh」 2023-12-30 07:22
■[2023韓国10大ニュース]民生差し置いた理念論争、「安全ピン」外れた南北関係
【写真】ソウル龍山区の国防部庁舎前にある洪範図将軍の胸像/聯合ニュース
1.洪範図将軍の胸像撤去推進、「歴史クーデター」の物議
今年燃え上がった陸軍士官学校内の洪範図(ホン・ボムド)将軍の胸像撤去論争は、理念を前面に掲げた尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が起こした「平地風波」だっ<msreadoutspan class="msreadout-line-highlight">た。そのままにしておけば何の問題もないことを、わざと事を<msreadoutspan class="msreadout-word-highlight">起こし</msreadoutspan>て騒ぎ立てたの</msreadoutspan>だ。
昨年10月、国会国防委員会の国防部の国政監査で、当時シン・ウォンシク議員(国民の力)が洪範図将軍の胸像撤去を初めて主張した。しばらく静かだったこの問題は8月以後、突如として尹錫悦政権の中心課題のようになった。尹大統領は8月15日の光復節記念演説でだしぬけに「共産全体主義を盲従し操作・扇動で世論を歪曲し、社会をかく乱する反国家勢力がいまだに横行している」と主張した。10日後の8月25日、陸軍士官学校は校内に設置された独立戦争の英雄・洪範図、金佐鎮(キム・ジャジン)、池青天(チ・チョンチョン)、李範ソク(イ・ボムソク)将軍と新興武官学校設立者の李会榮(イ・フェヨン)氏の胸像を撤去し、外部に移すと明らかにした。
洪将軍の胸像撤去論議が加熱した8月28日、尹大統領は与党「国民の力」の国会議員研さん会を訪れ、「最も重要なのは理念だ。時代遅れの理念ではなく、国をきちんと導いていけるような哲学がまさに理念だ」と強調した。尹錫悦政権が歴史戦争と理念政治を宣言すると、国防部は「ソ連の共産党員だった洪将軍の胸像を、北朝鮮の共産主義に対抗する将校を育成する陸軍士官学校に置くことはできない」と主張した。光復会などと野党は「洪範図将軍の胸像撤去は独立運動をけなし、国軍の歴史的正統性を否定する反憲法的な措置だ」と反発したが、国防部は耳を貸さなかった。胸像問題は、海軍の潜水艦「洪範図」の艦名変更、国防部前の洪範図将軍の胸像撤去、陸軍士官学校の名誉卒業証書問題へと膨らんだ。
10月、ソウル江西(カンソ)区長補欠選挙で国民の力が敗北した後、尹大統領が民生(国民の暮らし)問題を強調しはじめ、国防部の動きも静まった。シン・ウォンシク国防部長官は先月、「(洪将軍の胸像移転は)年内には難しいと予想している。国民を説得する過程も思ったより時間がかかり、国家報勲部で準備しなければならない事項もある」と述べた。洪将軍の胸像撤去論争が、尹錫悦政権の理念偏向の象徴のように人々の脳裏に深く刻まれた後に出た話だ。
クォン・ヒョクチョル記者
7月19日午前、慶尚北道醴泉郡のオチョン橋付近で海兵隊の将兵1人が捜索作業中に急流に流され行方不明になった。消防当局がヘリコプターとボートを動員して将兵を捜索している=ペク・ソア記者//ハンギョレ新聞社
2.海兵隊上等兵殉職捜査、政府・大統領室の外圧疑惑
7月19日、慶尚北道醴泉(イェチョン)の乃城川(ネソンチョン)で、海兵隊のC上等兵が豪雨による行方不明者の捜索をしていたところ急流に流され死亡した。当時C上等兵には救命胴衣が支給されていなかった。海兵隊捜査団長だったパク・チョンフン大佐は、安全対策なしに行方不明者の捜索作戦を行ったことには当時イム・ソングン海兵隊第1師団長の「無理な指示」があったとみて、イム師団長の容疑を含ませた。イ・ジョンソプ国防部長官(当時)もこのような内容が書かれた調査報告書を7月30日に決裁した。その後「イム師団長などを容疑者から除外せよ」という趣旨の外圧が入り始めた。捜査団は外圧を感じながらも、8月2日に事件を警察に移牒した。すると国防部は、直ちに事件記録を回収し、パク大佐を集団抗命の首謀者の疑いで立件した。このような外圧の背景には尹錫悦大統領がいるという疑惑も出ている。
チョン・ファンボン記者
7月18日、教員が自ら命を絶ったソウル市瑞草区のある小学校の入り口に故人を追悼するメッセージと花が置かれている=ユン・ウンシ先任記者//ハンギョレ新聞社
3.「教権」の墜落、崖っぷちの「学生人権条例」
7月18日、ソウル瑞草区(ソチョグ)のある小学校の教員が自ら命を絶った。保護者のパワハラが原因だという疑惑が持ちあがった。教員たちは、学校現場で保護者の悪性クレームに苦しめられた自分たちの経験を投影し対策作りを訴えた。7月22日からソウルの光化門(クァンファムン)や国会前で開かれた土曜集会に毎回数万人の教員が集まった。教員たちは故人の四十九日となる日の9月4日を「公教育ストップの日」に指定し、集団で年次休暇・病気休暇を出してデモに乗り出す闘争も行った。教員たちの要求により、教員の正当な生活指導を守り学校長の責務などを明示した「教権保護4法」が9月に国会で可決された。一方、教権(教員の権威、権限、教える権利)が損なわれた背景として「学生人権条例」(生徒の尊厳や自由を保障するために制定された各自治体あるいは市・道教育庁の条例)が指摘され、各地方議会で学生人権条例廃止の動きが起きたりもした。
パク・コウン記者
8月3日午後、全羅北道扶安郡のセマングム世界スカウトジャンボリーのデルタ区域で暑さに疲れたスカウト隊員たちが休憩を取っている/聯合ニュース
4.準備不足で難航したセマングムジャンボリー
8月1日、全羅北道扶安(プアン)のセマングム干拓地で開幕した「2023世界スカウトジャンボリー」が、猛暑と準備不足により行事初日から難航したうえに、台風6号(カーヌン)の接近で開幕から1週間たった8日に事実上早期閉幕した。約150カ国から4万人を越える人員が参加した大規模な国際行事だったが、準備状態は文字通り「不足だらけ」だった。大雨でキャンプ場が水浸しになり、虫刺され事故が相次いだなか、日陰のない干拓地のキャンプ場では熱中症患者が続出。トイレやシャワー室などの劣悪な衛生状態はSNSを通じて全世界に広がった。準備不足を叱責する世論が広がると、女性家族部など中央政府と管轄自治体である全羅北道の間で責任のなすりつけが起こり、行事が進められたセマングム干拓地のSOC(社会資本)事業費が大幅に削減された。
パク・イムグン記者
【写真】12月14日、キムパプ(海苔巻き)の価格(3000ウォン~5000ウォン)が表示されたソウル中区のあるキムパプ専門店の前を市民が通りがかっている/聯合ニュース
5.高物価・高金利にうめく庶民
今年1年間、庶民は高物価・高金利のために厳しい時間を送った。消費者物価の上昇率は昨年7月に6.3%(前年比)まで高騰し、今年に入って少しずつ下がる傾向をみせた。だが依然として3%台の高い水準を示している。韓国銀行は来年末または2025年上半期になれば物価上昇率が2.0%に下がるとみている。物価高の苦痛は続いているということだ。このような中、各国の中央銀行が物価高を抑えるために政策金利を急速に引き上げ、各家計では借金の元利金返済の負担も同時に増えている。今年下半期、4大銀行の住宅担保融資の変動金利の上段は年7%を突破し、信用融資金利の上段も6%台後半まで跳ね上がった。統計庁の家計金融福祉調査によれば、昨年1年間で各世帯が支払った貸付利子は平均247万ウォン(約27万円)。今年の年間利子はこれよりさらに増える可能性がある。
チョン・スルギ記者
【写真】12月18日、北朝鮮が発射した固体燃料の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星18型」/聯合ニュース
6.南北、「9・19合意」以前の緊張関係へ
2018年の南北首脳会談で結ばれ、軍事的衝突を防ぐ「平和安全弁」の役割を果たしてきた9・19南北軍事合意が全面的に無効化された。北朝鮮は今年だけで「火星15型」(2月18日)、「火星17型」(3月16日)、「火星18型」(4月13日、7月12日、12月18日)の5回の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を試験発射した。特に、北朝鮮は3回にわたって火星18型を発射し、固体燃料基盤のICBMを事実上戦力化したという評価を受けた。11月21日には、北朝鮮が初の軍事偵察衛星を打ち上げた。韓国はこれに対応して、軍事境界線一帯に戦闘機・偵察機などの飛行禁止区域を設定した9・19軍事合意の一部条項を効力停止し、北朝鮮は直ちにこの合意の全面無効化を宣言した。南北は9・19軍事合意以前の緊張関係に戻った。
シン・ヒョンチョル記者
【写真】10月11日、ソウル江西区長補欠選挙に出馬した共に民主党のチン・ギョフン候補が当選確実となり、麻谷洞の事務所で配偶者のパク・ウンジ氏と共に親指を立てるポーズを取っている/聯合ニュース
7.江西区長補欠選挙で惨敗の与党
与党「国民の力」は10月11日のソウル江西区長補欠選挙で17.15ポイント差で惨敗し、荒波に包まれた。イン・ヨハン氏を委員長とした「革新委員会」は、党指導部・重鎮・親尹錫悦派の議員らの来年4月の総選挙不出馬、または当選の厳しい地域への出馬を要求したが、当事者たちは即答しなかった。革新委が「手ぶら」で解散した直後、「元祖尹核関(尹大統領の核心関係者)」と呼ばれるチャン・ジェウォン議員が総選挙不出馬を宣言し、局面が急変した。勇退論を拒否してきたキム・ギヒョン前代表は、尹錫悦大統領の不出馬の要求すらも拒否し代表職を辞任した。国民の力は非常対策委員会体制で総選挙を行うことにし、ハン・ドンフン前法務部長官を非常対策委員長に投入した。イ・ジュンソク元代表の辞任、キム・ギヒョン代表の当選、ハン・ドンフン非常対策委員長の救援登板まで、すべてが「尹大統領の意向」どおり着々と進んだ。
ソン・ヒョンス記者
【写真】9月27日、共に民主党のイ・ジェミョン代表が、裁判所の拘束令状棄却決定後、ソウル拘置所を出て発言している/聯合ニュース
8.民主党のイシューをすべてさらった「イ・ジェミョン代表リスク」
2023年の最初から最後まで、野党「共に民主党」の唯一のキーワードは「イ・ジェミョン」だった。1月10日の「城南FC後援金疑惑」呼び出し調査→2月27日の1回目の逮捕同意案否決→9月21日の2回目の逮捕同意案可決に至るまで、イ・ジェミョン代表に向けられた捜査は民主党のすべてのイシューを飲み込む勢いだったた。イ代表は「民主主義守護」を掲げて行った24日間のハンガーストライキと裁判所の拘束令状棄却(9月27日)、ソウル江西区長補欠選挙の勝利(10月11日)で、再跳躍の足場を固めたようにみえた。しかしその後、刷新と対話に消極的な姿を見せ、イ・ナギョン元首相が年明けの新党結成を示唆し、再び試験台に立つことになった。党内の非主流の一部とイ・ナギョン元首相は、イ・ジェミョン代表の退陣を前提にした非常対策委員会の構成を要求している。
オム・ジウォン記者
【写真】9月14日、検察の職員らが「キム・マンベ-シン・ハンニム録音記録」を報道した独立系メディア「ニュース打破」の家宅捜索のためにソウル中区の事務所に向かっている=ユン・ウンシク先任記者//ハンギョレ新聞社
9.尹錫悦政権「全方位メディア掌握」本格化
今年一年、マスコミ業界は言論弾圧論で常に騒がしかった。尹錫悦大統領は5月、検察起訴を口実にハン・サンヒョク放送通信委員長を免職したのに続き、8月にチョン・ヨンジュ放送通信審議委員長を解任した。2人とも文在寅(ムン・ジェイン)政権で任命された人物だ。放通委の人員構成を変えた政府はこれを踏み台に、テレビ受信料分離徴収や、韓国放送(KBS)・文化放送(MBC)の取締役会および経営陣の交替、YTNの民営化など、公共放送の根幹を揺るがす政策を推進した。放送通信審議委員会は、独立系メディア「ニュース打破」の「キム・マンベ録音記録」報道を口実に政権に不利な報道に「フェイクニュース」のレッテルを貼り、「政治審議」との論争を招いた。MBC・京郷新聞などの報道機関と所属記者に対する検察の強引な家宅捜索も問題になった。野党とメディア団体はこれに対抗し、公共放送の支配構造改善を主な内容とする放送3法の国会本会議処理を通したが、これすらも尹大統領の拒否権行使によって結局廃棄となった。
チェ・ソンジン記者
8月24日午前、ソウル市の冠岳山の麓で開かれた「公園女性殺害事件被害者追悼および女性暴力放置国家糾弾緊急行動」に市民たち集まり、故人を追悼している=キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社
10.殺害・性的暴行…絶えない「女性対象犯罪」
今年5月、ソウル市の衿川区始興洞(クムチョング・シフンドン)で30代の男性が元交際相手を殺害した。別れの通知を受けて暴力を振るい、警察に通報されたため「報復殺害」をしたという。警察は女性が通報したにもかかわらず保護措置を取らなかった。2カ月後、仁川市の論ヒョン洞(ノンヒョンドン)で30代の男性が元交際相手をストーキングして殺害した。裁判所が下した接近禁止命令は効果を果たさなかった。8月、ソウル市の新林洞(シンリムドン)で出勤途中の女性が性的暴行を受けた後に殺された。見ず知らずの犯人であるチェ・ユンジョン(身元公開)は、単に「強姦したかった」と述べた。また、11月には慶尚南道晋州市(チンジュシ)のコンビニの女性スタッフが20代男性から突然暴行を受けた。「ショートヘア=フェミニスト」であり「フェミニストは殴られて当然だ」と語った。今年も女性を対象にした暴力事件が絶えなかった。法の死角地帯の中、女性たちは今日も「たまたま生き残ったにすぎない」と実感している。
オ・セジン記者
(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
韓国語原文入力:2023-12-26 09:57